火山と地震にかんする読書ガイド
もくじ
1.火山と火山防災の入門書
2.地震・津波の基礎と防災の入門書
3.予知と防災を広く考える上で参考になる本
4.さらに詳しく勉強したい人のために
5.地震・火山の辞典と資料集
6.プレートテクトニクスと日本列島
7.地震・火山・地球科学および関連災害を題材にした文学・芸術作品(他のお薦め作品も含む)
8.明解な日本語を書くために
(第1節と第2節の中では,やさしいものから難しいものへと並べました.価格はすべて本体価格です)
最新更新日:2015.8.6
1.火山と火山防災の入門書
- 富士山ふん火のひみつ(えほん) 小山真人(著,2003年)文渓堂てのひら文庫 130円
火山としての富士山の自然を小学生に向けてやさしく解説.もくじ:江戸時代に起きた大ふん火/よう岩がつくった富士五湖/生きている地下のマグマ/富士山のふん火に備える/富士山はどのように成長したのか/火山のめぐみとわたしたちのくらし.教材扱いなので出版社に直接注文する必要あり.
- セクターコラプス-富士山崩壊- 石黒耀(原作)・光原伸(画)・小山真人(監修)2008年 集英社 1200円(「富士山崩壊」と改題され新版もあるが、解説ページが省略されている。857円)
富士山噴火をテーマとした漫画.後述の小説「昼は雲の柱」の漫画版という位置づけだが,ストーリーや登場人物は若干異なり,しかも気象庁が2007年末に導入した噴火警報と噴火警戒レベルに対応した修正がなされている.
- 火山の大研究(児童書) 鎌田浩毅(監修,2007年)PHP研究所 2800円
テレビでおなじみ「火山の伝道師」の鎌田先生が監修、火山のすべてをカラーで大図解.ほとんど頭を使わずに,火山のしくみから危険性や恵みまでがひととおり理解できる.小学生から大人まで楽しめる.
- Q&A日本は沈む? 山岡耕春(著,2007年)理工図書 1400円
映画「日本沈没」(リメーク版,2006年)を題材として,
映画の科学監修者のひとりであった山岡さんが特設ホームページに直接寄せられた疑問にわかりやすく回答.地震・火山と最新地球科学の良い入門書にもなっている.
- 火山と地震の事典 藤井敏嗣(著,1992年)大日本図書 580円
現火山噴火予知連絡会長・火山学会長が書いた火山の入門書.「事典」とあるが,実際には読み物.わかりやすく,バランスのとれた内容.小学生〜高校生向き.
- 世界一おいしい火山の本 林 信太郎(著,2006年)小峰書店 1500円
火山のしくみやできかたについて,この上なくわかりやすく学べる本.ココアやアイスクリームなどの食材を使った実験例が豊富な図解で示されている.小学校から高校生向き.
2007年の第53回青少年読書感想文の課題図書(中学校の部)に選定された. - 死都日本 石黒 耀(著,2002年)講談社 2300円
日本列島全体で1万年に1度程度しか起きないはずの巨大噴火が現実に南九州で起きてしまった時,どのような現象が起き,日本社会がどう対応するかを精密にシミュレートした近未来小説.息もつかせぬ展開で,読み始めたら止められなくなる.この作品を題材としたシンポジウムが2003年と2004年に開催され,報告書も出版された.「カグツチ」として漫画化され,少年マガジンで連載された.映画化の構想もある.
- 富士覚醒 石黒 耀(著,2011年),小山真人(科学監修)講談社文庫 857円
富士山が噴火を始め,それが想定外の大災害を引き起こす結果に至った時に,地元の人々と日本社会がそれにどう対応するかをシミュレートした近未来小説.噴火現象の細かな様相や,現実の富士山のハザードマップと防災対策ガイドラインにもとづく対策が描かれた場面は,富士山の火山対策の副教材として使用できるリアルさをもつ.2006年刊「昼は雲の柱」の文庫版であり、2008年秋には漫画版「セクターコラプス-富士山崩壊-」も出版された.
- 火山に魅せられた男たち 噴火予知に命がけで挑む科学者の物語 ディック・トンプソン(著)山越幸江(訳)(2003年) 2400円
セントヘレンズ火山の1980年噴火やピナツボ火山の1991年噴火にアメリカの火山学者たちがいかに立ち向かったか.科学者同士および科学者と社会との葛藤を描くノンフィクション.
- 富士山の噴火 万葉集から現代まで つじ よしのぶ(著,1992年)築地書館 2400円(2013 年に「富士山 噴火の歴史」と改題された新版が出たが、中身はほとんど同じ.価格も同じ)
古文書から富士火山の噴煙の消長の歴史を編み上げる話.大阪弁もまじえた平易な語り口で読みやすい.産経新聞の連載記事がベース.
- 富士山 大自然への道案内 小山真人(著,2013年)岩波新書 900円
火山としての富士山のみどころをガイドブックの形でまとめた本.最新の基礎知識や学術的成果までを含めた解説.
- 伊豆の大地の物語 小山真人(著,2010年)静岡新聞社 1646円
伊豆半島とその周辺の大地をつくった火山・地震・津波・地殻変動などの2000万年前から現代までストーリーを1テーマ2ページでわかりやすくまとめたもの.伊豆新聞の連載記事がベース.
- 自然災害からいのちを守る科学 川手新一・平田大二(著,2013年)岩波ジュニア新書 840円
地震・火山災害と気象災害の基礎と防災についてやさしく学べる.
- 天災から日本史を読みなおす 磯田道史(著,2014年)中公新書 760円
気鋭の若手歴史学者が地震・津波・噴火・気象災害・土砂災害の新史料を発掘して解説.天正地震,文禄伏見地震,宝永地震と宝永噴火などを始めとする歴史時代の自然災害の実像に迫る.
- 歴史の中の大地動乱 奈良・平安の地震と天皇 保立道久(著,2012年)岩波新書 820円
地震と火山噴火に興味をもった歴史学者によるユニークな解説と考察.歴史好きにお勧め.
- 火山に強くなる本 火山防災用語研究会(編,2003年)山と渓谷社 1200円
火山学と火山防災に関する基礎的な事項をわかりやすく説明している.全ページカラーでとっつきやすい.ただし,全体的にあっさりし過ぎていて,物足りない点や抜けている点が目立つ.
- 破局噴火 秒読みに入った人類最後の日 高橋正樹(著,2008年)祥伝社新書 780円
「死都日本」で描かれたカルデラ超巨大噴火に関する科学的解説書.死都日本と併せて読むとよい.
- Q&A火山噴火 日本列島が火を噴いている! 日本火山学会(編,2001年)講談社ブルーバックス 860円
一般市民・生徒からの素朴な質問に一線級の火山学者たちが直接回答した本.日本火山学会のホームページにあるQ&Aコーナーに掲載されたものから編集.ただし,修正しきれていない勘違いや間違いが多少ある.
- 富士山大噴火が迫っている!最新科学が明かす噴火シナリオと災害規模 小山真人(著,2008年)技術評論社 1580円
火山学の基礎から富士山の噴火史と火山防災までをやさしく解説.過激なタイトルは出版社がつけたもので,必ずしも著者の本意ではない.
- 地震と噴火は必ず起こる 大変動列島に住むということ 巽好幸(著,2012年)新潮選書 1200円
超一流のマグマ学者の著者が地震・火山・全地球ダイナミクスの基礎を解説しつつ日本列島の自然との向き合い方を考察.
- 火山噴火 予知と減災を考える 鎌田浩毅(著,2007年)岩波新書 780円
数々の火山入門書を手がけてきた鎌田さんが,やや上のレベルの入門書を完成.火山学と火山防災のツボを押さえる.火山防災に携わるすべての立場の人にお勧め.
-
富士山の謎をさぐる 富士火山の地球科学と防災学 日本大学文理学部地球システム科学教室(編,2006)築地書館 2400円
火山としての富士山についての,ここ数年間の最新の研究成果がわかりやすく解説されている.
- 大火砕流に消ゆ 江川紹子(著,1992年)文芸春秋 1400円
1991年6月3日の雲仙普賢岳大火砕流でなぜ大勢の犠牲者が出たかを,ジャーナリストの視点から追及した名著.
加筆されて2004年に新風舎文庫から再版された.
- 桜島噴火記 住民ハ理論ニ信頼セズ... 柳川喜郎(著,1984年)日本放送出版協会 1500円(南方新社から復刻版1800円、2014年発売)
近代国家としての歩みをはじめたばかりの日本を襲った未曾有の大災害―大正3年桜島噴火の様相を克明にえがく.予知情報伝達の失敗,噴火にともなう大地震,跋扈するデマと混乱など.噴火予知と情報伝達の問題を深く考えさせられる.
- 有珠山 火の山とともに 岡田弘(著,2008年)北海道新聞社 1900円
有珠山の2000年噴火を予知し、住民を守った一人の偉大な火山学者の半生記.
- フィールドガイド日本の火山 II 高橋正樹・小林哲夫(編,1998年) 築地書館 2100円
日本各地の火山の野外見学ガイドブックのシリーズ.第II巻(関東・甲信越の火山2)は富士山・箱根・東伊豆・伊豆七島などの火山を扱っている.
- 新版地学教育講座2 地震と火山 安藤雅孝ほか(地震)・早川由紀夫(火山)(著,1996年)東海大学出版会 2500円
初学者のための地震と火山の入門書.とくに火山部分の内容は類書にはみられない斬新なもの.
- 地震・津波と火山の事典 東京大学地震研究所(監修)藤井敏嗣・纐纈一起(編,2008年)丸善 6500円
地震・津波・火山に関する最先端の成果を項目毎に解説.辞書風ではなく,全ページカラーの読み物風になっていて基礎知識を短時間で学べる.
2.地震・津波の基礎と防災に関する入門書
- モグラはかせの地震たんけん(えほん) 松岡達英(作・絵,2006年) ポプラ社 1300円
モグラ博士が,地球の成り立ち・歴史・構造に始まり,プレートテクトニクス・プルームテクトニクス,日本列島の地下構造,地震・火山のしくみと災害,地震・火山の恵みについて語る.壮大なストーリーがわずか40ページの絵本に見事に集約されている.
- 津波ものがたり(えほん) 山下文男(著,1990年) 童心社 1300円
津波の性質と恐ろしさを語るすぐれた絵本.
三陸地方を襲った3つの津波(明治三陸津波,昭和三陸津波,チリ地震津波)が題材.
- 3.11が教えてくれた防災の本2:津波(児童書) 片田敏孝(監修,2012年)かもがわ出版 2500円
津波の基礎から防災までをやさしく解説.
- 地震のはなしを聞きに行く 父はなぜ死んだのか(児童書)須藤文音(文)下河原幸恵(絵)2013年 偕成社 1400円
3.11震災の被災者である著者が,災害の正体と向き合うために3人の学者(松澤暢,寒川旭,河田恵昭)を訪ねる.
- 巨大地震をほり起こす 大地の警告を読みとくぼくたちの研究(児童書) 宍倉正展(著,2012年)少年写真新聞社 1500円
歴史時代・先史時代の地震・津波研究で名高い筆者が児童生徒向けに研究の面白さや成果をわかりやすく執筆.
- 生き延びるための地震学入門 上大岡トメ・上大岡アネ(著,2011年)幻冬舎 1200円
対話調で地震の基礎をやさしく学べる異色の書.第二著者は地震学者の久家慶子さん.
- 地震のすべてがわかる本 土井恵治(監修,2005年) 成美堂出版 1300円
地震・津波の発生メカニズムから地震・津波災害とその予測まで最新の知識を学べる.全ページカラー.
- 自然災害からいのちを守る科学 川手新一・平田大二(著,2013年)岩波ジュニア新書 840円
地震・火山災害と気象災害の基礎と防災についてやさしく学べる.
- 天災から日本史を読みなおす 磯田道史(著,2014年)中公新書 760円
気鋭の若手歴史学者が地震・津波・噴火・気象災害・土砂災害の新史料を発掘して解説.天正地震,文禄伏見地震,宝永地震と宝永噴火などを始めとする歴史時代の自然災害の実像に迫る.
- 大地の躍動を見る 新しい地震・火山像 山下輝夫(編著,2000年)岩波ジュニア新書 740円
地震学・火山学の研究最前線や最近のトピックスを中学生〜高校生向けにやさしく解説した本.
- Q&A日本は沈む? 山岡耕春(著,2007年) 理工図書 1400円
映画「日本沈没」(リメーク版,2006年)を題材として, 映画の科学監修者のひとりであった山岡さんが特設ホームページに直接寄せられた疑問にわかりやすく回答.地震・火山と最新地球科学の良い入門書にもなっている.
- 関東大震災 吉村 昭(著,1973年) 文春文庫 570円
1923年関東地震とは何であったかを知るためのもっともすぐれた解説書.物語調でよみやすい.予知にまつわる科学者間の葛藤,被害の悲惨さ,地震直後のパニックから起きた朝鮮人虐殺事件等を赤裸々に描く.
2004年に新装版が出た.
- 関東大震災を予知した二人の男 大森房吉と今村明恒 上山明博(著,2013年)産経新聞出版
明治から昭和初期に活躍した日本の地震学の偉大な先駆者2人に関する貴重な伝記.物語調で読みやすい.
- 三陸海岸大津波 吉村 昭(著,1984年) 中公文庫 460円
日本を襲った3大地震津波,1896年と1933年の三陸地震津波,1960年チリ地震津波のドキュメンタリー.とくに22000人あまりが死んだ明治三陸地震津波の教訓は心して読まねばならない.
2004年に新装版が出た.
- 地震予知の幻想 地震学者たちが語る反省と限界 黒沢大陸(著,2014年)新潮社 1400円
朝日新聞編集委員の黒沢さんがこれまで記事として描いてきた原稿を加筆・編集して1冊のわかりやすいドキュメンタリーにまとめた.
- 超巨大地震に迫る 日本列島で何が起きているのか 大木聖子・纐纈一起(著,2011年)NHK出版新書 740円
東日本大震災を起こした地震のメカニズムや余震・誘発地震など今後心配される現象や防災についての基礎解説.
- 津波から生き残る その時までに知ってほしいこと 津波研究小委員会(編,2009) 土木学会発行・丸善発売1500円
津波に特化した手頃な入門書がやっと刊行された.
- 日本人はどんな大地震を経験してきたのか―地震考古学入門 寒川旭(著,2011)平凡社新書 800円
日本の歴史時代に起きた地震災害を、発掘された遺跡の物証を挙げながらわかりやすく解説.
- 千年震災 繰り返す地震と津波の歴史に学ぶ 都司嘉宣(著,2011年)ダイヤモンド社 1600円
日本の歴史時代に起きた地震・津波災害をわかりやすく解説.東日本大震災の歴史的位置づけについても触れている.
- 歴史の中の大地動乱 奈良・平安の地震と天皇 保立道久(著,2012年)岩波新書 820円
地震と火山噴火に興味をもった歴史学者によるユニークな解説と考察.歴史好きにお勧め.
- 地震がわかる(アエラムック84,2002年) 朝日新聞社 1200円
日本を代表する地震研究者たちが,自分の得意なテーマを高校生・一般市民向けにわかりやすく解説している.
- 大地動乱の時代 石橋克彦(著,1994年) 岩波新書 780円
東海〜南関東地方はなぜ巨大地震に襲われるのか,そしてその場で生活する住民に待ち受けている未来(小田原地震→東海地震→首都圏直下地震)を,厳密な歴史考証と優れた洞察力から探った大作.
- 南海トラフ巨大地震 歴史・科学・社会 石橋克彦(著,2014年)岩波書店 1800円
前書の著者が南海トラフ地震の歴史・物理像・防災の問題について渾身の解説.
- 原発震災 警鐘の軌跡 石橋克彦(著,2012年)七つ森書館 2800円
地震災害と原発事故の複合災害を3.11以前から予見していた著者が社会に対して発した警鐘を集成した本.
- 巨大地震の科学と防災 金森博雄(著,2013年)朝日新聞出版 1300円
日本を代表する偉大な地震学者が研究史と最新の研究課題を丁寧にひもとく.
- 津波災害 減災社会を築く 河田恵昭(著,2010年)岩波新書 720円
津波災害全般に関する数少ない基礎解説書のひとつ.
- 巨大地震巨大津波 東日本大震災の検証 平田直・佐竹健治・目黒公郎・畑村洋太郎(著,2011年)朝倉書店 2600円
3.11東日本複合災害を各分野(地震学、津波学、防災学、失敗学)の第一人者たちがさまざまな角度から解説した本.
- 東日本大震災の科学 佐竹健治・堀宗朗(編,2012年)東大出版会 2400円
8人の研究者が東日本大震災の地震・津波・被害・災害情報・避難と防災教育・経済の研究成果を解説し、南海トラフ地震の予測と対策の問題についても触れる.
- 地震と防災 "揺れ"の解明から耐震設計まで 武村雅之(著,2008年)中公新書 760円
強震動学者にして関東大震災の研究で名高い武村さん渾身の地震学と地震防災の入門書.
- 活断層大地震に備える 鈴木康弘(著,2001年) ちくま新書 680円
活断層やその防災に関する基礎知識や最新知識がわかりやすくまとめられている.
- 原発と活断層 「想定外」は許されない 鈴木康弘(著,2013年)岩波科学ライブラリー 1200円
前書の著者が、原発の安全審査における活断層の過小評価問題について解説.
- 活断層とは何か 池田安隆・島崎邦彦・山崎晴雄(著,1996年)東大出版会 1800円
後述の「日本の活断層」編集の中堅メンバーによる地震と活断層についての総合解説書.図が豊富でわかりやすく,よくまとまっている.地震とは何か,活断層とは何か,活断層の調べ方,活断層から何がわかるか,活断層がおこす地震災害の順に話がすすめられ,最後に日本の研究・教育・防災体制への提言まで述べられている.
- 地震予知の科学 日本地震学会地震予知検討委員会(編,2007年)東大出版会 2000円
日本の地震予知計画は,旧態依然とした前兆探しに頼る計画から脱皮し,1999年度から全く新しい研究計画に生まれ変わった.その原動力となった中堅研究者たちが,地震予知の最前線で今なにが行われ,何がわかってきたのかを生き生きとわかりやすく語っている.
- 地震の揺れを科学する みえてきた強震動の姿 山中浩明(編著,2006年)東大出版会 2200円
地震の強い揺れは,どのように発生し,伝わり,被害を引き起こすのか,揺れをどうやって予測し対策するかなど,地震の揺れに関する知識のすべてをやさしく解説した本.関連分野の基礎知識の解説もあって,これ一冊で地震防災の基礎知識のほとんどを概観できる.
- 地震・津波と火山の事典 東京大学地震研究所(監修)藤井敏嗣・纐纈一起(編,2008年)丸善 6500円
地震・津波・火山に関する最先端の成果を項目毎に解説.辞書風ではなく,全ページカラーの読み物風になっていて基礎知識を短時間で学べる.
3.予知と防災を広く考える上で参考になる本
- おばけむら(えほん) 南部和也(文)田島征三(絵)2004年 教育画劇 1300円
原発立地自治体の悲劇を暗喩として描いた(と思われる)絵本.
- ふうせんの日(えほん) 八起正道(作)いとうひろし(絵)1992年 ほるぷ出版 1300円
架空の原発災害を描いた,3.11後の今となっては貴重な絵本
- 日本列島放棄 新井克昌(著,2007年)文藝春秋 1700円
日本列島を襲った超巨大地震によって7箇所の原発が事故を起こし9500万人の国民が国外脱出する事態を描く近未来小説.
- 原発ホワイトアウト 若杉冽(著,2013年)講談社 1600円
3.11後の日本の中央政財界の裏の動きを告発したとされる小説.
- トンデモ本の世界(宝島社文庫) と学会(編著,1995年) 667円
トンデモ本とは,著者は大まじめでも,はたから見れば大笑いのトンデモない本のこと.しかし,なぜおかしいのかがわからないようだと,あなたはちょっと危ない.
1999年に文庫版が出た.その後,トンデモ本シリーズとなって沢山出ているが,最初に出た本書がやっぱり一番おもしろい.
- 予言の心理学 菊地 聡(著,1998年) KKベストセラーズ 1500円
超常現象をなぜ信じるのか 菊地 聡(著,1998年) 講談社ブルーバックス 860円
上記2書とも,日本人が(学者もふくめて)なぜ「予知」「予言」を簡単に信じてしまうのかを心理学的に見事に解き明かしている.防災および防災教育に携わる人間の必読書.
同著者による「超常現象の心理学」( 平凡社新書,1999年)もお勧め.
- 人が死なない防災 片田敏孝(著,2012年)集英社新書 760円
「釜石の奇跡」で名高い筆者が防災の本質を解説.
- リスク・コミュニケーション 相互理解とよりよい意思決定をめざして 吉川肇子(著,1999年) 福村出版 3200円
リスクとつきあう 危険な時代のコミュニケーション 吉川肇子(著,2000年) 有斐閣選書 1600円
専門家が知り得た情報を市民に伝達する場合に何が必要かを懇切丁寧に説明し議論した本.前者は専門家向きの厳密版,後者は前者をさらにわかりやすく書き直した普及版.
- 災害救援 野田正彰(著,1995年) 岩波新書 620円
精神医学者による日本の災害と防災の問題についての鋭い考察.災害時における心のケア,ボランティア,危機管理,マスコミ・学者の体質についての問題提起.
- 原発震災 警鐘の軌跡 石橋克彦(著,2012年)七つ森書館 2800円
地震災害と原発事故の複合災害を3.11以前から予見していた著者が社会に対して発した警鐘を集成した本.
- 原発と大津波 警告を葬った人々 添田孝史(著,2014年)岩波新書 740円
東日本大震災にともなう「想定外」の津波はすでに様々な方面から警告がなされていたが、その問題を先送りにしたおおぜいの関係者が存在する.膨大な量の資料開示請求にもとづいてその実態を明らかにした稀有の書.
- プロメテウスの罠 明かされなかった福島原発事故の真実 朝日新聞特別報道部(著,2012年)学研 1238円(その後第6巻まで発売されている。以後も続刊)
福島原発災害について,マスメディアが報道をあえて避けてきたと思われる部分をとりあげて綿密に検証する朝日新聞の長期連載記事を単行本化したもの.この災害に関心をもつすべての者が読むべき書.
- ホットスポット ネットワークでつくる放射能汚染地図 NHK ETV特集取材班(著、2012年)講談社 1600円
さまざまな圧力や妨害を乗り越えて福島原発災害の放射能汚染をいちはやく解明した科学者たちの活躍を描くドキュメンタリー.
- 原発災害とアカデミズム 福島大・東大からの問いかけと行動 福島大学・東京大学原発災害支援フォーラム(著,2013年)1800円
福島大学と東京大学に属する12人の専門家(いわゆる「御用学者」とは一線を画する人々)が福島原発災害を多面的に分析.
- 原発事故と科学的方法 牧野淳一郎(著,2013年)岩波科学ライブラリー 1200円
宇宙物理学が専門の筆者が福島原発事故とそれに関わる科学者の問題を鋭く分析・解説した名著.
- 科学者に委ねてはいけないこと 科学から「生」をとりもどす 尾内隆之・調麻佐志(編,2013年)岩波書店 2600円
東日本大震災と福島原発事故に関して,岩波の「科学」に掲載された様々な専門家の記事を選りすぐって概説を付したもの.
- やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識 田崎晴明(著,2012年)朝日出版社 1000円
放射線に関するさまざまな基礎知識を一から解説した書.福島原発事故以降の日本で暮らすための必須の知識.
- みんなの放射線測定入門 小豆川勝見(著,2014年)岩波科学ライブラリー 1200円
福島原発事故いらい放射能汚染の実測に携わる筆者が放射能測定の基礎をやさしく解説.
- 放射線を科学的に理解する 鳥居寛之・小豆川勝見・渡辺雄一郎 (著,2012年)丸善 2500円
前書の著者たちが放射線の物理学・計測学・防護学などについて解説.
- 人間を幸福にしない日本というシステム カレル・ヴァン・ウォルフレン(著)篠原勝(訳)(1994年)毎日新聞社 1800円
なぜ日本はこんなに息のつまるような国なのか.その謎を社会構造や人々の意識から根本的に解き明かす.
2000年に文庫版が出ている.
4.さらに詳しく勉強したい人のために
- 地球の教科書 井田喜明(著,2014年)岩波書店 1800円
惑星としての地球の誕生と進化から始まり、地震・火山噴火のしくみと防災、長期的環境変動などの最新の基礎知識の要点を語る.学生のみならず研究者にとっても座右の書.
- 富士山噴火とハザードマップ 宝永噴火の16日間- 小山真人(著,2009年)古今書院 2500円
古記録から1707年富士山宝永噴火の推移を克明に再現するとともに,富士山のハザードマップの特長と課題を解説.
- 火山学 ハンス-ウルリッヒ シュミンケ(著)隅田まり・西村裕一(訳)2010年 古今書院 18000円
火山学の世界的大家が書いた教科書(大学生・大学院生向き).日本の火山も数多く取り上げられている.
- 火山噴火と災害 宇井忠英(編,1997年) 東大出版会 3700円
火山災害について,6人の著者がさまざまな角度から基本的事項を説明.
- 火山とマグマ 兼岡一郎・井田喜明(編,1997年) 東大出版会 4000円
東大の一般教養の講義がベースだが,内容が偏っていてやや難しい.
- 沈み込み帯のマグマ学 全マントルダイナミクスに向けて 巽 好幸(著,1995年) 東大出版会 3200円
火山の素となるマグマがなぜ発生するかを知りたい人のための本
- 火山の事典(第2版) 下鶴大輔・荒牧重雄・井田喜明・中田節也(編,2008年) 23000円
火山学の専門知識の集大成.出版に時間がかかりすぎて,補足はされているが1990年代までの火山学という面が強い.
- 古地震を探る 大田陽子・島崎邦彦(編,1995年) 古今書院 2600円
古代の地震の規模・様相・被害などをどのように探るかについて,11人の著者がそれぞれの専門分野の話題を語る.内容は,活断層,地震予知,歴史記録,地形,津波,地盤災害,考古学,海底地質などかなり多岐にわたる.古地震の研究が学際的になされていることをよく示す.
- 日本の地震予知研究130年史 明治期から東日本大震災まで 泊次郎(著,2015年) 東大出版会 7600円
元朝日新聞編集委員の筆者が定年後に大学院に通うなどしてまとめた研究の集大成.日本の地震予知研究の歴史を科学史学的に総ざらいする.
- 地震と断層 島崎邦彦・松田時彦(編,1994年) 東大出版会 3400円
東京大学の地震学関連分野研究者10名が,各自の得意とする研究テーマ(震源過程,活断層,数理モデル,破壊力学,地下深部,津波,地震災害など)の基礎知識と最新の知見を語る.東京大学教養学部の講義ノートをベースとして書かれた.内容は基礎的なものから,かなり高度なものまでカバーしている.全体的にみて大学学部生〜大学院1年生クラスが読むのによい.
- 津波の事典 首藤伸夫・今村文彦・越村俊一・佐竹健治・松冨英夫(編,2007年)朝倉書店 9500円
津波の基礎から防災までを深く学ぶための教科書.
5.地震・火山の辞典と資料集
- 世界の火山百科図鑑 マウロ・ロッシ(著)日本火山の会(訳,2008年)柊風舎 8500円
世界の名火山100峰の解説と旅行ガイド.火山学の基礎知識についての詳しい解説あり.
- 災害大国・迫る危機 日本列島ハザードマップ 朝日新聞社(著,2013年)朝日新聞社 1600円
日本全国を地域別に自然災害の履歴や予測を地図上に可視化.全ページカラーでわかりやすい.
- 災害列島・危険情報地図 成美堂出版編集部(編,2012年)成美堂出版 1100円
前書と類似した地域別の日本列島総合ハザードマップ.全ページカラーでわかりやすい。
- なるほど知図帳 日本の自然災害 危機の対策 アーク・コミュニケーションズ(編,2012年)昭文社 1800円
前2書と同様の日本地図の集成だが,本書は原発事故などの人為災害も含む.
- 地震・火山の事典 勝又 護(編,1993年) 東京堂出版 5631円
地震と火山にかんする用語辞典.簡潔明瞭.
- 日本被害地震総覧 599-2012 宇佐美龍夫・石井寿・今村隆正・武村雅之・松浦律子(著,2013年)東大出版会 30240円
日本の歴史時代における被害地震の規模・様相などのデータベース.史料調査の集大成.
1975年の初版から数えると第5版にあたる.CD-ROM版(1997年)もある.
- 日本歴史災害事典 北原糸子・木村玲於・松浦律子(編,2012年)吉川弘文館 16200円
864年富士山貞観噴火から2011年東日本大震災までの歴史災害を個別に解説し,一般論や基礎知識も付す.
- 災害対策全書 第1巻災害概論 ひょうご震災記念21世紀研究機構・災害対策全書編集企画委員会(編,2011年)ぎょうせい 5714円
自然災害から疫病・事故・人災にいたる災害の概論を網羅し、1707年富士山宝永噴火以降の個別災害の様相と復興を解説するとともに関連法規・組織・年表を掲載.
- 活断層詳細デジタルマップ 中田 高・今泉俊文(編,2002年)東大出版会 20000円
日本全国の活断層の最新分布図.DVD-ROM版であり,詳しい中身を見るためにはパソコンが必須.
- 新編 日本の活断層 分布図と資料 活断層研究会(編,1991年) 35000円
日本全国の活断層分布図(1/20万)と解説.専門家向き.1980年の初版を改訂した第2版にあたる.付図である1/100万の日本全国活断層図を別途販売(日本の活断層図,4000円,1992年)している.
6.プレートテクトニクスと日本列島
- 地球は生きている 大竹政和(著,1993年) 小峰書店 1200円
プレートテクトニクスと地震についての入門書(小学校高学年〜中学校向き).
- 大地の動きをさぐる(岩波科学の本) 杉村 新(著,1982年)岩波書店 2000円
長期間かけて起きる地殻変動というものをどのように研究していくのかを,解きほぐすようにやさしく語る本(中学生〜高校生向き)
.1998年に新装版が出た.
- プレートテクトニクス入門 木村学・大木勇人(著,2013年)講談社ブルーバックス 860円
プレートテクトニクスに関する優れた解説書.最近の研究成果まで学べる.
- 日本列島の生い立ちを読む 斉藤靖二(著,1992年) 岩波書店 1200円
日本列島の地質とプレートテクトニクスに関するもっとも優れた解説書.平易で初心者向き.
- 地球・海と大陸のダイナミズム それでも地球は動く(NHKライブラリー) 上田誠也(著,1998年)NHK出版 870円(中学生〜一般向き)
プレートテクトニクスに関する優れた解説書(高校生〜一般向き).
- 新しい地球観 上田誠也(著,1971年) 岩波新書 700円
プレートテクトニクスに関する歴史的名著.いまもその輝きは失われていない.
- 地球の内部で何が起こっているのか? 平朝彦ほか(著,2005年)光文社新書 850円
1968年のプレートテクトニクス登場以降,今日までの地球科学の進展を主として日本付近の海底調査の視点から解き明かす.日本が世界に誇る最新鋭の深海掘削船「ちきゅう」についての詳しい解説も含む.
- 地球の中心で何が起こっているのか 地殻変動のダイナミズムと謎 巽好幸(著,2011年)幻冬舎新書 780円
前書と似たタイトルだが、こちらはマグマに焦点を当てて地球史や全地球ダイナミクスを解説.
- 日本列島の地形学 太田陽子ほか(著,2010年)東大出版会 4500円
日本の地形研究の現状を概観するのに最適.
- 地層の解読 平 朝彦(著,2004年) 岩波書店 5200円
野外に分布する地層から日本列島のおいたちをどのようにして探るのか,その基礎を詳しく解説した現代地質学の最先端教科書(学部生レベル)
- プレートテクトニクスの拒絶と受容 戦後日本の地球科学史 泊 次郎(著,2008年)東大出版会 3800円
日本ではなぜプレートテクトニクスの受容が遅れたのか,なぜ日本の地質学界はこんなにヘンなのか? 私が学生時代に感じた疑問のすべてが解決する.
- プレートテクトニクスの基礎 瀬野徹三(著,1995年) 朝倉書店 4300円
プレートテクトニクスやテクトニクス一般の基本原理の優れた解説書(学部生レベル).最先端の成果までをイラストを豊富に入れてわかりやすく説明している.プレート運動の原動力にスポットをあてた続編「続・プレートテクトニクスの基礎」が2001年に出ている(朝倉書店,3800円).
7.地震・火山・地球科学および関連災害を題材とした文学・芸術作品(他のお薦め作品も含む)
- セクターコラプス 富士山崩壊- 石黒耀(原作)・光原伸(画)・小山真人(監修)2008年
集英社 1200円(「富士山崩壊」と改題され新版もあるが、解説ページが省略されている。857円)
富士山噴火をテーマとした漫画.後述の小説「昼は雲の柱」の漫画版という位置づけだが,ストーリーや登場人物は若干異なり,しかも気象庁が2007年末に導入した噴火警報と噴火警戒レベルに対応した修正がなされている.
- 日本沈没 小松左京(著,1973年) 小学館文庫 全2巻 各巻600円
通常は10万〜100万年かけて発生する大規模な地殻変動が,わずか1年で起きてしまい,それが日本列島全体を海に沈めてしまったと仮定したら,日本社会に何が起きるかを精密にシミュレーションした本格的SF.当時の地球科学の先端の知識をよく勉強して書かれている.発売当時は爆発的に売れてミリオンセラーとなり,映画版やTVドラマ版(両者ともDVDで現在も入手可能)や漫画版も作られた.33年ぶりにリメークされた映画版が2006年に公開され,DVDも発売中.
- 死都日本 石黒 耀(著,2002年)講談社 2300円
日本列島全体で1万年に1度程度しか起きないはずの巨大噴火が現実に南九州で起きてしまった時,どのような現象が起き,日本社会がどう対応するかを精密にシミュレートした近未来小説.息もつかせぬ展開で,読み始めたら止められなくなる.この作品を題材としたシンポジウムが2003年と2004年に開催され,報告書も出版された.「カグツチ」として漫画化され,少年マガジンで連載された.映画化の構想もある.
- 震災列島 石黒 耀(著,2004年)講談社 1890円
地質調査業を営む親子の復讐劇.舞台の背景として変則的な東海地震の発生が描かれる.「死都日本」の東海地震版を期待した読者には物足りなく感じるだろうが,「死都日本」が難しすぎた読者には容易に受け入れられるだろう.ただし,東海地震によって浜岡原発が重大事故を起こしそうになる過程はきわめてリアルで,一読の価値がある.週刊現代で漫画版が連載された.
- 昼は雲の柱 石黒 耀(著,2006年),小山真人(科学監修) 講談社 2000円
富士山の最悪の噴火シナリオを描いた近未来シミュレーション小説.現実にあるハザードマップや避難ガイドラインに準拠し,研究開発が進められている観測機器・データ共有システムの未来形も登場するなどのリアリティーに満ちている.火山神伝説と日本神話の正体の謎解きもからんだストーリー展開が読者をひきこむ.2008年秋に漫画版「セクターコラプス-富士山崩壊-」が出版された.
- 原発ホワイトアウト 若杉冽(著,2013年)講談社 1600円
3.11後の日本の中央政財界の裏の動きを告発したとされる小説.続編に「東京ブラックアウト」がある. - ヤマタイカ 星野之宣(著,1987-1991年)潮出版社 全6巻 各巻780-880円
縄文民族を火山をあがめる「火の民族」としてとらえ,縄文人を駆逐した異文化の末裔として現代日本社会をとらえた作品.火の民族国家の女王であった卑弥呼が現代女性に転生し,大いなる祭をおこそうとする.その阻止をもくろむ仏教寺院の超能力者たちとの戦いが始まる.火山好きな人間の必読書と言うべき.作品中で噴火する火山:沖縄鳥島,阿蘇,両子山(国東半島),大山,恐山,岩木山,大阪湾海底火山,そして富士山.
1997年刊の文庫版あり.
- 月夢 星野之宣(著,1981年)「妖女伝説」第1巻(ヤングジャンプコミックス,集英社,360円)に所収された短編.現在入手可能なものは1998年刊,集英社文庫コミック版.
本当は実話であった竹取物語.かぐや姫からもらった不死の薬で不老長寿となった老夫妻.尼となった妻を捨て,夫は800年の時を越えて科学者となって米国の有人月探査プロジェクトに加わり,月面に娘の幻影を探す.幻想的で美しい「竹取物語」の後日譚.
- 残像 星野之宣(著,1982年)「残像」(ヤングジャンプコミックス,集英社,360円)に所収された短編.現在入手可能なものは2000年刊,MF文庫.
月面の地質調査中に隕石衝突事故で死んだ地質学者,日下鏡子の遺品の中には,月面から撮影されたと考えられる中生代の超大陸パンゲアの写真が残されていた.この謎の解明を依頼された彼女のかつての夫,カメラマン日下は調査を進めるうちに,月面上で太古より繰り返されてきた自然の撮影メカニズムを発見し,また別れて後20年経ても変わることのなかった彼女の自分への慕情も知ることになる...
- 世界樹 星野之宣(著,1982年)「残像」(ヤングジャンプコミックス,集英社,360円)に所収された短編.現在入手可能なものは2000年刊,MF文庫.
火星の巨大火山オリンポスは悠久の眠りから覚めようとしていた.火山学者の降矢木夏子は噴火可能性をさぐるために自由主義陣営の火星基地に派遣された.一方,共産主義陣営の火星基地ではオリンポスの巨大噴火を故意に誘発させ,大量の火山ガスと火山灰による温室効果によって火星の大気組成と気候の改造をもくろむ秘密計画が進行中であった.東西両陣営の確執の中,極冠の氷床の中から発見された巨大植物化石「世界樹」は,太古の火星を襲った破局的な気候変動を暗示していた.火山と氷の国であるアイスランドのイメージを,そのまま火星に対比する描写手法が美しい.
- 2001夜物語 星野之宣(著,1985-86年)双葉社 全3巻 各巻780円 現在入手可能なものは2004年刊,嶋中書店.
宇宙時代を迎えた人類の年代記とも呼ぶべき珠玉の短編集.その中のいくつかを以下に紹介する.
第8夜「悪魔の星」:冥王星の外側に発見された第10惑星「魔王星」は,太陽系の一員でありながら反物質で構成された異様な惑星であった.対消滅による爆発のリスクを抱えた危険な有人探査プロジェクトが始まるが,ローマ教皇庁はある目的をもって聖職者でもある科学者を探査プロジェクトに送りこんでいた.
第16夜「鳥の歌いまは絶え」:ある二重星の惑星探査が始まるが,その星には蒸発残留岩の地層が累々と堆積していた.二重星独特の過酷な地史を生き抜いて進化してきた生物の姿とは?
第18夜「愛に時間を」:宇宙船ごとブラックホールに飲み込まれる事故で夫を失った主人公の女性は,その後数奇な人生を経て,晩年に至る.奇しくも,夫の命を奪ったブラックホールに再び遭遇するが,ブラックホール近傍の強い重力場のために遅く流れる時間のおかげで,30年の時を越えた夫との再会を果たす.重力場に押し潰されるまでに共有できる時間は本人たちにとってわずか1分,しかしそれは重力場の外にいる人間から見れば,ほとんど永遠とも呼べる長い時間であった.
第19夜「緑の星のオデッセイ」:オリオン座ベテルギウスの惑星には,種子を遠くまで飛ばす方法を究極にまで進化させた植物たちがいた.その種子のひとつは亜光速で宇宙空間を飛行していた.
- 暗黒神話 諸星大二郎(著,1977年)集英社ジャンプスーパーコミックス 360円
東京に住む高校生・武は,不思議な老人(竹内宿禰)に導かれて奇妙な体験をしていくうちに,自分が現代に転生したヤマトタケルであることと,神話時代に起きた恐ろしい破局災害,そして自分の宿命を徐々に悟っていく.すべての伏線がパズルのようにひとつに交わっていくストーリーは見事と言うしかない.現在入手可能なものは1996年刊,集英社文庫.
私は高校2年の時にこの作品を読んで,それまでの理学部一辺倒から文学部に行きたいと思い始めた. 現在の文理融合的な自分を目覚めさせた作品.
- 孔子暗黒伝 諸星大二郎(著,1978年)集英社ジャンプスーパーコミックス 全2巻 各巻340円
地球磁場の逆転やエクスカーションの時期には一時的に地球磁場が弱くなるため,有害な放射線が地上に降り注ぎ,動物や人類に突然変異をもたらす可能性がある.歴史上に登場した数々の聖者(アートマン)は,地球磁場の弱化時に突然変異で誕生し,定められた宿命をたどった後,世界の中心へと還っていく.宇宙の真理を追い求める孔子は,アートマンの辿る運命を見届けさせるため,天才弟子の顔回を古代日本へと派遣した.宇宙論やインド哲学を背景とした壮大なスケールを誇る日本の最高傑作SFのひとつ.現在入手可能なものは1996年刊,集英社文庫.
私は大学2年の時にこの作品を読んで感動し,3年生の研究室選択で古地磁気に関する卒業研究ができる研究室を選択した.いわば,私の研究者人生を左右することになった作品.
- 百億の昼と千億の夜 光瀬 龍(著,1973年)早川文庫 680円 漫画版は萩尾望都「百億の昼と千億の夜」(秋田書店,1984年)
ギリシアの哲学者プラトンは,エジプトでの旅の途中の村で奇妙な体験をし,自分がアトランティスの執政官であったこと,アトランティスを滅ぼした邪悪な意思の存在を思い出す.一方,悟りを開くための旅に出た釈迦は天上の国で,仏法の敵とされる少女・阿修羅王と出会う.天上の国は,56億7000万年後に救世主・弥勒菩薩の出現によって救われるのだという.しかし,阿修羅王はその偽りを見抜き,孤独な闘いに身を投じていた.すべての世界は滅びへの道(エントロピーの拡散による宇宙の熱的死)が約束されているという.プラトン,釈迦,阿修羅王は未来での再会を果たし,宇宙の行く末についての真相を知るための旅に出る.
日本が世界に誇るハードSF.原作もよいが,漫画版の完成度とまとまりが素晴らしい.読後に興福寺の阿修羅像,東寺の帝釈天像を見ておきたい.
- ガメラIII 邪神(イリス)覚醒 角川映画(製作,1999年)DVD版あり
地球上に巨大生物が次々と出現し,人間社会に深刻な被害を与えるようになった近未来の世界を描く.政府は専門家を集めた巨大生物審議会を組織し,対策に乗り出す.一方,渋谷上空で3匹の怪獣が殺し合いを始め,撃墜された一体が渋谷駅に墜落する.週末の渋谷の平和な賑わいが,一瞬にして阿鼻叫喚の地獄と化す.架空の生物による災害ではあるが,地震や火山噴火等と類似した立ち上がり時間の短い災害の様相(日常から非日常への一瞬の変化)と,たまたま災害に巻き込まれてしまうことの,言いようのない不条理さがよく表現されている.数ある怪獣映画の中で,怪獣を自然災害として描ききることができた最初の映画ではないだろうか.後半では,京都駅付近に同じ災厄が訪れる.時おりズームアウトした映像をはさむことにより,災害の規模と全体像が容易にわかる描写も見事である.地震・火山学者にファンが多い.
- コンタクト カール・セーガン(著)日本語版は1986年刊.文庫版もあるが,現時点では古本しか入手できない.ジョディ・フォスター主演の映画版が有名.DVD版あり.
米国の著名な天文学者であるカール・セーガンが描いたハードSF.SETI(地球外生命探査)プロジェクトのひとつの結末を描く.電波望遠鏡によるSETIプロジェクトにのめり込んだ女性科学者エリー・アロウェイは,ついに知的生命体からのメッセージを発見.メッセージの中には,空間と時間の壁を越える巨大な装置の設計図が含まれていた.その装置は実際に製作され,1号機の悲劇の後,2号機にエリー自身が乗り込む.その先に待ち受けているものは何か.私にとっては,次の「アンドロメダ星雲」の中にある「チベットの実験」のくだりを彷彿とさせた素晴らしい作品.
原作と映画を比較すると,さすがに映画は演出が上手であり,必要最小限のエッセンスとなっているため,緊迫感が全然違う.しかし,映画はエピローグが中途半端であり,深みもない.映画のエピローグに消化不良感を覚えた人には,ぜひ原作を読むことをお勧めする.原作を読ませた後に「エディントンの巨大数の謎」や「人間原理」を教える授業をしたら,さぞかし感動的であろう.
そういう意味では,映画版の最後にあと10分でいいから,原作の最終2節「プログラム修正」と「画家の署名」にあたるエピソードをつけてほしかった. - アンドロメダ星雲 イワン・エフレーモフ(著)早川書房(世界SF全集22,1969年刊)
亜光速飛行が実現した未来,人類は30光年程度の星まで,数十年をかけて探検旅行をするようになる.そうした探検船のひとつタントラ号は,地球に戻る途中,遭遇予定だった燃料補給船に出会えず,燃料不足のまま褐色矮星の重力場にとらえられてしまう.褐色矮星の惑星に不時着した後,非常な困難を乗り越えて地球への帰還を果たす.一方,地球では巨嘴鳥座エプシロン星からの友好的な通信が傍受される.その星は,亜光速飛行では一生かかってもたどり着けない距離の彼方にあった.映像に映し出された美しい女性に魅せられた主人公は,空間をねじ曲げて光速の壁を乗り越える地球規模の実験に着手する.実験は成功したかに見え,彼は夢にまで見た女性の前に立つ.しかし,実験装置は暴走し,地球上の電力のほとんどを集めたエネルギーの束は宇宙ステーションを破壊し,多大な人的被害を出してしまう.彼はすべての責任をとるために,「忘却の島」へと向かった...少年時代に読んで感動し,今でも大好きな作品のひとつ.
カール・セーガンは「コンタクト」を書いた時に,たぶんこの作品を意識していたと私は思う.
- Pluto 手塚治虫(原作)浦沢直樹(著)ビッグコミックオリジナルに連載され.単行本も小学館から刊行された.
あまりにも有名な「鉄腕アトム」の中の最高傑作とも言える「地上最大のロボット」の劇画版という位置づけ.しかし,あらゆる点で原作を越えた作品に仕上がっていると私は思う.アトムのメインテーマであった「ロボットと人間の共生」が,そのままスケールアップして受け継がれている.とくに第1巻の「ノース2号」編は,何度読んでも深い感動が味わえる.
大量破壊兵器としての過去をもつロボット・ノース2号は,退役後ある年老いた作曲家の執事として仕えることになる.作曲家は癇癪もちで,ことある毎にノース2号を罵倒する.それでもノース2号はピアノを習いたいと申し出て「もう戦場へは帰りたくないから」とつぶやく.年を経て2人の心は通じ合うが,やがて悲しい別れの時が訪れる.
- ふたつのスピカ 柳沼 行(著)月刊誌に現在も連載中.単行本もメディアファクトリーから刊行中.アニメ版と実写版がNHKで放映された.実写版は駄作.
日本初の有人宇宙ロケットが発射時の事故のために,唯ヶ浜という町に墜落し爆発炎上する大災害に.その災害に多かれ少なかれ関わった人々が,さまざまな人間関係の確執の中で,傷つきながらも徐々に癒されていく過程を描いた近未来ファンタジー.事故で母親を失った主人公の鴨川アスミは,女性宇宙飛行士をめざすため訓練校に入学し,さまざまな人生を抱えた友人や教師たちと出会う.
時おり挿入される少女時代のエピソードが幻想的で涙を誘う.
- 風の谷のナウシカ 宮崎 駿(著,1984年)徳間書店 全7巻 各巻380円
アニメ版があまりにも有名だが,アニメ版はこの原作の第2巻の途中までのダイジェスト版に過ぎず,重要なポイントが抜け落ちすぎている.まったく別の作品と考えるべき.生物兵器と核兵器による世界戦争後の遠い未来の世界での聖女伝説を描く.日本の最高傑作SFのひとつと言ってよい.土鬼の都に隠された秘密と,「庭」の番人による堕落への誘惑.最終巻は本当にすごい.
- アルジャーノンに花束を ダニエル・キイス(著)早川書房1978年刊.文庫版もあり.
重度知的障害者のチャーリーは,大学で開発された知能向上医療の被験者として選ばれる.手術は成功したかに見え,知能が高まったチャーリーは,障害者学校での彼の担任だったアリスと運命的な恋に落ちる.しかし,チャーリーの幼児体験が阻害して2人は結ばれない.一方,チャーリーの知能向上はとどまるところを知らず,天才の域に入り,逆にアリスとの仲はぎくしゃくして恋は破局を迎える.世界的な研究者となったチャーリーは,彼の知能を高めた手法自体の研究を始めるが,その原理的欠陥に気づく.彼より早く手術を受けたハツカネズミのアルジャーノンに悲劇的な死が訪れ,彼も自分の結末を予感する.彼の予感は正しく,知能の加速度的崩壊が始まる.その崩壊の過程上のほんの短い間,つまり彼の知能が常人と同じレベルに戻った期間だけ,アリスとの恋が復活し,彼はアリスに永遠の別れを告げる...
- グスコーブドリの伝記 宮沢賢治(著)
あまりにも有名な宮沢賢治の童話.さまざまな出版社から出版されている.ますむらひろしの書いた漫画版も有名.これも複数の出版社から刊行されている.また,アニメ化もされ,NHK-BSで放映されたこともある.アニメ版をもとにした絵本が金の星社から1994年に出ている.イーハトーブの森で平和に暮らしていたブドリとネリの兄弟は,饑饉によって両親を失い,離ればなれになる.農家に拾われたブドリは,苦学の末,イーハトーブ火山局の優秀な技師となる.以後,数々の火山の噴火制御や,肥料の空中散布による饑饉の防止などに力を尽くすが,恐るべき異常気象が世界を襲おうとしていた.ブドリは自らの身を犠牲にして,火山噴火を逆用した気候改造を試みる.
- カンビュセスの籤(くじ) 藤子不二雄(著) 同名を冠した短編集愛蔵版(1987年,1200円.版元品切れ)の中の一短編.ただし,これ以前に「藤子不二雄SF短編集」の中の一短編として収録されたこともあった.
藤子不二雄は,ハヤカワSFマガジンなどに時おり成人向けのSF短編を発表していたが,それらは一般にはあまり知られていない(20年後のオバケのQ太郎を描いた後日譚とかもある).しかし,その中には良質の作品が多い.表記作品は,私が最も秀逸と思うものである.
アケメネス朝ペルシア帝国のカンビュセス2世のエチオピア遠征の故事にヒントを得た作品.無理な行軍によって餓死寸前になった兵士たちが,籤で選んだ兵士を食料として処するという非情な選択をする.選ばれた兵士の一人は逃亡の後,遠い未来へタイムスリップし,そこで滅亡直前の人類の最後の生き残りの少女と出会う.皮肉にも兵士は,今度は人類の存亡をかけた籤を引かされることになる.
この作品のほか,同短編集の中には,人が牛の食用にされている惑星に不時着した宇宙飛行士と食用人類の少女との恋を描いた「ミノタウロスの皿」,第二次大戦前の故郷の村にタイムスリップした帰還兵が選択した意外な行動を描いた「ノスタル爺」という傑作も収録されている.
8.明解な日本語を書くために
- 理科系の作文技術 木下是雄(著,1981年) 中公新書 700円
論理的かつ明解な日本語を書くための入門書.日本の多くの科学・技術者の座右の書となっている.自分が今までいかに稚拙な文章を書いていたかを思い知らされる.レポートや卒論を書く上で必須.
- 日本語の作文技術 本多勝一(著,1982年) 朝日文庫 540円
論理的かつ明解な日本語を書くための入門書.どちらかと言えば「理科系の作文技術」より具体的で実務的.「理科系の作文技術」で基本的なポリシーを学んでから,こちらを読むとよい.
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