小山真人(静岡大学教育学部)
高校までの基礎教育の中では,教科書に書いてあることはすべて真実とされ,疑いをはさむことは通常許されない.これに対し大学の教育では,そのような活字信仰をまず改めさせ,定説と呼ばれるものにも様々な問題点があり得ることや,現在正しいとされることも学問の進歩とともに変化していくことを知らせるのが普通である.
しかし,すべての設問に必ず正答があると信じて疑わない新入生たちに対し,物事を批判的に考えさせることは容易ではない.彼らの心のリハビリのために初歩的な素材集がないかと捜していたところ,見つけたのが本書(宝島社文庫)である.
「トンデモ本」とは,著者は大まじめに書いたつもりだが,はたから見れば大笑いのトンデモない本のことであり,その内容は超自然現象,超古代史,予言など多岐にわたる.別の言葉で言い換えると,トンデモ本の内容の大半は疑似科学的なものである.疑似科学とは,一見科学的な手続きを踏んでいるように見えるが,よくよく検討すると根本的な誤解やデータ欠落や論理の飛躍が見られ,とても正常な科学の範疇に含められない理論や仮説のことである.
端的な具体例をいくつか挙げよう.トンデモ本においては,自分の目では光の速度が遅く見えるから相対性理論が間違っているとされたり,日本人の祖先をアメリカインディアンとする説の根拠のひとつが「オハイオ=おはよう」などの言葉の類似性とされていたりする.普通の大人ならばこの程度の論理の飛躍で騙される人はいないだろうが,さらに巧妙な例も取り上げられている.
たとえば「南極上空の静止衛星」「生体内常温核融合」など,科学の常識を知る人にとっては聞いただけで抱腹絶倒ものの言葉が含まれていたりするが,理科離れが進む現在,これらの言葉の馬鹿馬鹿しさや胡散臭さに即座に気づく新入生はわずかである.トンデモ本の中にはベストセラーになったものも数多くあるという.よくよく考えれば笑い事では済まされない話である.
(静岡新聞夕刊,2000年5月27日)