史料地震・火山学ひとくちメモ:

 暦の基礎知識 太陰暦・太陽暦

 地球が1回自転する時間である1日(=24時間=1440分=86400秒)は,暦の種類によらない基本単位である.地球が太陽を1回公転する時間が1太陽年であり,365.2422日(365日5時間48分46.08秒)である.一方,月の満ち欠けの新月(朔)から次の新月までの時間が,1朔望月(さくぼうげつ)=29.530589日(29日12時間44分2.8896秒)である.

 すべての暦は,1太陽年または1朔望月(あるいはその両方)を用いて時を測る.1太陽年だけを使用する暦を太陽暦,1朔望月だけを使用する暦を太陰暦,両方を使用する暦を太陰太陽暦と呼ぶ.

 太陰暦はとても不便である.12朔望月は354.367068日となって,1太陽年に10.875132日不足する.これが累積すると3年弱で1ヶ月,17〜18年で真夏に正月がきてしまう.つまり季節がずれる.このくらい季節がずれると,農業を営む者は農作業の計画が立てにくくて大変困るし,日々の生活においても温度や天候変化の基準を見いだしにくい.

 太陰太陽暦は,1朔望月を基準とした太陰暦をベースとし,閏月を入れて季節のずれを補正した暦である.日本のいわゆる「旧暦」は,太陰太陽暦である.

ユリウス暦とグレゴリオ暦

 現在私たちが使用しているグレゴリオ暦のベースになった暦は,古代ローマの有名なジュリアス・シーザー(ユリウス・カエサル)が定めたユリウス暦である(July=Juliusという月の名前は,シーザーの業績をたたえたものである).

 ユリウス暦は,1年=365日,4年に1度の閏年(閏年には1年を366日にする)という基本においてはグレゴリオ暦と同じである.閏年の効果によって,長期的にはユリウス暦の1年は365.2500日となる.つまり,実際の1太陽年(365.2422日)より11分14秒長い.このためのずれが128年で1日に達する.ずれが累積した結果,16世紀初頭には春分が3月11日になってしまった.

 これをみかねたローマ法王グレゴリオ13世が1582年についに改暦を断行し,ユリウス暦1582年10月5日を,グレゴリオ暦10月15日としてずれを正した.

 グレゴリオ暦においては,400年に3回,きりのよい年に閏年を省く.西暦1700,1800,1900年に閏年を省いたので2000年は閏年となる.西暦2100年の閏年はふたたび省かれる.こうすることによって,グレゴリオ暦(1年=365.2425日)は,2621年に1日狂うだけという正確な暦になった.

日本の旧暦(和暦)

(1)大の月・小の月

 日本の旧暦は,太陰暦をベースにし,太陽年の要素による補正を加えて季節がずれることを補正した太陰太陽暦である.旧暦において,月が新月(太陽と月が東西方向で同方向となる時におきる)になる瞬間を朔(さく)といい,朔の時刻をふくむ日を朔日(ついたち)という.旧暦では,日食(東西方向に加えて南北方向でも太陽と月が同方向となる)はかならず朔日におきる.

 1朔望月が29.530589日であるため,朔日から朔日までの日数には,30日間の場合(大の月)と29日間の場合(小の月)とがある.朔日の前日を晦(つごもり)という.晦は二十九日になる場合もあるから,「みそか」(三十日)という名前は本当はよくない.

(2)閏月の入れ方(置閏法)

 季節がずれると農耕にたいへん不便なので,古人の英知は「二十四節気」を発明した.まず,冬至(影の長さが一番長くなる日)を計測してもとめる.そこを基準として1太陽年を24等分(約15日間おき)する.それらを順番に

 1.冬至 2.小寒 3.大寒 4.立春 5.雨水 6.啓蟄 7.春分 8.清明 9.穀雨 10.立夏 11.小満 12.芒種 13.夏至 14.小暑 15.大暑 16.立秋 17.処暑 18.白露 19.秋分 20.寒露 21.霜降 22.立冬 23.小雪 24.大雪

と名づけた.このうちの奇数番を中(ちゅう),偶数番を節(せつ)と呼ぶ.総称して二十四節気と呼び,中を基準として月の名前を決める(例:雨水のある月が正月).

 太陰暦と太陽暦のずれが累積することによって,2〜3年に1回は必ず中のない月が訪れる.ここで,「中のない月に閏月をおき,その年を13ヶ月とする」という簡単なルールを実行することによって,季節のずれが補正される.たとえば,ある年の七月の翌月に中がない場合,その月は八月とはならずに,閏七月となる.

 現代人にとって二十四節気は,たんなる季節を感じる風物のようなものでしかないが,旧暦を使う人々にとっては実に巧妙な生活の知恵であった.


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