静岡新聞 時評(2016年8月11日)

富士山でブラタモリ

 案内人が感じた魅力

小山真人(静岡大学防災総合センター教授)

 「ブラタモリ」という番組をご存知だろうか? タレントのタモリさんが各地を旅するNHKの番組である。しかし、単なる旅番組ではない。冒頭に旅の「お題」という謎かけがなされた後、その土地を知りつくした案内人たちが現れ、少しずつ解答へと誘ってゆく。
 「お題」は単純な問いかけだが、ひと筋縄では解けない。地形の微妙な高低差から土地の成り立ちを読みとり、目の前の風景や事物をつくり出した自然・社会・人の関わりを考えながら、最終解答に至る。このような旅は、世界各地のジオパークで実施されているツアーそのものと言ってよい。つまり、ジオパーク認定の有無と関係なく、ブラタモリの行く場所すべてが小さなジオパークと化すのである。
 そして、準備の行き届いた綿密なシナリオと、タモリさんの磨かれたユーモアと話術があいまって、多くの視聴者が楽しみながら納得できる番組に仕上がっている。だからこそ土曜のゴールデンタイムに視聴率10%台を維持するのであろう。
 筆者は昨年、この番組の富士山編3回のすべてに案内人として出演する機会を頂いた。与えられた「お題」は「富士山はなぜ美しい?」である。当初は困惑した。そもそも美は主観的なものであり、客観性を重んじる科学とは本来無縁である。形の整った山も崩れた山も、どちらも自然の姿であって美的な優劣はない。
 しかし、せっかくの機会なので、均整のとれた巨大な孤立峰ゆえに富士山は美しいのだろうと考えた。そして、その「美」を成り立たせた要因を火山学的に考察し、7つの「奇跡」として整理した。実は、その結果を文章にまとめたものが、昨年8月26日朝刊付の本コラム「富士山が美しい理由」である。
 さすがに7つすべてを扱うと時間内に収まらないので、5つに絞って番組を構成することになった。現地で何度も下見や打ち合わせをして、ひとつの「旅」が無事完成し、放送に至った。筆者にとっても、長い時間を費やした宝石のような「作品」である。今年7月末に解説本も発売となり、紙上で旅を追体験できるようになった。案内人を依頼されるきっかけとなった拙著「富士山 大自然への道案内」(岩波新書)とともに、ぜひ手にとっていただき、可能なら現地も訪ねていただければ幸いである。

 


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