最近の電子メール会話から(3)

日本の活火山の数は本当はいくつか

 以下の電子メール会話は,インターネット上のメーリングリストtephraでかわされた議論です.tephraを紹介するホームページのアドレスは,
http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/tephra/
です.tephraは,流れたメールを自由に転送できる開かれたメーリングリストですが,本ニュースレターへの掲載についてはメールを出した本人の許可を得ています.

At 11:35 17/02/97 +0900, Shintaro HAYASHI wrote:
>日本では過去2000年間に噴火した火山+地熱活動の活発な86火山を「活火山」と呼んでいますが,国際的にはおおよそ過去1万年間に噴火した火山が活火山として認識される傾向にあるそうです.
>たとえば,活火山の定義を「最近10000年間内に噴火したことが確かな火山,ならびに噴気活動が活発な火山」に変えてしまった場合,どのくらい活火山が増えるのでしょうか?
>東北地方で見て見ますと,現在の秋田駒ヶ岳,秋田焼山,吾妻山,安達太良山,岩木山,岩手山,恐山,栗駒山,蔵王山,鳥海山,十和田,那須岳,鳴子,八幡平,八甲田山,磐梯山の16火山に加えて,沼沢,肘折,寒風の3火山が加わりますので,
>16火山→19火山ということになります。
>
>他の場所はどうなっていますか???

At 23:11 17/02/97 +0100, Masato Koyama wrote:
>Simkin & Siebert (1994) Volcanoes of the worldの表には,過去1万年間に噴火した日本の122火山があげられています.
>いっぽう,気象庁の86活火山は以下のようになっています.
>茂世路岳,散布山,指臼岳,小田萌山,択捉焼山,択捉阿登佐岳,ベルタルベ山,爺爺岳,羅臼山,泊山
>知床硫黄山,摩周,アトサヌプリ,雌阿寒岳,大雪山,十勝岳,樽前山,有珠山,北海道駒ヶ岳,恵山,渡島大島,恵庭岳,倶多楽,丸山,羅臼岳
>恐山,八甲田山,岩木山,八幡平,秋田焼山,岩手山,秋田駒ヶ岳,鳥海山,栗駒山,鳴子,蔵王山,吾妻山,安達太良山,磐梯山,十和田
>那須岳,日光白根山,赤城山,浅間山,草津白根山,妙高山,新潟焼山,弥陀ヶ原,焼岳,乗鞍岳,御岳山,白山,榛名山,燧ヶ岳
>富士山,箱根山,伊豆東部火山群,伊豆大島,新島,神津島,三宅島,八丈島,青ヶ島,南ベヨネース列岩,須美寿島,伊豆鳥島,西之島,海徳海山,噴火浅根,硫黄島,福徳岡ノ場,硫黄島南東沖海底火山,北福徳堆
>鶴見岳,九重山,阿蘇山,雲仙岳,霧島山,桜島,開聞岳
>薩摩硫黄島,口永良部島,中之島,諏訪之瀬島,硫黄鳥島,西表島北北東海底火山
>
>Volcanoes of the worldの表にのっているけれども,気象庁86活火山に入らないのは,
>琉球弧: 悪石島,口之島
>九州:  住吉池
>中国四国:阿武,三瓶,隠岐道後,大山
>近畿:  神鍋
>中部:  蓼科,飯縄,志賀,男体,大真名子,高原
>伊豆:  利島,黒瀬海穴,大町海山,unnamed seamount
>東北:  沼沢,肘折,寒風,目潟,陸奥燧岳
>北海道: 濁川,イワオヌプリ,羊蹄,尻別,利尻,然別
>千島:  Smirnov, Lvinaya Past, Bogatyr Ridge, Golets-Tornyi Group, Demon, unnamed seamount
の合計35です(ただし,千島については日本語名との対応がつかないので,よくわかりません).
>いっぽう,気象庁86活火山にあって,Volcanoes of the worldにないのが,北福徳堆(海勢場)です.また,南日吉海山,日光海山,福神海山,春日海山の4つ(この4つはVolcanoes of the worldに載っている)を,気象庁では「南硫黄島南東沖海底火山」と呼んで一括しています.だから,86火山は本来89火山です.
>
>89-1+35=123.数が合いません.
>どこかで混乱があるようです.千島あたりでしょうか.誰かわかったら教えてください.しかし,こういう作業は疲れる...

At 11:08 18/02/97 -0800, HAYAKAWA Yukio wrote:
>このことについて,私が知っていることをいくつか書きます.いま時間がないので,詳しくかけなくてごめんなさい.
>
>1)私は 新版地学教育講座2 『地震と火山』(東海大学出版会)に以下のように書きました.
>--------------------------
>火山のリスト  日本では気象庁が,(1)過去およそ2000年以内に噴火した火山,または(2)噴気活動が活発な火山,という基準で活火山を選定している.その総数は83である(ただし「南硫黄島南東沖海底火山」は延長300km以上の火山列をさす).
>
>火山の時間スケールで考えると,2000年という時間の長さは活火山の認定のためにはやや短いように思われる.たとえばフランシス(P. Francis, 1993) は,過去1万年以内に噴火した証拠をもつ火山を潜在的に活動的(potentially active)とみなそうと提案している.世界の火山カタログを作成・更新しているスミソニアン博物館は過去1万年間の噴火を収集している.
>過去1万年間は完新世とよばれる時代だから,その期間に噴火した証拠がある火山を完新世火山とよぼう.気象庁の活火山83に,沼沢沼・高原山・燧ケ岳・三瓶山・口之島などの十数山を追加した約100が日本の完新世火山の総数である.
>http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/volcanology/c7.html
>--------------------------
>(なお,上の気象庁83活火山はその後の追加認定によって86活火山となりました.)
>
>2)日本の火山の最新噴火年代について,私は
>http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/catalog/lastage
>で公開しています.
>
>3)スミソニアンカタログに大山やら神鍋やら男体やら黒瀬海穴やら利尻やら羊蹄が入っているのは,私の群馬大学紀要論文の表をLee Siebertが誤読したためです.完新世の噴火が知られていないが地形が新しい火山の名前だけ私は表にあげた.
>
>4)スミソニアンは,硫黄鳥島を沖縄鳥島と書いているが,これは不適当.
>
>5)以上のことは,昨年11月にスミソニアンを訪問したときにLee Siebertに伝えま
>した.
>
>6)こういった研究が,(予算処置がなされる)正規の噴火予知研究に日本で取り上げられないのはきわめておかしなことだと思っています.プロジェクト申請をさぼっているわけではありません.何度だしても不採択なのです.念のため.
>
>7)噴火予知連(気象庁)が昨年10月に行った三火山追加のうち,燧ヶ岳を活火山に加えるに当たって,気象庁または噴火予知連関係者のだれかが現場に行って私の「降下粘土」を追試したのだろうか? 追試なしにひとりの研究者の意見だけに依存して(記者会見が必要なほどの)国家の重大事を変更する勇気は,私にはありません.

At 8:55 19/02/97 +0900, Shintaro HAYASHI wrote:
>たぶん,既存の文献資料を集めるだけで解決すると思っている人が多いのだと思います。こういう仕事は新期プロジェクトとしてしっかり歩いて調べる,というのが早川さんの考え方でしょう?

At 8:35 20/02/97 -0800, HAYAKAWA Yukio wrote:
>活火山の認定について(つづき)
>
>以下の文章は,「火山」に掲載された燧ヶ岳の短報の投稿時にはあったけど,論文の主題と無関係だからと考える査読者または編集者の意向によって削除を指示され,それにしたがって削除したまま,まだ日の目を見ていない文章です.
>(そのとき,こんな重要な記述を削除しろというなんて理解できないと,励ましてくれたのは小山さんでした)
>---------------------------
>他の火山はどうか
>
>2000年前以降の噴火をみすごしているのは燧ケ岳だけだろうか.
>
>北八ケ岳の横岳溶岩ドームから流れ下った溶岩のうち,坪庭溶岩流の表面地形はきわめて新鮮であり,植被の覆いもほとんどない.これは2000年前以降の噴火による溶岩流であるかもしれない.
>志賀高原の志賀山と鉢山も新しい.空中写真を観察すると,志賀山の溶岩の表面に新鮮な微地形が残っていることを確認できる.鉢山の頂上には直径300mの火口がみえる.どちらも氷期が終わったあと完新世(最近1万年間)になってから噴火したにちがいない.2000年前以降の噴火である可能性もある.ただ志賀山と鉢山は活火山に登録されている草津白根山からわずか6kmしか離れていないから,これらを草津白根山の一部として認識する立場もあるだろう.
>由布岳は1750年前にマグニチュード4.6の噴火をした(小林,1984).気象庁リストでは,この火山は3.5km東の鶴見岳の一部と認識されているのかもしれない.
>
>うたがわしい活火山はないか
>それでは逆に,本当に活火山かどうか疑わしい火山を挙げてみよう.噴気活動が活発かどうかの判断はともすれば恣意的になりがちだから,基準(2)を無視して新基準(1)だけで試みに活火山の再認定をしてみる.
>
>気象庁が1991年2月に選定した活火山83のうち,過去2000年間の噴火カタログ(早川,1994)に噴火事例が記載されていない火山が9山ある.古文書記録が存在しないだけでなく,過去2000年間の噴火堆積物も知られていない火山である.この9火山の最後の噴火堆積物の年代とマグニチュードを文献と現地調査によって調べてみた.
>
>妙高山の最後の噴火は,4000年前に起こった大田切川火砕流の噴火(M3)である(早津,1992).立山の弥陀ケ原では完新世に4回の噴火が知られている.そのうち最後の噴火は,2500年前に地獄谷で起こった水蒸気爆発(M2.8)である(小林,1990)
>乗鞍岳からは,3000年前に剣ヶ峰火口から位ヶ原スコリアと権現池溶岩の噴火(M4.4)が起こった.そのあと約1000年前に水蒸気爆発があって粘土(M3)が降った.
>箱根山の最後の噴火は,神山から起こった冠ヶ岳ドームと熱雲の噴火(M3)である.大木・袴田(1975)はこの噴火の年代を放射性炭素法によって2900年前と考えたが,富士山のテフラとの層序関係からは4500年前がより正しそうである.
>赤城山の1251年5月18日噴火記事は『吾妻鏡』にある「赤木嶽焼」の四文字だけである.これに対応する噴火堆積物はみつかっていない.『吾妻鏡』の記述は噴火ではなく山火事を書き残したものかもしれない.堆積物が確認できる赤城山の最後の噴火は鹿沼軽石を降らせた3万2000年前のM5.7である.
>恐山・八甲田山・八幡平・小田萌山(北方領土)の最後噴火の堆積物を書いた文献は見つけることができなかった.
>
>1万年以内に噴火した火山
>活火山の認定に現在日本で使われている2000年という時間の長さは,科学的根拠に基づいて決められたものではないらしい.たとえばFrancis (1993, p.17) は,過去1万年以内に噴火した証拠をもつ火山を potentially active とみなそうと提案している.実際,世界の火山カタログを整備しているスミソニアン博物館は過去1万年間の噴火を収集している(Simkin et al., 1981).
>現在の気象庁活火山リストにはのっていないが過去1万年間に噴火したことがわかっている日本の火山を集め,その最後噴火の年代とマグニチュードを表1に示す.
>このうち米丸と住吉池は桜島の一部として,池田湖は開聞岳の一部として,気象庁リストでは認識されているのかしれない.
>
>表1 1万年前以降に噴火したが,最近2000年間噴火していない火山
>Table 1. List of volcanoes whoes last eruption was between 2,000 and 10,000 years ago.
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
>火 山 最後噴火の年代 M 文献
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
>寒風山 Kanpu 3000 3 林(1991)
>沼沢沼 Numazawa 5500 5.5 町田・新井(1992)
>高原山 Takahara(富士山) 6000 4.0 奥野ほか(1993b)
>利島 Toshima(カジアナ・ミアナ) 8000 3 一色(1978)
>鷲羽池 Washibaike 6000 3.7 早川・高田将志(未公表)
>三瓶山 Sanbe(大平山 3600 5 服部ほか(1983)
>米丸 Yonemaru 7500 4 小野(1973)
>住吉池 Sumiyoshi 7500 3 小野(1973)
>池田湖 Ikeda(鍋島岳) 5000 4 奥野ほか(1993a)
>口之島 Kuchinoshima 2900 2 西村ほか(1993)
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
>最後噴火の年代は西暦2000年から遡った年数
>Mは噴火マグニチュード
---------------------------------------------------------------
>
>なお,その後の研究で以下のことがわかっています.
>・志賀高原の志賀山はちょうど1万年前に噴火した.
>・乗鞍岳の最新の噴火は,5000年前くらいらしい.
>・白馬大池と羊蹄山も完新世火山ではないかと疑われる.


日本火山学会史料火山学WGホームページに戻る