火山を楽しむための基礎知識

 火山はどこにできるか
 地球上で火山が存在する場所は限られており,ある特殊な条件が成立した場合に限り,マグマが発生して地表に到達し火山が生じる.火山を見るにあたって,このことを念頭におくとおもしろい.火山の発生条件が成立しやすい場所は,おおよそ次の3つである(図1).
 1.地殻(厳密にはその下にあるマントルの一部も含めたプレート)が裂けて横に広がっている場所.このような場所は,地下にマグマが生じやすく通路も確保されやすい.アイスランドはこのような場所の代表である.また,フランスやドイツにある火山は,かつて地殻が裂けていた時に生じた火山活動のなごりである.地殻が裂けつつある場所(あるいはかつて裂けていた場所)を,リフト(あるいは地溝)と呼ぶ.また,海底地殻が継続的に裂けて左右に拡大している場所を,中央海嶺と呼ぶ.
 2.地殻が別の地殻の下に沈み込んでいる場所.このような場所では地表付近の水が地下深くにもたらされ,その水によって岩石の融点が下がり,マグマが発生するらしい.その結果,沈み込みの生じている場所(沈み込み帯)に沿った火山の列(島弧火山列)ができる.日本,ギリシア,イタリアのエオーリエ諸島がこのような場所にあたる.
 3.地球深部からの定常的な上昇流がある場所.1や2のような地殻の状態とは無関係に,それより下のマントルから上昇流(マントルプリューム)が続いている場所が,地球上にはいくつかある.このような上昇流の幅が細ければ,その上には火山がスポット状に生じる(ホットスポット).上昇流が広い地域にわたるものであれば,その地域全体に火山の群れが生じる.ハワイがホットスポット火山の代表例であるが,アイスランドの下にも上昇流があるらしい.つまり,アイスランドの火山は1と3の原因が重なってできたものである.

図1:火山が発生する場所

 火山の種類と地形
 火山はさまざまな形や大きさをもち,それらは噴火の仕方,噴火の回数や継続時間,マグマの粘り気(粘性)などを反映している(図2).互いの関係を知っておけば,火山を見ただけで,噴火当時の様子が想像できて楽しい.火山が噴火(あるいは爆発)しようとする力には2種類あり,ひとつは,マグマ中に溶けていた火山ガスが減圧によって発泡しようとする力である(振っておいたビール瓶の栓を抜いた時を想像するとよい).もうひとつは,高温のマグマが水と接触した時に発生する水蒸気の膨張力である(熱くたぎった天ぷら油の中に水を注いだ時を想像するとよい).
 粘り気の少ない(粘性の小さい)マグマが,火山ガスの発泡の力だけで噴火を起こす場合,爆発力が弱ければ火口のまわりにベタベタと溶岩が飛び散ってスパター丘ができる.アイスランドの火山に多い.もう少し爆発力が強いと,円錐台状の山体をもち,しばしば頂上にスリバチ形の火口があるスコリア丘となる.フランスやドイツの火山に多い.
 粘り気の多い(粘性の大きい)マグマが,火山ガスの発泡の力だけで噴火を起こす場合,爆発力が弱ければ火口のまわりに溶岩が盛り上がって溶岩ドームができる.フランスのシェヌ・デ・ピュイ火山群によい例がある.また,爆発力が強いと,何もかも吹き飛ばしてしまって大きな火口だけになる.ドイツのラーハーゼー火山がこの例である.
 粘り気の大小にかかわらずマグマが水と接触した場合(つまり浅い水底や湿地帯で噴火が起きた時)には,爆発的な噴火が生じて円形や楕円形の凹地が生じる.このような噴火のうち,マグマと水とが直接混じり合って起きるものを水蒸気マグマ噴火,おもに水蒸気の力だけで起きるものを水蒸気爆発と呼ぶ.結果としてできた地形のうち,凹地だけが目立つものをマールと呼び,凹地のまわりにリング状の火山体ができたものをタフリングと呼ぶ.フランスやドイツやアイスランドの火山に多い.
 以上あげた火山は長くても数年程度の1回きりの噴火でできる単成火山と呼ばれるものであり,ひとつの火山体の直径は大きくても数kmである.単成火山には割れ目噴火をするものが多く,割れ目(噴火割れ目と呼ばれる)の長さが長くなると,割れ目の上に単成火山の列ができることが多い.その典型例がアイスランドに多く見られる.また,ある地域に単成火山だけが数十〜数百個の群をなす場合があり,独立単成火山群と呼ばれる.フランスのシェヌ・デ・ピュイ火山群やドイツのアイフェル火山群がその例である.
 単成火山に対し,同じ火口から休止期間をはさんで何度も噴火を起こし,大きな火山体を成長させる火山を複成火山と呼ぶ.日本の富士山やイタリアのエトナ火山がその例であり,大きなものは直径数十kmにおよぶ.複成火山の中には,富士山のように巨大な円錐形の山体をもつ大円錐火山や,山体の一部が陥没してカルデラができたカルデラ火山がある.ギリシアのサントリニ火山,フランスのモンドール火山などがカルデラ火山の例である.
 カルデラは,大規模な噴火にともなってマグマだまりの天井が崩れてできる直径数km〜数十kmの凹地である.凹地のまわりをとりまく峰を外輪山と呼ぶ場合がある.カルデラ内でふたたび噴火が起きてできた火山体を中央火口丘と呼ぶ場合もあるが,必ずしもカルデラ中央にできるわけではないので後カルデラ丘と呼ぶほうがよい.サントリニカルデラの中にあるカメニ島は後カルデラ丘の例である.
 はっきりとした噴出口がわからないが,溶岩流だけが累々と積み重なってできた大きな台地があり,溶岩台地と呼ばれる.フランスのヴレイ地方やアイスランドの一部に例が見られる.
 大円錐火山やカルデラ火山においては,火山体の中心部からはずれた山腹や山麓で噴火が生じることがあり,そのような噴火を側噴火と呼ぶ.側噴火によってできた火口や小火山体は側火山と呼ばれる.
 火山が噴火をやめると,火山体は浸食によって失われていくが,浸食につよい部分だけが残る場合がある.その多くは,火口下のマグマの通り道であった火道や,火道から派生した岩脈であり,火山岩の集まりからなる奇岩(火山岩頸)として人々の目を楽しませてくれる.フランスのヴレイ地方に数多くの例がある.

図2:火山の種類と形態(Simkin and Siebert, 1994を改変).複成火山と単成火山のそれぞれについて代表的なものを示した.高さのスケールを,複成火山については2倍,単成火山については4倍に誇張してある.

 噴火堆積物の種類と特徴
 火山のまわりには,噴火によって堆積したさまざまな噴火堆積物が分布し,道路ぞいや採石場の崖で見ることができる.ある程度の知識があれば,そのような噴火堆積物を見るだけで,当時の噴火の様子が想像できて楽しい.
 噴火の際に,火口からばらばらの粒子として放出された噴出物をテフラと総称する.テフラは広い面積を一度におおうので,堆積して地層となったテフラは過去の時間面をあらわす鍵層として有用である.また,テフラの特徴や厚さ自体に噴火の仕方や規模についての多くの情報がこめられている.これらのことから,テフラにとくに注目して火山を調べることによって,精密かつダイナミックな噴火の歴史が明らかになる場合が多い.
 テフラをつくっている粒子は,直径によって火山灰(2mm以下),火山レキ(2〜64mm),火山岩塊(64mm以上)に分けられる.このうち,火口から弾道をえがいて飛んだことが明らかな火山レキまたは火山岩塊を,火山弾と呼ぶ.また,気泡をたくさん含んだ火山ガラスからできている火山レキまたは火山岩塊のうち,黒色または濃色のものをスコリア,無色ないし淡色のものを軽石と呼ぶ.
 テフラには,火口から噴煙に混じって空中を漂ってから降ってきたもの(降下堆積物),火口から弾道をえがいて飛んできたもの(弾道堆積物),火口から流れてきたもの(流れ堆積物)の3種類がある.降下堆積物は,火口から離れるほど厚さが薄くなり,粒子の大きさは小さくなる(ただし,狭い範囲でみれば厚さは地形の凹凸によらず一定であり,かつ粒子の大きさがよく揃っている).流れ堆積物は,厚さや粒子の大きさが火口からの距離にあまり関係せず,谷には厚く尾根には薄く分布し,かつどの地点でもいろいろな大きさの粒子を含んでいる.降下堆積物(降下テフラ)は,それを構成する粒子の特徴によって,降下火山灰・降下軽石・降下スコリアなどと呼ばれることがある.流れ堆積物は,流れのメカニズムによって,火砕流堆積物・サージ堆積物などと区別される.
 火砕流は,テフラと高温のガス(100度以上)とが混じり合った高速の流れであり,とくに流動性の高いものは火口から数十km流れる場合がある.火砕流のうち,軽石を多く含む大規模なものを軽石流と呼んで区別することが多い.軽石流堆積物の例は,ギリシアのサントリニ火山,ドイツのラーハーゼー火山,フランスのモンドール火山などで見られる.火砕サージは,テフラと低温のガス(多くは100度以下)とが混じり合った,火砕流よりもガスの割合がずっと大きい希薄な流れである.多くの場合,火砕サージの到達距離は短く,火口から数km以内に分布する.火砕サージ堆積物の例は,ギリシアのサントリニ火山やドイツのラーハーゼー火山で見られる.
 テフラ以外の噴火堆積物の代表として,溶岩流がある.溶岩流は,溶融状態の岩石が流れ下ったものである.溶岩流の形態は,多くの場合粘り気(粘性)によって決まる.粘り気が少ないものは,のっぺりしたシート状の厚さ数cm〜数mのパホイホイ溶岩となる.アイスランドに多い.やや粘り気が増すと,ぎざぎざの岩塊に表面をおおわれた厚さ数m〜十数mのアア溶岩になる.アイスランドやイタリアのエトナ火山に数多くの例がある.さらに粘り気が増すと,多角形の巨大な岩塊に表面をおおわれた厚さ十数m〜数十mのブロック状溶岩となる.アイスランドのヴェイディヴェトン火山列によい例がある.


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