フランス語圏スイスでの暮らし方

Neuchatel市郊外のぶどう畑と古い町並み.遠景はNeuchatel湖.

Last modified: October 12, 1997

(注意)
 このメモは,筆者が1996年3月下旬から1997年3月下旬まで,スイスのNeuchatel(ヌーシャテル)州ヌーシャテル市に大学の客員研究員として滞在した個人的体験にもとづくものです.内容は修正・加筆していく予定ですが,間違い・カン違いや独断・偏見もかなり入っているおそれがあるので,利用する方は参考までにとどめてください(もし不利益があっても,筆者は責任を負いません).また,同じスイスでも各州ごとに(あるいはひとつの州の中でも)かなり流儀や文化が違う場合が多いですから,そのことも念頭においてください.
 筆者の滞在期間は1年間でした.しかも給料は日本側から出ていました.滞在期間が1年を越える場合には,いろいろな手続きが変わってくるようです(たとえば,運転免許はスイス独自のものを取得しないといけません.滞在許可証も種類によっては更新が必要になってきます).また,スイスで就労する場合には税金関係の手続きも必要です.筆者と異なる立場で滞在される方,1年を越えて滞在される方は,このような点も考慮に入れてください.
 日本ではスイス観光のための情報を多く入手できますが,スイスに長期滞在して生活するために必要な情報をほとんど入手できません.筆者は本当に右往左往しながら,少しずつこれらの情報を得てきました.これからスイス(およびその他のヨーロッパの国々)に長期滞在される方のために,ここに記された情報が少しでもお役に立てれば幸いです.

もくじ
1.出発までにすること

 ビザの取得
 クレジットカードとトラベラーズチェック
 旅行保険
 運転免許関係
 家財道具の輸送
 市町村役場への転出届
2.入国してすぐすること
 住民登録
 銀行口座の開設
 アパート探しと入居
 電話の申し込み
 家具の購入
 中古車の購入
 日本大使館への在留届の提出
3.スイス滞在のための基礎知識
 基本的心構え
 スイスという国
 英語はどのくらい通じるか
 気候・年中行事
 生活習慣
 キャッシング
 買い物・食事
 水
 おいしいご飯を食べる方法
 公衆トイレ
 電話
 ゴミの出し方
 医療
 電車とバス
 タクシー
 車事情
 テレビとビデオ事情
 新聞・雑誌・書籍
 幼稚園と小学校
 パソコン事情
 スイスで入手困難なもの
 スイスで意外とすぐ手に入るもの
4.スイスで感じたこと・気づいたこと
 びっくりしたこと
 そのほか気づいたこと
  景観を大事にする町づくり
  何ごとも自己申告
  合理的なシステム
  マンガ・アニメの大流行
 スイスのここが好き
 スイスのここが嫌い
5.スイスからの帰り方
 3ヶ月前までにすること
 1ヶ月前までにすること
 アパートを引き払う前までにすること
 アパートを引き払った後にすること
付記.ヌーシャテルという町

Neuchatel市街の中心部.


1.出発までにすること

ビザの取得
 ・スイスに長期(3ヶ月以上)滞在する場合は,ビザ(ただし,厳密にはビザという名前ではなく,Assurance d'autorisation de sejour avec approbation de l'office federal des etrangersという長い名前,つまり滞在許可保証書)を取得する必要があります.
 ・滞在許可保証書は,東京麻布にあるスイス大使館(あるいは大阪のスイス総領事館)に本人が直接出向いて申し込みます(代理人による申請は認められていません).
 ・まず,スイス大使館にあらかじめ電話し,申し込み方法と必要書類をたずねた上で,申込書(英文)を郵送してもらいます.それに英文で記入した上で,家族全員のパスポートと写真,受け入れ先からの招へい状のコピー,滞在費用の証明書のコピーなどの必要書類をすべて英文で用意します.
 ・それらを持って,スイス大使館に本人が出向き,窓口で中身を確認してもらって受け取ってもらいます(パスポートはその場で返される).
 ・2〜3ヶ月すると,スイス本国から,本人および同行家族分の滞在許可保証書がスイス大使館に送られてきます.それをスイス大使館から郵送してもらいます.あとは,それを大切に保存し,忘れずにスイスに持っていきます.
 ・スイスに入国する際,パスポートと一緒に滞在許可保証書を見せて,入国年月日が記入されたスタンプをパスポートに押してもらいます.これでOK.

クレジットカードとトラベラーズチェック
 ・MasterCardまたはVisaカードを携行すべきでしょう.利用できるキャッシングマシンの数から言って,MasterCardの方が有利です.ただし,EuroCardの至便さにはかないません.MasterCardはEuroCardと提携していますが,両者のサービス内容には明瞭な差がつけられています(たとえば,EuroCardでは24時間利用できるキャッシングマシンが,MasterCardでは夜や土日に使えません).もしEuroCardが日本で入手できるのなら,EuroCardを用意した方がベターだと思います.
 ・クレジットカードを使ったキャッシングでは,どうしても利子分を損することになります(いくら決算日に近い日に引き出しても,決算日から引落し日までの日数分の利子がついてしまいます).大金を引き出すと,この利子が馬鹿にならない金額になってしまうので,当面必要な大金(アパートの保証金や車の購入費用)をトラベラーズチェックで携行すべきでしょう.スイスフラン立てのトラベラーズチェックなら,スイス国内のたいていの銀行ですぐ換金してもらえます(空港や駅でもできますが,手数料がかかるので損です).

旅行保険
 ・多くのクレジットカードについている海外旅行保険の有効期限は最長でも出国から3ヶ月ですから,それ以上滞在する場合は長期滞在用の別の保険に加入する必要があります.
 ・保険料はどこの会社でも似たり寄ったりですから,緊急時のサービス内容,海外での日本人スタッフ駐在所の数や場所,家族割引きの有無,家族の過失責任の包括保証の有無などをもとに決めるのがよいでしょう.
 ・スイスでは,すべての住民がresponsabilite civilという過失責任保険(たとえば,アパートの失火に対する保証など)に加入する義務があります.海外旅行保険に家族全員の過失責任の包括保証がついたものを選ぶことによって,この強制保険に入ったことと同等になるようです.出国前に保険会社に頼んで,保険内容の英文の保証書(attestation)を作ってもらっておくと便利です.
 ・同じくスイスでは,すべての住民が医療保険に入ることが義務づけられています.この保険は海外旅行保険で代用可能です(ただし,日本の海外旅行保険は妊娠・出産のための医療費を保障していません.スイス滞在中に妊娠・出産の予定がある方は,別途スイスにてそのための保険に入る必要があります).出国前に保険会社に頼んで,保険内容の英文の保証書(attestation)を作ってもらっておくと便利です.

運転免許関係
 ・スイスは国際交通条約に加盟していないので,日本で発行される国際免許が正式には通用しないそうですが,実際には国際免許を所持していれば便宜上支障ありませんので,国際免許を取得してもっていくと便利です(日本の運転免許も持っていく方がよいでしょう).車の購入やレンタカー使用の際に必要になります.
 ・スイスで車を購入する際に,強制保険に加入させられます(後述).この保険料はかなり高額ですが,無事故無違反期間の年数が長いと割引きになります.何年何月以来無事故無違反であるという証明書を英文で作ってもらっておけば(日本の地元の交通安全協会に頼む?)経済的です.
 ・海外滞在中に日本の運転免許の期限が切れる場合は,(期限日の1年前以降であれば)事前更新が可能です.

家財道具の輸送
 ・長期滞在のためには多くの家財が必要になりますが,後述するようにスイスは物価が高く,物資の種類も限られています.生活に必要な品は,ある程度日本から送っておくことをお勧めします.
 ・発送の手段としては,海外引越し業者か郵便があります.筆者は時間や場所の制約から,すこしずつ郵便で送りました.郵便局で海外小包用の荷札をもらってきて,箱づめしたものの種類・重量・金額を記載し(これが面倒くさい),厳重に梱包して郵便局にもっていきます.船便で1ヶ月半,SAL便で2週間くらいで届きました.かなり手荒に扱われた跡があるので,こわれやすい物には,かならず「Fragile! Handle with care」と書いた上で保険をかける必要があります.保険は発送時に郵便局の受付でかけられます.筆者の場合は,幸いにして紛失した荷物や深刻に壊れた荷物はありませんでした.
 ・荷札に記載した内容によって,関税をとられる場合がありました.その場合は,最寄りのスイスの郵便局(PTT)からまず通知が来ます.来た通知をもって郵便局に行って,関税を払って荷物を受け取ります.
 ・手荷物の輸送については,スイス航空で行く場合にはフライレールバゲージというシステムが便利です.出国時にスイス航空のカウンターで申し込み,最終目的地のスイス国鉄駅で受け取るシステムです.これに日本国内の宅配便の空港カウンター受け取りシステムを組み合わせれば,ほとんど大荷物に手を触れることなく最終目的地まで運べます.ただし,そうして運んだ荷物は多くの場合,入国日の翌日受け取りになりますから,1泊するための道具を手荷物の方に入れておく必要があります.

市町村役場への転出届
 ・これをしておくと,場合によっては所得税が免除されるそうです.また1年以上海外滞在する場合は,住民税も関係してきます.日本の勤め先に相談してから決めるとよいです.海外滞在中も日本の勤め先から給料が払われ,かつ1年以内に帰国して元の職に復帰する場合は,必要ないとも言われました.

2.入国してすぐすること

住民登録
 ・スイスに入国後8日以内に,前述した滞在許可保証書・家族全員のパスポートと写真・受け入れ機関(会社あるいは学校など)の身元証明(attestation)・登録料を持った上で,滞在する市町村の警察の外国人課に行き,住民登録をおこないます(この時点で住所が定まっている方が後から変更手続きする手間がかからないが,仮住所でも構わない).
 ・1〜2週間すると正式な滞在許可証(permis)がもらえます.その間に滞在許可証が必要になる場合(銀行や車関係)があるので,仮の滞在許可証を作ってもらうのがよいでしょう.頼めばその場で作ってくれます.

銀行口座の開設
 ・日本から持ち込んだ大金の管理,生活費の財源,アパートの敷金保証(後述)などのために,滞在地に銀行口座を開設すべきでしょう.最寄りの銀行の窓口に,パスポート・滞在許可証・換金用のトラベラーズチェックを持っていき,口座開設の申し込みをします.以下は,筆者が口座開設したスイス銀行コーポレーション(Societe de Banque Suisse)の場合です.
 ・口座はすぐその場で作られ,口座番号を書いた紙をくれます.日本の預金通帳にあたるものはありません.前月の入金出金内容が書かれた通知が,翌月のはじめに郵送されてきます.
 ・口座開設後,数日するとキャッシングマシンのための銀行カードが送られてきます.その時点でカードには暗証番号が登録されていません.そのカードとパスポートを持って,ふたたび銀行窓口に行き,暗証番号を登録したい旨を伝えます.窓口での機械の操作後,キャシングマシンのところに行って自分で自分の好きな暗証番号を登録します.以後は,日本の銀行カードと同じように使えます.
 ・スイスでは,銀行振込よりも郵便振替の方が圧倒的に利用頻度が高くなっています.家賃,電気代,電話代の支払いや通信販売品の代金支払いなどで,支払い方法を尋ねられることなく,まず郵便振替用紙が送られてきます.そして,大きな郵便局の郵便振替窓口にはいつも行列ができています.郵便局での支払いを簡単にするために,郵便貯金の口座を作り,「Postcard」と呼ばれるクレジットカードを発行してもらうと便利です.Postcardはキャッシュレスの郵便振替に利用可能なほか,スイス国内のたいていの店でクレジットカードとして利用できますし,EurocardやVisaとしても使える提携カードを作ってもらうこともできます.

アパート探しと入居
 ・アパート探しは,不動産業者を次々と訪れて物件を紹介してもらうか,新聞などの不動産情報で探すかの手段でおこないます.現地の友人に手伝っていただいて物件リストを集め,気に入った物件があれば業者と連絡をとって実際に訪れて決めるのがよいでしょう.物件の数はわりと豊富です.
 ・スイスのほとんどすべてのアパートでは,共同の洗濯室と乾燥室が地下(caveと呼ぶ)にあります.日本のコインランドリーにあるような横型の大きな全自動洗濯機が置かれています.入居後に管理人と相談して,自分の洗濯日(毎週○曜日)が決められます.
 ・家具なしのアパートがほとんどです.ただし,どのアパートにも暖房・給湯設備,キッチン,洋式バス・トイレは完備されています.どのキッチンにも必ずオーブンレンジがついていますが,レンジもコンロもセラミックヒーターを使った電熱式が多く,ガスコンロ・ガスレンジはめったにありません.
 ・バスルームとトイレ以外の電灯は入居前には付けられておらず,天井の電灯用の穴から電線がむきだしになっています(日本のようにソケット式にはなっていません).入居後に自分で好きな電灯を購入してつけます(電線同士をつなぐコネクタとドライバが必要です).
 ・どのアパートにも電話コネクタとテレビ+ラジオアンテナコネクタが完備されています.テレビ+ラジオは有線で,アンテナを購入する必要はありません.テレビ+ラジオを受信するためにはケーブル会社に使用料を払う必要がありますが,家賃に組み込まれている場合があります.また,この使用料とは別に,テレビやラジオ(ポータブルを含む)を持っているすべての人が,定められた受信料を毎月役所に(実際には代行するスイス・テレコムに)納入しなければなりません.入居後しばらくするとお尋ねの通知が来るので,そこにテレビ・ラジオの有無を記入して送り返すと,やがて振込用紙が送られてきます.
 ・入居にあたって,日本の敷金にあたる保証金(家賃3ヶ月分)が必要でした.銀行+不動産業者との契約によって,自分の銀行預金の一部がアパートの保証金としてブロックされるシステムを利用しました.
 ・家賃は,毎月月末に翌月分を郵便振込によって支払うシステムです(銀行口座からの自動引落しシステムもあるようです).
 ・家賃の相場は,日本の都会と同じくらいかやや高めです.ただし,管理費+暖房料+水道代が込みになっているので,日本より割安かもしれません.電気代のみ,別途市町村から請求が来ます.

電話の申し込み
 ・電話は,最寄りのテレコムのオフィスに出向いて申し込みます.保証金1000スイスフランがその場で必要です.
 ・日本のように電話機のレンタルか購入かが選べます.ファクス機のレンタルがなかったので,筆者は安売り店で別途ファクス機を購入しました.日本にはないA4判専用のコンパクトで高性能のファクス機が安価で入手できます(なぜ日本には,時代遅れでかさばるB4判ファクス機ばかりあるのでしょう?).
 ・申し込み後,(急がせた場合)数日して電話番号の記載された開設通知が送られてきます.電話局からのテストコールが一度ある点も日本と同じです.
 ・海外通話は,日本のように別会社に申し込む必要はなく,00発信でそのままかけられます.

家具の購入
 ・前述したように,スイスのアパートには家具つきは見あたらず,当然畳部屋もないので,最低でもベッド・ふとん・食卓・椅子・食器・電灯がなければ生活できません.家具や生活雑貨は町でも買えますが,郊外の大きなスーパーに車で行くのが便利です.なお,アメリカのように家具のレンタルはありませんが,中古家具を売っている店が若干あります.
 ・売っている家具はモダンなものが多く,ヨーロッパ調のクラシックなものは専門店の非常に高額なものか,中古家具屋にしか見あたりません.
 ・家具は組み立てられたものは少なく,たとえばデスクや引き出し家具のようなものでも自分で組み立てるシステムになっています.
 ・日本のように安物のベニヤ板やプラスチックを使った家具がほとんどなく(つまりは基本的に高額です),重厚な板を木ねじで止めて組み立てるので(穴すらあいていない場合がある),電動ドライバーがないと手を痛めます.
 ・購入して車で持って帰る人が多いせいか,日本のように配送システムが完備していません.よって,品切れの場合は3週間ほど待たされますし,ベッドのような大物の配送は在庫があっても3週間後に配達とか言われます.筆者は仕方なく,購入したベッドの輸送のために大型車を借りました.

中古車の購入
 ・スイスでは自前の乗用車メーカーがないせいか,乗用車・二輪車がとても高価です(だいたい日本での5割増しくらいの感じ).よって,とても新車を購入する気がおきません.
 ・レンタカー屋から長期レンタルできる制度があるかどうか一応調べましたが,見あたりませんでした.1ヶ月レンタルが最長のようです.
 ・中古屋は豊富で,置いてある車の3割くらいが日本車です.しかし,日本車・外車によらず,ほとんどがマニュアル変速車です.オートマ車にしか乗れない方は,車探しに苦労すると思います.なお,右手での変速操作は,最初は抵抗がありましたが,実際やってみると利き腕を使うので何ということはなく,すぐ慣れることができました.
 ・購入にあたっては,パスポート,滞在許可証,国際免許が必要でした.また,現金でのみ購入可能でした.よって,かなりの金額を日本から持参しておく必要があります.車の代金のほかに税金と保険料が必要です.
 ・税金を払うことによって,運行許可証(Permis de circulation)がもらえます.期限は年末までで,1年毎に税金を払って更新されます.注意すべきは,日本と違って,運行許可証を更新したい旨の手紙を11月末日までに自分で書いて送らなければならないことです(何も通知が来ないので,自分で忘れずに気をつけていないといけない).そうした上で年内に更新手続きと税金の支払いをし,新しい年のステッカーをもらうことになります.更新を怠ると,1月中ごろに警察の一斉摘発によって未更新のナンバーはすべて外され,非常に高額の罰金をとられることになります.
 ・保険には強制的に加入させられます.ただし,保証内容は日本の任意保険くらい強力なものを選ぶことができ,そのせいで保険金は高額です.前述したように,無事故無違反の期間の長さに応じた割り引き制度があります.保険会社は中古車販売店で紹介してくれました.購入後1ヶ月以上してから,正式な保険証が送られてきました.保険も年末が期限となっており,保険会社から次年分保険金の請求書が送られてきます.
 ・購入申し込み後1〜2日ですべての手続きが済み,車を入手することができました.

日本大使館への在留届の提出
 ・スイスに3ヶ月以上滞在する日本人には,日本大使館への在留届の提出が求められています.
 ・ベルンの日本大使館に電話すると,用紙を郵送してくれます.記入して送り返せばOKです.

雪に彩られたNeuchatelの街角.


3.スイス滞在のための基礎知識

基本的心構え
 ・スイス人は,一般に都会に住む日本人より,ずっと親切でほがらかに感じられます.
 ・社会全体が,基本的に言葉によるコミュニケーションを大事にしているように見えます.何事においても必要なサービスがコミュニケーションによって得られます.日本のように「見るだけで何でもわかる」ようにはなっていません.TVなどでも必要最小限のテロップしか出てきません(日本だとTV画面を見ているだけでわかるようなことにもヒアリング能力が要求されます).このことは外国人にとって,やや敷居が高く感じられます.
 ・スイスでは,社会自体が日本のように極度に能率を追及していませんから,日本のような素早く綿密で正確な対応を求めてはいけません.極端に言えば,何を頼んでも3〜4週間後という世界で,かつイージーミスがたびたび起きます.また,日本での常識はスイスでは常識ではない場合が数多くあります.日本とは別の時間が流れている別世界にきたと思って構えないとやっていけません.
 ・スイスの治安は日本以上に良いようです(ただし,観光シーズンでの観光地や駅では,他国から出張してきた泥棒団による盗難事件が頻発するそうです).スイス人はみんな所得が高く,そのことが物価と治安の良さを引き上げているようです.

スイスという国
 ・スイスは,総人口700万ほどの小国ですが,基本的には多民族・多言語国家です.アルプス地方に住んでいたいくつかの民族(アレマン族,ブルグンド族,ランゴバルド族など)による連邦国家であり,現在の各州はもともと別々の国家でした.
 ・スイスにはドイツ語圏,フランス語圏,イタリア語圏,レトロマンシュ語圏があり,これら4言語が公用語になっています(これらの言語境界を境にして文化的にもかなり閉じており,異なる言語圏の情報はあまり入ってきません).これらの言語境界は9世紀頃以来,あまり移動していません.言語境界は必ずしも州の境界と一致しておらず,ひとつの州の中にふたつの言語圏が存在する場合があります.ただし,レトロマンシュ語圏の人口は少ないせいか,多くのスイス製品の表示はドイツ語・フランス語・イタリア語の3ヶ国語表示です.
 ・スイスで話されているドイツ語は,ドイツのドイツ語とかなり異なっていて,ドイツ人にも通じにくいらしいです(ただし,書き言葉は正式なドイツ語だという).一方,フランス語圏スイスのフランス語は,フランスで話されているフランス語とかなり近い言葉だそうです.ただし,たとえばsoixante-dix(数字の70)をseptanteと言ったりする違いが多少あります.
 ・同じ国の中に別言語圏があるのは最初はとまどいますが,すくなくともドイツ語圏での買い物や外食はフランス語でもなんとかなります.
 ・多民族・多言語国家であるせいか,外国人に対しては日本社会よりずっと理解があり寛容であるように見えます.
 ・連邦国家のために,各州や自治体がかなりの自治権をもっており,自治体単位の住民投票がたびたびある点など,日本のような中央集権国家とはずいぶん勝手が違うようです.

英語はどのくらい通じるか
 ・高等教育を受けた人々には,英語がある程度通じます.役所・オフィス・ホテルなどでは誰かひとりくらいは英語を少し話せる人がいる場合が多いです.駅の窓口や車掌はたいてい英語でOKです(ただし,郵便局は×のようです).しかし,町の買い物やレストランでは,フランス語を多少は知らないと苦労します(一部国際観光地を除く).
 ・筆者にとっては,ドイツ語圏の人々のドイツ語なまりの英語が,とても聞き取りにくく閉口しています.一方,フランス語圏の人々の英語は,それほど聞き取りにくくなく助かっています(英語圏の人々の流暢過ぎる英語のほうが,ずっと聞き取りにくく感じられます).

気候・年中行事
 ・スイスというと雪におおわれたアルプスのイメージからとても寒い国と想像しがちですが,山間部をのぞいては想像したほど寒い国ではありません(都市のある低地の標高はだいたい250〜650mです).
 ・静岡と比べて,だいたいひと月分くらい季節が遅れて(春から夏),あるいは早く(秋から冬)訪れるという感じです.
 ・湿度は高めですが,まとまった雨が降るということがめったにありません.強い風が吹くこともまれです.冬でも風のないおだやかな日が続きます.
 ・昼間と夜間,および日なたと日陰の気温差がかなりあり,夏でも過ごしやすいです.晴天の日と曇天・雨天の日との気温差が極端です.たとえば6月には,湖で泳ぎたくなるような日もあれば,長袖シャツの上にジャケットを着たくなるような日もありました.
 ・真冬でも低地では積雪することが珍しく,風が弱いせいで体感温度はそれほど低くありません.
 ・3月下旬〜4月下旬の間の日曜日(年によって違う)に,キリスト教圏でクリスマスと並んでの最大行事である復活祭(paques)があります.場合によっては4〜5連休になるオフィスや店があるので注意が必要です.また,復活祭のあとも昇天祭とか聖霊降臨祭があって,4〜5月は連休が多いです.
 ・もっとも暑かったのが6〜7月で,晴れの日の最高気温は30度程度でした.でも夕方になるとすーっと冷え込んで,寝苦しいということがまったくありませんでした.エアコンや扇風機が一応売られてはいますが,よほどのことがないと必要ありません.
 ・7月になると蚊が出てきたので電気蚊取器を買いました.11月になるとほとんど出なくなりました.
 ・8月1日はスイスの建国記念日であり,休日です.
 ・9月上旬にはめっきり涼しくなって,紅葉が始まりました.9月はぶどうの収穫祭の季節でもあり,あちこちの町や村で盛大なお祭りが開かれます.
 ・10〜2月上旬の間は,低地は一日中雲海におおわれる日が多くなります.日本のような秋晴れはほんの数日です.
 ・11月なかばに紅葉はすっかり終わり,11月末には時々雪が積もりました.
 ・12月に入ると,街はすっかりクリスマスの装いに彩られました.月末になると一日じゅう氷点下の真冬日が多くなりました.クリスマス前から1月なかばまで,もっとも寒い日が続きました.最低気温は氷点下10度前後でした.1日の気温差がほとんどなく,昼間晴れても氷点下5度以下という日がありました.郊外の木々は美しい霧氷におおわれました.町の積雪は最高でも10cm程度でした.毎日朝早くから熱心に除雪がなされ,凍結防止剤がまかれるので,町中にいる限りノーマルタイヤでも心配ありませんでした.
 ・クリスマス休みは,だいたい1月の最初の週まで続きます.それまでは町や家庭のクリスマス飾りが飾られています.
 ・クリスマス前が,ちょうど日本の年末の雰囲気になります.この時ばかりは,日曜や夜遅くまで営業している店がありました.クリスマスイブがまさに日本の大晦日の雰囲気で,店は夕方早くに全部閉まりました.イブの夜から翌日にかけて,各国のTVはとてもおごそかな雰囲気になりました.
 ・新年の到来とともにあちこちで花火が上げられました.ヨーロッパ中の馬鹿騒ぎがTV中継されました.1月下旬になると,あちこちのワイン蔵から新酒のにごり酒(non filtreと呼ばれる,ちょっと濁っていてちょっと荒々しい味のする美味しい白ワイン)が出荷されて店に並びました.
 ・2月になると,木々の芽はふくらみ,花のつぼみも見られるようになりました.2月10日ころ,長いこと空に垂れ込めた雲海が突然吹き飛ばされ,以後晴天が続くようになり,日中の気温も5度を越えるようになりました.それとともにあちこちの庭のスノードロップとポリアンサスがいっせいに開花しました.また,クロウタドリ(ツグミの仲間)が増えてきました.ヨーロッパの春がこうして劇的に訪れることは,まったく知りませんでした.むしろ日本より体感的に明解な季節変化をたどっている気がします.
 ・2月なかばになると,カトリック教徒が多いあちこちの町ではカルナヴァルと呼ばれるお祭りが始まりました.これは宗教上定められた肉の断食期間に入るために,その前に肉を食べて馬鹿騒ぎしよう?という趣旨のもののようです.
 ・2月下旬になると,1996年産と銘打った新酒のワインがついに店に並び始めました.

生活習慣
 ・スイスの朝は早く,多くのオフィスや店の営業時間は朝8時(あるいはそれ以前)からです.保育園は朝6時30分から子どもをあずかる所があります.
 ・オフィスでも学校でも,12時前になるとほとんど全員が昼食(dinerと呼ばれている)のためにいったん帰宅します.そして14時ころになるとみんな戻ってきます.大型店を除くほとんどの店や役所が12〜13時半(あるいは14時)の間は閉店になります.
 ・平日のオフィスの営業時間は17時〜17時30分頃までですが,たいていの店は18時30分までやってます.ただし,木曜日は特別な日で,多くの店が20時〜20時30分頃まで営業しています.
 ・オフィスは土日休業です.また,店は月曜の午前中と日曜が休業で,土曜は16時30分〜17時頃に閉店となります(まれに日曜の午前中開いている店もあります).
 ・6月末〜8月末の間,学校は夏休みになります.子どもの夏休みにあわせて夏のバカンスシーズンが始まり,家族そろって長期バカンスに行く家庭が数多くあります.長期休業する店もかなりあります.バカンスシーズンにはオフィスも人影がまばらになり,テレビ番組も平常とは異なるものになります.
 ・バカンスシーズンの到来とともに,店の多くはバーゲンセールを始め,ふだんは高い品物も安く売られます.

キャッシング
 ・スイスのおもな駅および町の中心部にあるいくつかの銀行には,クレジットカードが使えるキャッシングマシンがあります.建物の外壁についているマシンは24時間営業です.ただし,24時間使えるのはEurocardなど地元のもののみで,VisaやMastercardが使用できる時間は平日の昼間に限られています.
 ・キャッシングマシンの多くは,独・仏・伊・英の4ヶ国語表示か,いずれかの言語表示を最初に選択するようになっています.また,どこかで操作に迷って立ち往生しても,一定の時間が過ぎれば自動的にカードが戻されるので安心です.
 ・正しく操作した後,カードが戻されるのみでお金が出てこない場合の多くは,取り扱っていない種類のカードを入れた場合か,カードの種類ごとに取り決められた取り扱い時間外になっている場合のようです.
 ・銀行の窓口は平日の16時30分頃まで開いています.駅や空港の換金窓口は夜間も営業しています.

買い物・食事
 ・スイスは,日本にくらべればずっと物資の種類に乏しい国です.日本にはあたりまえにあるものでも,スイスでは入手困難な場合が数多くあります.
 ・スイスでは,多くのものの物価が日本と同じかさらに高額です.
 ・スイスでは,基本的にチップは不要です.サービス料は金額に含まれています.ただし,タクシーや特別親切にされた場合にはチップを渡すようです.
 ・店に入った場合は,まず店員の目をみて「ボンジュール」などとあいさつするのが習慣になっています.
 ・外国人にとっては面倒なことに,必ずしもすべての品物が店頭におかれているわけではありません.ない品を尋ねてみると,カウンターの向こうや店の奥から出てくる場合があります.
 ・スイスではパーソナルチェックで買い物をしている人をほとんど見たことがなく,たいていは現金かクレジットカードを使います.多くの店で(大きなスーパーのレジでも)クレジットカードが使えますが,MastercardやVisaなどの国際カードが使える店は観光地以外ではかなり限られています.なお,トラベラーズチェックは,たとえスイスフラン立てであっても使える店はほとんどありません.
 ・スイスには日本よりも質の高い食材(とくに,豊富な種類の肉類)が多くありますが,あまり料理の上手な国とは言えないようです.とくに隣国のフランスに行った場合にショックを覚えます.
 ・スイスでは,日本産の食料品をごく限られた場所でしか入手できません.それでもよく探せば,醤油や酢をおいてある店を見つけることはそれほど困難ではありませんが,味噌や蕎麦などになると日本食品専門店(ジュネーブやベルンのような大都市にしかない)に行かないと手に入りません.ジュネーブの日本食料品店で,紙パック入りの豆腐を見つけて気絶しました(けっこうおいしかった).
 ・スイスで外食するためには時間がかかります.メインディッシュだけ頼んでも最低1時間,スープ・サラダやデザート・コーヒーなどを頼んだら2時間以上を覚悟しなければなりません.それを避ける方法が4つだけあります.買い食い,自炊,ピザの宅配(あちこちにある),マクドナルド(町に一軒だけ)です(他に,数少ないカフェテリア方式のレストランに入るという手もありますが,営業時間が限られていて昼食にしか使えません).
 ・レストランの支払いは,ほとんどの場合テーブルでおこないます.


 ・スイスの水は,概して豊富で清潔です.町中のいたる所に石づくりの泉(fontaine)があり,飲用可(potable)と明記してあるものもたくさんあります.泉から直接水を飲む子どもの姿も見かけます.
 ・ただし,レストランでは(他の多くのヨーロッパの国と同様)無料の水は配られません.
 ・水道水も飲用可のようですが,いちおう沸かしてから飲んでいます.ヌーシャテルの水は石灰分に富んでいて,湯沸器には石灰分が沈着してきます.
 ・数多く販売されているミネラルウォーターの中では,概してイタリア産のものが癖がなく,もっともおいしく感じられます.

おいしいご飯を食べる方法
 ・リゾット用としてスーパーなどで普通に売られているイタリア米が,電気炊飯器でとてもおいしく炊けます.海外電圧仕様(スイスは220ボルト)の炊飯器を持参しましょう(炊飯器は大電力を必要とする機器なので,日本電圧仕様の炊飯器では電圧変換トランスがとても重くなってしまい,非現実的です).

公衆トイレ
 ・スイスの町では日本と違って公衆トイレを見つけるのに苦労します.デパートなどの大型店にもあまりないのです.急の用足しには,店員に尋ねて借りるか,数多くあるカフェに入るしかない場合がほとんどです.
 ・一部の公園や高速道路のパーキングなどには公衆トイレがあります.ドイツやフランスと違って無料の場合がほとんどなので助かります(ただし,「大」用はコインを入れないと扉が開かないものが多少ある).

電話
 ・公衆電話は,コインまたはテレフォンカード(tax card)が使え,残り金額が表示されるので便利です.テレフォンカードは郵便局あるいは町のいたる所にあるキオスクで買えます.
 ・公衆電話や家庭の電話から,そのまま00発信で海外通話が可能です.
 ・建物に備えられている電話回線のコネクタは,日本とまったく異なる種類のものです.ただし,日本で普通に用いられているモジュラーコネクタに変換するケーブルが電器店で売られています.

ゴミの出し方
 ・住宅街のいたる所やアパートの入口にゴミの集積場所がしっかりと確保され,巨大な鉄製の容器が置かれています.日本のように路上を使ったりはしていません.
 ・普通の燃えるゴミと生ゴミは,スーパーでそれぞれ専用の袋を購入し,それに入れてアパート前の回収容器に回収日に出します.日本の一部自治体と違って,プライバシーを侵害する透明袋などはありません.
 ・びん,カン,紙,布,プラスチックは,分別した上で最寄りの街角の専用回収容器に出します(回収日と回収場所の限定されているアルミカン以外は,いつでもゴミ出し可能).ゴミ容器は細かく分別されており,ゴミの種類(各色別のガラス,鉄カン,アルミカン,新聞紙,雑誌・カタログ,段ボール,ペットボトルと透明ビニール,古着・布)によって分けて入れるようになっています(ほとんどすべてがリサイクルにまわされます.ヨーグルトの容器や小さなビニール袋にいたるまで,すべてリサイクルの表示がついているのには驚かされます).鉄カン・アルミカンは,中を掃除したうえで,ラベルを取り除き,上蓋・底蓋を切り取ってから出さなければいけません.
 ・壊れた電気器具,使い終わった電池や電球は電器店で引き取ってくれます.壊れた金属器具や古タイヤなどは,素材別に回収場所が限定されています.
 ・いわゆる「不燃物」のような雑多な分類はありません.捨てる側で素材別に分解・分別するのが原則です.たとえば,壊れた自転車は車体とタイヤに分け,それぞれ捨て場所が違います.壊れた傘は布を外した後,骨組みを金属部分と木材部分に分けて捨てます.
 ・程度のよい古い家具や電気器具,古着などは,セカンドハンズ専門店に持っていけば,ある程度の値段で引き取ってくれます.

街角の公共用地におかれているゴミ容器の例(その1).青いのは色別(白,緑,茶)のガラス容器.白いのは種類別(新聞,広告・雑誌,段ボール)の紙容器.いつでもゴミ捨てができるし,環境の美化にたいへん貢献する.スイスだけでなく,ヨーロッパの多くの国ではこれが普通.なぜ日本もこうしないのか?

街角の公共用地におかれているゴミ容器の例(その2).赤いのは缶などの鉄製品専用.黄色いのは古着などの布製品専用.

医療
 ・医者にかかる場合は,日本での歯医者のように予約が必要です.緊急時には病院や緊急担当医にかけこむことになります.救急車は有料です.
 ・海外旅行保険には,日本人駐在員が現地の医者を紹介してくれるシステムをもつものがあります.このようなものに加入しておくと,いざという時に役立ちます.
 ・完全な医薬分業になっており,医者の出した処方せんを持って,町のあちこちにある薬局(pharmacie)に行って薬を買います.日本と違って,処方せんがないと劇薬相当の薬が買えません.
 ・一般に,処方してもらった薬は,日本と比べて利きすぎる傾向があるようです.適宜自分で判断して,分量を調節したほうがよい場合もあります.
 ・以上の状況により,家庭の常備薬は日本から十分な量を持ち込むべきです.
 ・ただし,日本と違って「インフォームドコンセント」が確立されており,治療方法や処方される薬にかんする情報が十分与えられるうえ,選択権は患者側にあります.

電車とバス
 ・スイスの国鉄(独語でSBB,仏語でCFF,伊語でFFS)の駅には改札口がなく,車掌が検札にまわるシステムです.ローカル列車の切符は自動券売機で,遠距離列車の切符は窓口で買います.
 ・長期滞在者には,半額旅行パスが経済的です.あらかじめ駅の窓口で1年あるいは1ヶ月用の半額旅行パス(1年用150スイスフラン)を買っておくと,以後の切符をすべて半額で入手できます.購入にあたってはパスポート(1年用の場合は写真も)が必要です.半額旅行パスは,国鉄だけでなく,多くの私鉄や登山電車,ロープウェー,遠距離バス,湖の周遊船にも適用されます.
 ・スイス国内(および国際列車)の時刻表は,駅の窓口または町のキオスクで買えます.
 ・スイスの大きな町には,バス・トロリーバス・路面電車などからなるローカル交通システムがあります.停留所に置かれている自動販売機で,行き先別の切符をあらかじめ買って乗るシステムの場合が多いようです.日本のように乗車時あるいは降車時の検札はありません(ただし,深夜をのぞく).営業所の窓口に行くと,回数券や1年または1ヶ月用の定期券が入手できます.

タクシー
 ・駅や町の中心の定められた場所にはタクシーが待機していますが,流しのタクシーはなく,必要な場合はフリーダイヤルで呼ぶことになります.
 ・イタリアやフランスの一部などと違って,法外な料金を請求する悪質なタクシーはみかけません.

車事情
 ・スイスの速度制限は,普通車と自動二輪の場合,特別な表示がない限り,町中50km/h,郊外80km/h,高速道路120km/hです.
 ・ガソリンスタンドはセルフサービスです.自分で好きなガソリン(無鉛2種類,有鉛,軽油)を勝手に入れて,料金をレジに行って払うシステムです.レジのある場所はコンビニエンスストアのようになっており,品物も一緒に買えます.現金またはクレジットカードが使える自動のガソリンスタンドが多くあり,休日でも困りません.ガソリンの値段はだいたい日本と同じです.
 ・スイスの高速道路には料金所がありませんが,使用料(40スイスフラン)を毎年払い,支払い済み証明にあたるステッカーをフロントガラスに貼る必要があります.車の購入時にその年用のステッカーがついてきましたが,もし無かったら郵便局で購入可能です.
 ・スイスでは,町中の定められた多くの場所に路上駐車(たいていは縦列駐車)が可能です.白枠でパーキングメータ付きの場所はチケット購入の上決められた時間まで,白枠でパーキングメータなしは時間無制限で無料,青枠は1時間半以内のみ駐車可,赤枠は15時間以内のみ駐車可,黄枠は営業車と来客のみ,というように細かく分かれています.ただし,町の中心部で空いている駐車場所を探すのは苦労します.
 ・車を購入する際に車庫証明のようなものは不要です.町の中心部以外には,パーキングメータなしの白枠駐車エリアがたくさんあるからです.
 ・町中には立体駐車場もあります.ほとんど無人化されていて,入口の自動改札でチケットを受け取り,空いている場所に車を止めます.チケットを持参し,帰る際,車に乗る前にパーキング内のどこかにある自動料金支払機にチケットを差し込み,表示された金額を支払います.出てきたチケットを受け取り,車に乗ってパーキング出口に向かいます.パーキング出口にあるゲートにチケット差し込むと,ゲートが開きます.

テレビとビデオ事情
 ・スイスではケーブルテレビの回線がほとんどのアパートにはじめから入っていて,たとえば筆者の住むNeuchatelでは,仏語番組22チャンネル(スイスとフランスとルクセンブルクとモナコの番組),独語7(ドイツとオーストリアとルクセンブルクの番組),伊語4(スイスとイタリアの番組),英語4(イギリスの番組とアメリカのニュース番組),スペイン語1(スペインの番組),ポルトガル語1(ポルトガルの番組)のすべて(衛星放送を含む)を見ることができます.ただし,「アパート探しと入居」のところで前述したように,受信料が必要です.
 ・ただし,番組のいくつかにはスクランブルがかかっており,受信するためには専用のデコーダと別枠の受信料が必要です.デコーダの申し込みは町の電器店が代行してくれます.
 ・各番組に対して筆者がいだいている感想は以下の通り.
スイスの番組:真面目すぎてやや退屈.夜遅くなると凄惨なサスペンスが多く,うんざりする.早寝の国にふさわしく,夜半になると早々と終了してしまう.
フランスの番組:適度に刺激的でバラエティーに富む.センスがいい.SFが少なくて不満.
ドイツの番組:やや堅くて退屈.でも時々すごいドキュメンタリーがある.SFが多い.
イギリスの番組:ドイツと似た感じで堅実.
イタリア・スペイン・ポルトガルの番組:意外と堅くて,しかもやや単調で退屈(そうでないチャンネルもちょっとある).
オーストリアの番組:意外と派手.
総じて日本の番組より堅実で知的でセンスがよく,かつノイジーでないという印象をもちました.
 ・テレビ番組表は各新聞に掲載されているほか,日本のように週刊のテレビ番組専門誌がいくつかあります.ただし,それらの番組表のいずれも,日本のものほど詳細ではありません.
 ・テレビ番組は,驚いたことに日本のように厳密に時間通り放映されていません.数分〜数十分程度の遅れ(ときには少しの進み)がざらにあるので,ビデオ録画する際には最初と最後にかなり余裕を設けていないと頭や尻が切れてしまいます.
 ・テレビやビデオデッキ(仏語でmagnetoscope)は豊富にあり,しかも日本と同程度の金額で購入できます.ただし,ビデオデッキは大部分がVHS/SVHSです(8mm/VHS両用機がわずかだけある).ビデオカメラはVHS/SVHS-Cと8mm/Hi-8の両方があります.
 ・スイスのカラー方式はPALです.ただし,フランスからの放送やビデオ(SECAM方式)が出回っている関係で,PAL/SECAM両用のテレビ・ビデオ機器も多く出回っています.また,一部のビデオデッキではNTSCが再生のみ可能(PAL信号に変換してPAL方式テレビに映し出す)です(つまり,日本から持ち込んだVHS/SVHSビデオテープが再生できます).ただし,NTSC信号をそのまま映し出すテレビが見あたりませんから,日本から持ち込んだビデオカメラをつないで見ることは困難だと思います(これをするためには,日本の海外仕様製品を扱う電器店でマルチシステム(NTSC/PAL/SECAM)対応のテレビあるいはビデオを購入して持ち込む必要があるようです).
 ・こちらで売っているテレビやビデオのほとんどには,ヨーロッパ独特(ただし,イギリスを除く)の21ピンのビデオ入出力コネクタ(SCART端子と呼ばれる)がひとつか2つ備えられており(このコネクタひとつで,画像およびステレオ音声入出力1回線分をすべて兼ねてしまうから便利),日本で標準となっているRCAジャック型のビデオ入出力端子を備えるものがあまりありません.よって,日本からビデオ機器を持ち込むと,接続にやや苦労することになります(SCART/RCAの変換ケーブルは入手可能).
 ・前述のデコーダの多くは,このSCART端子を利用して働きます.しかも,SCART端子の出力は,テレビをビデオチャンネルに切り替えても,もとのテレビチャンネルの映像を出力し続ける仕様になっています.よって,SCART端子をもつこちらのテレビやビデオでなければ,こちらのデコーダをつなげられないようです.
 ・結論を言えば,日本からビデオカメラとビデオテープを持ち込み,しかもこちらのテレビ放送の録画や再生もしたい方は,日本からマルチシステムのテレビのみを持ち込み,ビデオデッキをこちらで購入するのがもっとも経済的だと思います.
 ・コンピュータのビデオ入出力に関しては,カラー方式の互換性の問題は生じません.なぜなら,Macintoshのビデオ入出力は初めからマルチシステム(NTSC/PAL/SECAM対応)だからです.コントロールパネルでカラー方式を切り替え可能です.

新聞・雑誌・書籍
 ・書店にあるのは書籍のみで,雑誌はおいていません.雑誌は雑誌専門店かキオスクで買います.
 ・店にあるのは仏語の新聞・雑誌・書籍がほとんどですが,雑誌店には独語と英語のものが若干あります.仏語の書籍・雑誌はスイス独自のものより,むしろフランスで刊行されているものが多いようです.以上のような事情から,同じスイス国内でも独語圏の情報はなかなか入手できず,違う国なのにフランスの情報を入手しやすいという状況です.
 ・新聞は雑誌店とキオスクにあるほか,街のあちこちの無人販売ケースに置かれています.日本のような宅配システムはないようです.無人販売ケースには鍵がかかっていませんが,払わずに持っていく人はいないようです.
 ・このほかアパートのメールボックスに週一回,町の広報誌が無料で届きます.役所からの広報やイベント情報,土地や品物の賃貸・売買情報などが満載されています.また,いろいろな店のチラシもよく入ってきて,貴重な情報源になっています.

幼稚園と小学校
 ・だいたいの地区には小学校(ecole primaire)と幼稚園(jardin d'enfants)がひとつずつあります.子どもの入園のためには,そこに直接出向きます.
 ・幼稚園や小学校の給食はありません.弁当をもっていく習慣はないので,小学校の子どもは昼食のためにいったん帰宅し,幼稚園児は親が昼食時に送り迎えをしないといけません.
 ・幼稚園は週2日半以上通園すればよいことになっています.通園は任意であり,週休2日です.
 ・普通の幼稚園とは別に,たとえば音楽教育を専門とするようなユニークなもの(たとえば週2時間1〜2回)もいくつかあり,普通の幼稚園と並行して通えます.
 ・小学校入学年齢については,たとえば1990年9月1日〜1991年8月31日までに誕生した子どもは,1997年の8月末から小学校に通い始めることになります.子どものいる家庭には,その半年前ころ(2月初め)に通知がきます.

パソコン事情
 ・オフィスや家庭には,安価であるためか圧倒的にPC互換機が普及しています.ただし,大学ではMacintoshがかなり優勢です.
 ・街にはPC専門店が何軒かあるほか,デパートや大きなスーパーにもPC互換機やPC用ソフトが売られています.Macintoshとその関連品(ただし,Mac/PC両用製品を除く)は,街に2軒しかない専門店で購入するか,通販で買うしかありません.
 ・Macintoshはハードもソフトも品薄です.在庫がないと入荷までだいたい3〜4週間かかります.しかも日本よりやや高価のように思います.
 ・店にあるほとんどのソフトは仏語版(一部に独語あるいは英語版あり)です.
 ・スーパーやキオスクで仏語のパソコン雑誌(ほとんどはフランスで刊行されているもの.マック雑誌あり)がたくさん売られています.また,一部の店ではイギリスで刊行されている英語パソコン雑誌(MacWorld英国版など)を購入できます.
 ・近くにインターネットのプロバイダがいくつかあり,14.4kおよび28.8kのモデム,あるいはターミナルアダプタを使って自宅からインターネットにアクセスできます.市内にインターネットカフェも一軒あるようです.パソコン通信(TYMNET)の接続ポイントも市内にあります.ここから日本のNifty-Serveに難なく接続できます.ただし,TYMNETからのNifty接続料金はかなり高いので,筆者はtelnetを通じて大学からアクセスしています.
 ・スイスの多く(?)の大学では,どういうわけかTCP/IPベースでない(x.400プロトコルの)メールサーバを使っており,そこを通過した日本語は(ESCコードが落ちて)化けてしまいます.よって,筆者の大学のアドレスあてに来る日本語メールは,まずESCを修復してから読まなければなりません.Macintosh上の標準インターネットメールソフトともいうべきEudoraはx.400をサポートしていないので,MacユーザーはTeamLinksMailという少々使い勝手のわるいメールソフトを使っています.また,大学のメール環境から日本へ向けて出す日本語メールは,BinHexにして送らざるを得ません.Eudoraは,受信したBinHexテキストを自動認識・解凍し,メールに添付されたテキストファイルとしてデスクトップ上に置いてくれます.よって,日本のEudoraユーザーは,エディタまたはワープロを使ってBinHex変換された日本語メールを読むことができます.
 ・上記のようにx.400のメールサーバにはいいかげんうんざりしたので,筆者はスイス国内のインターネットプロバイダと個人契約しました.これによって,大学からも自宅からも日本語メールの送受信が可能になりました.なお,大学のLANそのものにはTCP/IPも流れてきているので,Netscapeを使って日本のホームページを(日本語で)読むことができます.日本の各新聞社のホームページなどをつうじて日本の様子を知ることができ,貴重な情報源になっています.ただし,レスポンスは非常に遅く,うんざりすることたびたびです.
 ・日本のホームページの多くは,海外からのアクセス事情を何も考えていないように思います.海外からは,とにかくファイルの取り込みと表示に時間がかかります.このことをよく考慮してホームページを設計してほしいものです.とくに,ファイルサイズの巨大な絵をはりこんだり,おびただしい数の絵をはりこんだりして飾りたてたホームページは,なかなか見る気が起きません.クリッカブルマップは言語道断です.

スイスで入手困難なもの
 ・スイスでは,日本と違って入手困難なものが書ききれないほどありますが,そのうちの代表的なものを紹介します.
 ・青ネギ,ニラ,タケノコ.この3つの野菜はまったく見かけません(白ネギはよく探すとある).青ネギは,シブレットという野菜で代用していますが,風味はとうてい本物におよびません.レトルト食品としてギョウザが売られていますが,ニラが入っていないので美味くもなんともありません.シイタケもなかったのですが,最近スーパーで輸入品をやっと見つけました.大根も入手困難ですが,ほんの少しだけ売っているスーパーを見つけました.
 ・ハーフピッチのSCSIコネクタ製品.ハーフピッチのSCSIコネクタを使った製品は,どういうわけか機器・ケーブル共に見たことがありません.そう言えば,ノートパソコンというものをほとんど見かけません.
 ・気の利いた文房具.スイスには気の利いた文房具はあまり存在しないようです.そもそも種類が非常に限られています.ターンクリップすら入手困難です.

スイスで意外とすぐ手に入るもの
 ・インスタントラーメン.マレーシア産のがスーパーで売られています.わりとおいしい.最近ついに日清のカップヌードルを近くのスーパーで見つけました.それからアジア食品店で「出前一丁」を見つけました.「中華三昧」や「ラ王」があるといいのに...
 ・米.前述したように,あちこちで売られているイタリア産の米は日本産と比べて遜色ありません.
 ・醤油.キッコーマンのがどこにでも売られています.
 ・折り紙.日本産のものが大きな文房具屋で売られていますが,値段は日本の10倍です.

雪に彩られたNeuchatelの教会.

4.スイスで感じたこと・気づいたこと

びっくりしたこと
 ・ほとんどのアパートの地下に核シェルター(!)があります.アパートを建築する際に,設置が義務づけられているそうです.分厚い鋼鉄製の気密扉,空気清浄装置,備蓄物資が備えられています.ただし,どこのアパートでも,シェルターの中は木枠で区分され,各家庭の納戸として使われています.
 ・日本では「ベッドをください」と言うとベッドが手に入りますが,スイスではそうではありません.「ベッド(lit)」は,日本で言うベッドの木枠だけにあたります.つまり,そのほかにスプリング(sommier,日本で言うところのウッドスプリング)とマットレス(matelas)を購入して,はじめて寝台の機能が得られます(3点セットで売られていることは珍しい).ベッド,スプリング,マットレスは,たくさんの種類の中からそれぞれ気に入ったものを別々に購入できるようになっているわけです.ここにベッド文化の歴史の浅い国とそうでない国の明瞭な違いを見た気がしました.
 ・ある日,カーステレオが全く動かなくなったのでショップに行ったら,「壊れたのではなく,何らかの理由で電源が切れてコードを忘れたのかもしれない」と言われました.コードとは何かを尋ねてみたら,なんと盗難防止のために,カーステレオをいったん取り外すと,暗証番号を入れてからでないと再動作しないようになっているのだそうです.つまり,ヨーロッパでは駐車中の車からカーステレオが盗難されることが頻繁にあるということを意味しています(スイスではそんなことはないようですが).
 ・町に一軒だけあるマクドナルド(ハンバーガー屋)のトイレの入口には,おそらく公衆トイレとして使われないように暗証番号による電子ロックがついており,品物を買った客だけに暗証番号を教えてくれる(しかも日によって番号が変わる)システムになっています.
・どのアパートでも,部屋の出入口のドアには内側にも鍵穴があります.つまり,部屋の内側からロックする場合にも,鍵穴にいちいち鍵をさしこまないといけません.どうしてこのようなシステムになっているかは不明です(小さな子どもが勝手に家から出ていかないという利点はありますが).
 ・テレビ(スイスのTVに限らない)が時間表どおりに放映されていません.数分程度から,夜中になると数十分の遅れがざらです.また,週刊テレビ雑誌に掲載されているものが急に変更されることがよくあります.ときには1日中,予定時間表とまったく異なることまでありました.テレビ画面が乱れることが多いですが(とくにペイTVでは何時間も映らないことまである),日本のようにお詫びは流れません.こういうことに慣れてしまうと,少し画面が乱れただけでいちいち謝罪し,胃が痛くなるくらい神経を使って時間通り放映している日本のTVが異常に見えてきます.何もあそこまできっちりやることはないんじゃないでしょうか.
 子ども番組にいたっては途中打ち切りなどはざらで,中には最終回まで放映した後にまた最初に戻って続くとか,毎週放映していたものが突然毎日放映に変更されるとか,日本の常識では考えられないこともしばしばあります.

そのほか気づいたこと

景観を大事にする街づくり
 ・スイスでは街や村の景観を美しく保つことに対し,いろいろな努力が払われています.
 ・地下電線とケーブルテレビの採用によって,電柱・電線とアンテナをまったく見かけません(ただし,小さな村を除く).これだけでもずいぶんすっきりした景観になります.
 ・建物の屋根・壁・窓枠の色,看板の大きさや色に対して,かなりの程度の規制が設けられているようです.
 ・由緒ある建物は,個人の所有物であっても保護下に置かれ,改築や外観の変更が規制されているようです.
 ・中世・近世の石畳が残る街の中心部では交通規制が引かれ,一般車の出入りが禁止,または制限されています.
 ・高速道路は,街の近くでは地下を通っている場合が多いようです.
 ・街角や家々の庭や窓には,いろいろな種類の花がいつもたくさん飾られています.これらの花々は,いつも何かが咲いているように巧妙に計画されているように見えます.レンギョウとチューリップ(4月)→マロニエとライラック(5月)→薔薇とゼラニウム(6月)→ラベンダーとアジサイ(7月)という移り変わりが見事でした.
 ・大量の洗濯物を屋外の目立つ場所に干してはいけないことになっています.そのためもあって,アパートや住宅に大きな乾燥室が確保されているようです.
 ・すでに述べたように公共のゴミ集積場所と容器がしっかり確保されていることも,景観の美化におおいに役だっています.
 ・騒音がすくないということも,街の景観には重要な要素だと思います.スイスでは,公共の場所,レストランやカフェ,スーパーや店などにいっさいBGMが流れていません.好むと好まざるとにかかわらず,騒々しいBGMを聞くことを強要されることの多い日本とはまったく異なります.

何ごとも自己申告
 ・スイスでは,自己申告によって料金を支払うシステムが多いことに気づきました.
 ・すでに述べてきましたが,改札口のない鉄道,検札のないバス,新聞の無料販売箱などが,そのさいたる物です.遠距離列車にはさすがに検札が来ますが,ローカル列車には来ません.その気になればいくらでもごまかすことが可能ですが,スイスの人々は自己の良識に従ってきちんと料金を払っているように見えます.このようなシステムが日本ではすぐ破綻しそうなことを恥ずかしく思います.

合理的なシステム
 ・これはスイスに限ったことではないと思いますが,細かな物や流儀のひとつひとつをとってもゆきとどいた合理主義が感じられます.
 ・どのメーカーのテレビのリモコンにも,電源ONのボタンがありません.いずれかのチャンネルのボタンを押せば,自動的に電源ONになってそのチャンネルが映るからです(ただし,電源OFFのボタンはついています).
 ・最初,キッチンの換気扇のスイッチがどうしても見あたらなくて困りました.ドラフトの前枠を引き出したら,換気扇が回り始めました(ただし,最近は日本のシステムキッチンもこうなっているらしい).
 ・つまり,機械類は,徹底してワンアクションで目的動作が得られることを設計思想としているようです.
 ・多くの自動券売機は,まず行き先ボタンを押して,次に表示された金額分だけお金を入れる,というシステムです.スムーズに切符が買えます.
 ・郵便局の窓口から銀行口座への振込ができます.
 ・夜間もキャッシングマシンが使えます(地元のカードは24時間OK).出入口を夜間閉めてしまう銀行でも,銀行カードを差し込めば出入口が開いてキャシングマシンのある部屋まで行けるようになっています.
 ・多くの自動車用の信号は,青になる直前に,赤信号のほかに黄信号が短く点灯して,まもなく青に変わることを教えてくれます.
 ・高速道路の工事で1車線ふさぐ際には,かならず路肩あるいは対交側の追い越し車線を利用して片側2車線を確保してくれます.このため渋滞が発生しにくくなっています.
 ・合理主義が行き過ぎていて,かえって問題があると思う部分もあります.たとえば,玄関で靴を履きかえず(そもそも玄関が存在しない)家の中でも土足でいるというスタイル(これは合理主義と関係ないただの伝統かもしれませんが)は,部屋の掃除が大変です(筆者らはこれに堪えられず,出入口でスリッパに履き換えている).また,ABC順になっているミシュランの観光ガイドブックは,かなり使い込んだ今でもけっして使いやすいと思えません(大見出しにない地名を探すためには索引を引かないといけないから,この点で合理主義が破綻している.はじめから索引をひかないといけないのなら,大見出しをABC順にする意味はうすいと思う).

マンガ・アニメの大流行
 ・日本製のマンガとアニメが,スイスに限らずフランスやドイツなどでも人気のようです.
 ・これらの国々の各TVは,日本製アニメ(特撮物をふくむ)を各国語にふきかえて放送しています.ざっと目に入っただけでも,「セーラームーン」,「ドラゴンボールZ」,「ジャングル大帝」(以上フランス),「PowerRangers」(フランスとルクセンブルク),「Masked Rider(仮面ライダー)」(ルクセンブルク),「アタックNO.1」(オーストリア)などがあります(「PowerRangers」と「Masked Rider」は厳密には日米合作かもしれない).
 ・TVには有料のアニメ専門チャンネル(デコーダが必要)があり,8割方日本のアニメに占められています.こちらでは「めぞん一刻(こっちでの題名Julliette, Je t'aime)」,「タッチ(Theo)」,「北斗の拳(Ken, le survivant)」,「ハイスクール奇面組(College Fou Fou Fou)」,「きまぐれオレンジロード(Max et companie)」,「聖闘士星矢(Chevalier du Zodiaque)」,「キャプテン翼(Olive et Tom)」,「釣りキチ三平(Paul, le pecheur)」など,かなりバラエティーに富んでいます(気のせいか少年ジャンプ物が多い).
 ・こういった番組では,たとえば公衆浴場の場面が出ると「bain publique」というようにいちいち解説のテロップが流れますし,時代劇の場面では十手と提灯をもって「御用,御用」という台詞のかわりに「attention, attention」と言っていて,おもわず感心してしまいます.
 ・かつて日本人が大量に放映されたアメリカ産のテレビドラマによってアメリカ文化を知ったように,ヨーロッパの子どもたちは日本のことにかなり詳しくなっているだろうと想像します.
 ・わりと大きな書店には,「セーラームーン」「ドラゴンボール」「らんま1/2」「ドクタースランプ」などのフランス語版マンガ本が常置されています.
 ・また,雑誌屋にいくと,フランスで刊行されている日本マンガ専門誌が2〜3あります(子ども向けのと,マニア向けのとがある).雑誌の中にあるパリのマンガ専門店の販売品リストをみると,マンガ本に限ってはフランス語版だけでなく日本語版のままでも売られていることがわかります.
 ・TVでも本でもマンガのことを「MANGA」と呼んでおり,MANGAがフランス語(フランス語だとモンガーと聞こえる)として定着しつつあると予想できます.

スイスのここが好き
 ・自然景観の美しさは言うまでもないことですが,配慮と思慮に富んだ街の景観の美しさがすばらしいこと.
 ・人々の生活にあくせくしたところがまったくないこと.
 ・ちょうどよい人口密度.
 ・街中や店の中の騒音(拡声器,BGMなど)がほとんどないこと.
 ・古いもの,伝統あるもの,個性的なもの,人とのコミュニケーションを大事にする文化.
 ・人の目を見て,しっかりあいさつをかわす習慣.
 ・犯罪のすくない平和な町.
 ・ワインが安くておいしいこと.
 ・過ごしやすい夏.強い雨や風がほとんどない気候.想像ほど寒くない冬.
 ・のびのびした幼稚園や学校の教育.

スイスのここが嫌い
 ・現地語が達者でない者や外国人に対する配慮のなさ.
 ・よそ者に対する閉鎖性・保守性.
 ・なにごとにおいても対応が遅く,雑なこと.
 ・全般的に高い物価.
 ・選択の余地のない買い物.
 ・ほとんどの店が日曜定休であり,日曜日に買い物できないこと.土曜日もほとんどの店が午後4〜5時に閉まってしまうこと.よって,休日にゆっくり買い物を楽しむことが困難であること.
 ・新鮮な魚がほとんど入手できないこと.
 ・選択の余地がなく,こってりしたものばかりの外食.
 ・全般的に美味しいとは言えない料理・食品加工技術.
 ・1週間に1日だけしか洗濯機が使えないアパート.
 ・11月から2月にかけて晴れる日がほとんどないこと.

Neuchatelの典型的な住宅街.

5.スイスからの帰り方

3ヶ月前までにすること
 スイスでは,ほとんどの賃貸契約を解消するときに,前もって解約届を文書で届ける必要があります.解約届の必要性や提出期限については,個々の契約書に細かく書かれています.何月何日にこういう理由で解約したいので手配願います,と書いて送ればよいのです.
 3ヶ月前までに解約届を出さないといけない代表的なものは,アパートおよび賃貸ピアノの契約です.ただし,帰国時期が定まっていた私の場合は,アパートは賃貸開始時に期限付きの契約としてもらい,解約届は確認の意味で1ヶ月前に出しました.日本と違って,日割りでの家賃返却はありませんでした.
 帰国フライトの手配もこの頃始めた方が無難です.私は2ヶ月以上前に手配しましたが,2週間ほどキャンセル待ちをしました.

1ヶ月前までにすること
 その他のほとんどの契約は,1ヶ月前までに解約届を出す必要があります.該当するものは,
アパートの電気使用の解約届→電気会社へ
アパートのケーブルテレビ回線使用の解約届→テレビ会社へ
有料チャンネル(受信していれば)の解約届→そのチャンネルの放送会社へ
電話の解約届→PTT(スイス・テレコム)へ
TV・ラジオ税の解約届→PTT(スイス・テレコム)へ
自家用車の保険の解約届→保険会社へ
などです.うちのアパートの場合,水道と暖房料金は家賃と込みになっているので,アパート解約とは別の解約届は必要ありませんでした.
 このほか,自家用車の売却手配,家具や電気製品の売却手配,海外旅行保険の解約届,引越し便の手配(日通ジュネーヴ支店にお世話になりました),アパートを引き払った後に滞在するホテルの予約などをする必要があります.

アパートを引き払う前までにすること
 荷物の整理,物品処理,住所変更届が主体です.
 荷物を整理し,引越し業者に頼むものと自分で持ち帰るものとに分けます.また,賃貸ピアノの返却,家具や電気製品の売却および譲渡,ケーブルテレビ有料チャンネル用デコーダの返却,ゴミ捨てなどをおこない,日本大使館への帰国届,航空会社(frequent flyerプログラムに加入している場合)への帰国届,各種加入団体への住所変更または脱退届,郵便物の転送願い,電子メール転送設定,電子メールアドレス変更届などを処理します.

アパートを引き払った後にすること
 アパートの掃除:日本ではふつう管理人側で徹底的な掃除や内装の取り替えなどをおこないますが,スイスでは借家人側の修理や掃除によって完璧にもとの状態に戻した後に,不動産業者に返却しなければなりません.ただし,1年程度の滞在ならそんなに大変ではありませんから,不動産業者に相談するとよいです.掃除業者も紹介してくれます.掃除後に不動産業者にアパート内をチェックしてもらい,鍵を返却します.また,アパートの保証金返却の手続きもします.
 このほか,電気代の清算,電話代の清算と保証金の取り戻し,自家用車の売却とナンバーの返却,自家用車の保険料の清算もおこないます.市警察に行って住民登録の抹消手続きもします(これは一応10日前までにということになってます).
 以上の後,銀行口座の解約手続きをするか,あるいは貯蓄口座(saving account)への変更をおこないます.筆者の経験では,すぐに解約しないほうが何かと便利です.利息も日本よりずっと良いです.電話の保証金も後から銀行口座に戻ってくるそうです.
 大きな手荷物はフライバゲージを利用すると便利です.主要なスイス国鉄駅でフライト出発時間の24時間前からチェックインできます.航空会社に関係なく,そのまま荷物が帰国フライトに自動的にのせられ,成田で受け取ることになります.

Neuchatel湖畔から見たNeuchatel市街.

付記.ヌーシャテルという町
 ・ヌーシャテルは,スイスの北西端を占めるヌーシャテル州の州都で,人口3万ちょっと(まわりのベッドタウンと合わせてもたぶん7〜8万くらい)の小都市です.ジュラ山脈とヌーシャテル湖という大きな湖にはさまれた急斜面にある坂の多い町です.市街の端と端との標高差が200mほどもあり,町の中に市民の足としてケーブルカー(!)や急崖をのぼる公衆エレベーター(!)も通っています.
 ・標高は湖岸で400mくらいで,思ったほど寒くありませんし,雪もほとんど積もらないそうです.
 ・町の立つ基盤は白亜紀の黄色砂岩と石灰質泥岩で,この砂岩を建材にした黄色の建物と,石灰質泥岩を建材にした灰白色の石段(大型化石がたくさん入っている)とが町の雰囲気を作っています.隣町のHauteriveとValanginは,なんと下部白亜系HauterivianとValanginianの模式地です(地学関係の方は,お近くの地質年代表をごらんください).
 ・よく晴れた日には,町からアルプスの山並みを遠くに望むことができ,アイガー,ユングフラウ,モンブランがとくに高くそびえ立っている姿は感動的です(マッターホルンは,手前の山の陰になって見えません).
 ・一方,ジュラ山脈というのは標高こそ1000〜1500mですが,大部分は山脈というよりは,なだらかな丘陵といった感じです.
 ・ヌーシャテルの町の西側には,ジュラ山脈を斜めに深く刻む谷の出口があり,ここをフランスとスイスを結ぶ鉄道幹線のひとつが通っています.毎晩19時49分になると,パリ発ベルン行きのTGV(フランスの新幹線)が,静かにヌーシャテル駅にすべりこむのが見られます.
 ・ヌーシャテル大学は,フランス語圏スイスに5つ(スイス全体では11)ある国立大学のひとつで,たいへんこじんまりとした大学です.地質学教室のスタッフは技官もふくめて十数人といったところです.筆者は,やはり黄色砂岩でできた由緒ある建物の3階の一室に机をもらい,名誉教授のひとりと同室させていただきました.
 ・私の住むアパートは,ヌーシャテル市の西端近くにあるSerrieresという地区にあります.ここは日本でも有名なスシャールチョコレートの発祥の地のようで,創始者スシャールの銅像のあるクラシックな形をしたチョコレート工場が建っています.
 .ヌーシャテルとその周辺はスイスきってのワイン名産地のひとつであり,町の郊外は美しいぶどう畑で占められています.町で最大のお祭り(9月下旬)は,ぶどうの収穫祭にあたります.


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