豊田和久(1996)噴火堆積物と古記録にもとづく富士箱根伊豆地域の火山噴火史

 表記論文は,噴火堆積物の野外地質調査と古記録の解析によって富士箱根伊豆地域に分布する火山群の噴火史復元を目的とした研究の最終成果である.
 本研究は,とくに富士火山の主として北西〜南麓に対象を絞り,豊富な野外地質データを精力的に収集して噴火堆積物(およびそれにはさまれる噴火休止期の風成堆積物)の詳細な層序を確立した(古記録については諸般の事情から研究史のレビューだけにとどめた).この過程において本研究は,富士火山起源の7枚の主要テフラと,東伊豆単成火山群起源のカワゴ平軽石を識別・追跡し,各テフラの特徴・分布・噴火年代などを明らかにした.このうちのカケスバタスコリアは,本研究によって発見され,その給源を富士火山の側火山のひとつに同定することができた.また,大沢スコリアとカケスバタスコリアについて等層厚線図から噴出量と噴火マグニチュードを算出し,さらに最大スコリア粒径の分布データに対し主要な噴煙柱モデルを適用することによって,噴火時の噴煙柱高度・風速・噴出率・噴火継続時間の推定をおこなった.このような精密な噴火パラメータの推定は,富士火山においてこれまで研究例がなかった.これによって他地域における最近の火山噴火との定量的比較が可能となり,火山防災上の観点からの富士火山噴火史の評価や長期的災害予測が可能となった.