本論文は,伊豆半島の地質学的歴史を明らかにし,伊豆半島をふくむ伊豆・小笠原弧―本州弧衝突帯の構造発達史を議論することを目的としたものである.
本論文の前半部は,伊豆半島の主要地域の野外地質調査データをもとに特に第三紀層の層序・分布・地質構造を明らかにし,既存のデータを含めることによって伊豆半島全体に関する火山岩平均噴出率の推定,第三紀層変形メカニズムの推定,岩脈法による古応力場の推定を行なっている.その結果,各時代や地域ごとの特色やそれらの時間的変遷が克明に描き出されている.
本論文の後半部は,伊豆半島の他に丹沢山地,御坂山地,富士川流域,巨摩山地の陸上地質,ならびに伊豆・小笠原弧の海底地質に関してこれまで判明しているデータをコンパイルし,その再解釈を行なうことによって,本州弧―伊豆・小笠原弧衝突帯の構造発達史に関する新たなモデルを提案している.
前半部における調査資料は膨大な量におよび,その結果判明した数々の事実は今後の伊豆半島および伊豆・小笠原弧のテクトニクスを論じる上での第一級の資料となっている.また,後半部におけるデータコンパイルは現在手にはいる資料のほとんどすべてを網羅し,その考察の結果として提案された構造発達モデルは従来の考えとは異なるユニークかつ興味深いものである.