小泉聡子(1994)伊豆・小笠原弧における背弧リフトの構造・火山活動と発達史―伊豆・小笠原弧北部,新八丈凹地の解析に基づく

 本論文は,伊豆・小笠原弧の背弧リフトを構成する構造性凹地のひとつである新八丈凹地の地形・地質・岩石学的特徴を明らかにし,その成因や発達史を議論することを目的としている.
 本論文は,まず既存の海底地形データ・音波探査結果・潜航ビデオ画像の解析をおこない,火山地形・構造地形の判別をした上で新八丈凹地を5つの構造ユニットに区分し,それぞれの特徴を描き出している.また,これまで未分析であった採取試料の肉眼および薄片観察・粒度分析・全岩化学組成分析をおこない,堆積物や火山岩の特徴,とくにバイモーダルな組成をもつ火山活動や背弧海盆玄武岩の存在を明らかにした.伊豆・小笠原背弧凹地からの背弧海盆玄武岩の発見は,スミス凹地・明神凹地に次いで3箇所めであるが,新八丈凹地のような形成初期のリフトから背弧海盆玄武岩が噴出していることを発見した意義は大きい.
 そして,以上の結果明らかになった新八丈凹地の特徴から,小火山体の形態と岩質の関係・火山活動の変遷を議論し,さらにスミスおよび明神凹地のデータと比較・総合することにより,3段階からなる背弧リフトの構造発達モデルを考察・提案している.本論文の呈示した調査資料は多く,判明した数々の事実は今後伊豆・小笠原弧背弧リフトの構造発達とテクトニクスを論じる上で重要な基礎データとなるものである.