2002年度卒業研究発表会(2003.2.10)要旨集

自然現象記録媒体としての『塔寺八幡宮長帳』の特性分析
3091-6016 佐々木 博基  小山研究室
 福島県会津地方に伝わる『塔寺八幡宮長帳』は,中世東北地方の事件史をつづった貴重な史料であるが,正本と異本の2つが知られている.本研究は、『塔寺八幡宮長帳』および関連史料の記録特性を正確に把握することにより、当時の自然現象・災害発生状況を正確に知ることを目的とする。まず,正本と異本の両者から自然現象.災害に関する記述を抜き出しデータベース化した上で,内容分析をおこなった。正本では主に八幡宮における例年の行事が、異本では主に天異地変の起こった年月日とその状況が記述され,異本における自然現象記述件数が圧倒的に多い。正本と異本の両者に共通した自然記述の件数は22件であった。さらに比較のため,同じ時代範囲を対象として京都で編纂された私選国史『続史愚抄』前巻について同様にデータベースを作成し内容分析を行った。

織豊期の自然災害記録の分析−特に文禄五年(1596)を中心として−
3091-6026 松岡 祐也  小山研究室
 本研究では文献史学の手法を用い、織豊期の自然現象・災害について記録の内容分析を行う。特に、文禄五年(1596)には畿内を中心として大規模な地震災害が発生しているため、この年の記録に着目する。まず当時の史料に依拠して編纂され、自然現象・災害のインデックスとして有効と考えられる私撰国史『続史愚抄』中篇(1352〜1612年)を対象とし、歴史記録の全体像と記録特性を把握するために、発生年・場所・記録内容等をデータベース化した上で内容分析を行った。その結果、総記述量が時代と共に減少する傾向にあるのに対し、自然現象・災害記録の割合が増加すること、自然現象・災害記録のうち4分の3は畿内で発生した事件である事などが分かった。文禄五年については6つの史料を用いて、特に地震災害と降砂・降毛事件を中心に見ていった。地震災害については、公家・寺家の日記3件が被害のあった場所について詳しく記述しており、その他の3史料(本朝通鑑、日本報告など海外史料2件)では特定の場所での被害を詳細に記述していた。一方、降砂・降毛事件については記述のない史料が1件あったが、5つの史料には記述がなされていた。

近世初期における自然現象の記録分析 _とくに『續史愚抄』および『徳川実紀』の記録特性について_
3091-6025 早川 あゆみ  小山研究室
 近世初期は中世からの過渡期の時代であり、史料数が少なく、個々の史料の素性についても十分に解明されていない場合がある。よって,その時代を代表する編纂史料『續史愚抄』後篇(1611〜1779),ならびに『徳川実紀』の同年代範囲を対象として,そこに記されている自然現象・災害記述を抜き出し、記録特性と依拠史料の分析を試みた。作成したデータベースには、自然現象の種類、月日、場所、関連記述、依拠史料名を含め、その後、内容分析をおこなった。『續史愚抄』に記述された自然現象は、関西で起きたものが多く全体の60%、記述量が時代とともに増加傾向にあるのに対して、『徳川実紀』の記述は関東のものが多く全体の37%、時代とともに減少傾向にある。また、両史料に共通する記述は、續史愚抄において全体の9.5%、『徳川實紀』において、全体の7.6%と少なく、編纂材料の類似性は低いことがわかった。

日本の自然現象記録媒体としての海外史料の分析
3091-6012 北口 絵理  小山研究室
 中世末以降,日本には多くの欧米人が訪れるようになった.その際に残された史料には日本の自然や災害に関する記述が含まれる場合があり,近代科学の目をもって書かれた貴重な記録となっている.本研究は,16世紀中旬から明治初期までに来日した欧米人によって書かれた史料のうち,日本語に翻訳され出版された書籍を対象とし,その記録特性と内容の分析を目的とする.まず史料全体の概要を把握するため,個々の史料の扱う時代範囲と記録地・旅程を明らかにした.次に,史料中の自然や災害に関する記述をデータベース化し,内容分析を進めた結果,従来知られていなかった硫黄島の噴火記録などを見出した.

火山のハザードマップの現状と活用に関する基礎研究
3091-6015 坂本 珠紀  小山研究室
 日本の火山ハザードマップは,地元の住民でなければ入手が困難である上に,その内容を総合的に分析した研究に乏しく,かつ配付後の活用状況も把握できていない場合が多い.本研究は,今後の防災活動に役立てる視点に立ち,これまで日本で作成されたハザードマップの内容や活用方法について分析・考察をおこなうことを目的とする.まず,これまで日本で刊行された27火山についてハザードマップを収集し,それらの形式や記載内容の比較・分析を行なった.その結果,形式についてはA判が多いこと,内容については避難施設の位置,非常持ち出し品,災害の及ぶ範囲などが多いなどの類似性を見出すことができた.緊急時において,実際にマップ上の危険範囲をもとに警戒区域や避難指示区域を設定したなどの例がある.平常時はハザードマップを利用した活動はあまり行われていない。そこで富士山についての意識調査、火山防災とハザードマップに関するアンケート調査を住民や自治体の防災担当者を対象としておこない、火山の基礎知識の把握度合いや,平常時・緊急時におけるハザードマップをもちいた災害対応プランなどについて詳しい現状や改善点を把握・調査している。


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