(静岡地学,第86号,2002)
●鎌田浩毅 著
「火山はすごい 日本列島の自然学」
2002年6月,PHP研究所刊(PHP新書),240p,本体740円
●白尾元理 著
「火山とクレーターを旅する 地球ウォッチング紀行」
2002年6月,地人書館刊,230p,本体1500円
肩が凝らずに気軽に読める火山解説書が2冊ほぼ同時に刊行されたので,紹介しておきたい.著者の鎌田さんと白尾さんは,二人とも私の古い友人である.
鎌田さんは,通産省地質調査所(現在は経済産業省産業技術総合研究所)に長く勤務された後,現在は京都大学総合人間科学部教授として教鞭をふるう中堅火山学者である.一方,白尾さんは,かつて東京大学地震研究所で伊豆の達磨火山を研究対象として修士の学位をとられた後,現在は東京浅草にある実家のお寺の住職をしつつ,世界をまたにかけて活躍する天体・自然写真家として名を馳せている.
鎌田さんは勤勉実直できまじめな研究者であるが,研究室にこもるタイプではなく,一般市民への火山学の普及・啓発に並々ならぬ情熱をもっておられる.一方の白尾さんは穏やかであるが,いつもマイペースでちょっと抜けた所もある親しみやすい方である.表記2冊を読んでみて,そんなお二人の生き方や性格をそのまま反映したような本だなあと,まずは感心した次第である.
鎌田さんの「火山はすごい」は,阿蘇山・富士山・雲仙普賢岳・有珠山・三宅島という日本を代表する5火山について,それぞれの生い立ちや最近のトピックスについて個別に解説するスタイルをとりつつも,火山学の基礎についてまんべんなく学習できるという,ある意味で計算しつくされた本である.とは言っても,文章はエッセイ風であり,わかりやすい図や写真も豊富で,読者をまったく飽きさせない.話題も学問的なことだけに限らず,火山にまつわる人や社会のさまざまな話も織り交ぜられている.完成度の高い科学エッセイとして,万人に安心して勧められる書である.
白尾さんの「火山とクレーターを旅する」は,著者自身が世界各地の隕石孔や火山(クラカタウ,オルドイニョ・レンガイ,ストロンボリ,ハワイ,三宅島海底火口)を訪れたり,彗星や流星群やオーロラの撮影旅行をした体験がつづられた純粋な旅行記であり,鎌田さんの本のような緻密さや市民への啓発意図は見られない.しかし,その旅行記は,通常の人がふつうは行かない場所で,一生にそう何度もない素晴らしい体験をつづった物語であり,その道の人には垂涎の内容である.写真撮影の趣味がある人は,熟練した写真家がどのように場所・機材を選択し,どう撮影するかの具体的方法がわかるので,大いに参考になることだろう.唯一フラストレーションがたまったのは,肝心の素晴らしいカラー写真が本の表紙と裏表紙でしか見られないことであった.
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