(しんぶん赤旗日曜版 2022年2月27日)
私たち火山学者は、火山の不思議さに魅了されて研究を続けており、身近な火山が噴火したと聞けばすぐに駆けつけ、興味のおもむくまま噴火の様子を観察する。しかしながら、111もの活火山を抱える火山国・日本は人口密集地域でもあるため、噴火によって命や生活をおびやかされる住民や観光客が存在する。
ゆえに火山学者は、いやおうなしに行政・マスコミ・住民から避難や土地利用に関するアドバイスを求められる。それを疎ましく思って研究に没頭する学者もいれば、研究成果を活かすことに意義を感じて積極的に防災に関わる学者もいる。後者の代表格と言えるのが著者の荒牧氏である。
荒牧氏は、東京大学を始めとする教授職や、国内外の学会長も歴任し、富士山ハザードマップ検討委員会など火山防災に関する有識者としても活躍された。彼は火砕流研究の先駆者としても名高く、「火砕流」という言葉の名付け親でもある。しかしながら、素顔の彼に堅苦しい学者のイメージは一切なく、腰が低く陽気かつ話好きで、行政官やマスメディア関係者にも実に顔が広い。
本書には、著者自身の体験にもとづく1950年代以降の火山研究や噴火現場での、とっておきのエピソードが年代順に並べられている。俄には信じがたい古き良き時代の研究にまつわる話題がある一方で、火山噴火に直面した国内外の緊迫した現場において、行政の意思決定に関わった彼だけが知る裏話には初めて拝聴するものも多い。
情報公開が当たり前の今から見れば、密室での防災意思決定の繰り返しに辟易する面もあるが、後世の批判にたえる多くの証言を残してくれたことに深く感謝したい。
あらまき・しげお=1930年生まれ。東京大学名誉教授、元日本火山学会会長