(静岡地学,第86号,2002)

●藤沢の自然編集員会 編
「ふじさわの大地―人々の暮らしと自然―」

2002年3月,藤沢市教育文化センター刊,160p,本体+送料1810円


●藤枝孝善 編著
「自然地理探訪 伊豆の地形がわかる本」

2001年12月,自費出版,302p,非売品


 最近はあちこちの県で,カラー刷りを多用しながらも安価な自然解説書が次々と刊行されている.地形や露頭見学案内など,地学に特化されたものも多い.静岡県でも遅ればせながら「しずおか自然図鑑」(静岡新聞社)が刊行されたが,残念ながら地学に関係した部分は全体のわずか8%に過ぎない.将来的に見習うべき良き先例として,隣の神奈川県で最近刊行された「ふじさわの大地」を紹介したい.
 また,このような書が刊行される背景として,地元に根を下ろした研究者・教育者の知識や意識の向上が欠かせない.カラー刷りとはいかないまでも,地元の地学に関する最新の知識や研究成果を紹介する本が次々と刊行されるような状況が望ましいが,その点では静岡県はまだまだ後進県ではないだろうか.そんな中で,藤枝会員らの手による「伊豆の地形がわかる本」が刊行されたことは貴重であるので,それも紹介したい.
 「ふじさわの大地」は,なんと全頁カラー刷りの,藤沢市周辺の地形・地質に関する見学案内(一部に実験ガイドも含む)であり,地元の理科教員ら9人の共同執筆書である.内容は地学散歩案内から始まり,その基礎知識としての地元の地質や災害の歴史が語られる.その中では,2万年前から現在までを8つの時期に区分して描いた藤沢市域の古地形復元図が圧巻である.さらに,地形景観から地学的な歴史を読みとる方法が具体例を添えて解説され,遺跡,建造物の石材,化石のガイドが続き,最後に「おもしろ実験」コーナーがある.内容はよく練られており,文章もわかりやすい上に,図や写真がきわめて豊富である.中高生徒のための副読本として,そのまま使用できる高い完成度を誇る.神奈川県の地学教育界の底力を見せつけられた思いがする.入手先は,藤沢市文書館(神奈川県藤沢市朝日町12-6 電話0466-24-0171)である.
 「伊豆の地形がわかる本」は,沼津高専で長く教鞭をとられた藤枝会員とその関係者によって書かれた伊豆半島とその周辺の地形解説書であるが,内容は自然地理を主としながらも人文地理や文学までを含む幅の広いものである.表題に「伊豆」とあるが,実際には沼津市と富士市の海岸地域や,駿河湾の海底地形の話も含まれている.本の構成としては,まず「本州から突き出た特異な半島」と題して,さまざまな分野・切り口から6つの概論が語られ,その後北部・中部・南部に分けて19のテーマの各論が語られる.内容は,火山,活断層,段丘,平野の地下地質,海岸,湧水,温泉,地誌,文学,地殻変動,崩壊,土石流災害など,きわめて多岐にわたっている.とりわけ私にとって新鮮かつ衝撃的だったのは,三島由紀夫の作品中に描写される伊豆の自然や方言を論じた鈴木邦彦氏(沼津高専教授)による文学論である.このような視点は文理融合の真髄であり,総合的学習のための一つのヒントになるのではないだろうか.入手に関する問合せ先は,静岡県地学会事務局(静岡市大谷836 静岡大学教育学部地学教室内 電話054-238-4640)まで.


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