日本経済新聞 静岡発 私の提言(2019年3月14日)
小山真人(静岡大学地域創造学環・教授)
2018年春、伊豆半島が国内9地域めとなる国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界ジオパークに認定された。筆者も推進協議会顧問として関わり、構想から足かけ10年の悲願達成だった。そのかいもあり、地元には熱い志をもってジオパーク活動に携わる多くの人々が育ってきた。
ジオパークとは単なる自然公園ではなく、世界遺産の地質版でもない。大地に育まれた景観・生態系・歴史・産業・観光・教育・文化などのすべてを保全・活用している地域を、ユネスコが認定する仕組みだ。
世界遺産と異なり、4年に1度の継続審査をパスし続けなければならない。このため、ジオパークとして存続するためには資産の価値だけでなく、関わる人々の活動の質と継続性が問われることになり、それが審査の重点項目になっている。つまり、ジオパークは地域の誇りと財産、そしてそれを支える人材を維持し、継承させていく巧妙な仕組みなのだ。
こうした地域活性化の強力なツールを県内で伊豆半島だけにとどめておくのは惜しい。静岡県は3つのプレートにまたがる地球上の特異点にあり、今の姿となるまでには長く壮大な大地の営みがあった。
伊豆以外で静岡県の大地の成り立ちを語る最良の場所は、浜松とその周辺だろう。浜松市は広域合併によって長野県と接する広い範囲を占めたため、山間部には日本列島の西半分を代表する地層・岩石がそろい、それらを貫く大断層「中央構造線」も佐久間地区を通る。
浜松近辺の地層や岩石からは、2億年にわたるプレートの沈み込みが日本列島をつくったプロセスがわかる。かつての海溝にたまった砂や泥(気田川沿い)、太古の海山とサンゴ礁(竜ヶ岩洞)、地下数十kmから隆起したマントルや地殻深部の岩石(観音山や白倉峡など)もある。
さらに、天竜川の流れが数十万年かけてつくった三方原台地と浜名湖、津波が残した地層(白須賀)、地形(今切口)、伝承(細江神社など)が残るなど、貴重な資産は枚挙にいとまがない。
さらに大事なことは、そうした類まれな大地が育んだ広大な土地や水、森林、生物資源を利用して様々な産業をおこし、独自の気風や文化を育てながら地域を発展させてきた社会と人々が存在することだ。
ジオパークの考え方に従えば、天竜杉、佐久間ダム、紡績・楽器・自動車産業のみならず、地元独自の祭りや「やらまいか」文化、天竜川の治水に貢献した金原明善や、本田宗一郎らの偉人伝も関連資産として認定が可能だ。過疎化が進む北遠地域の活性化のためにも、浜松周辺のジオパーク認定を薦めたい。
写真 浜松市舘山寺の赤色層状チャートは、かつての深海の底にたまった地層だ。