静岡新聞 時評(2022年1月6日)

福徳岡ノ場噴火の軽石

 春以降の大量漂着懸念

小山真人(静岡大学未来社会デザイン機構教授)

 本年8月13日に硫黄島近くの海底火山「福徳岡(ふくとくおか)ノ場」が、日本国内で100年に1度程度しか起きない大規模な噴火を起こした。噴煙の高さは1万6千メートルを超え、数億トンのマグマが爆発的に噴出し、その多くが軽石となって付近の海面に降り注いだ。幸いにして噴火は3日ほどで停止したが、軽石は海流に乗って西向きに移動し、10月上旬から南西諸島に漂着し始めた。

 軽石は、マグマが噴出時に発泡・急冷してスポンジ状の火山ガラスになったものである。その名の通り軽いため、長期間漂って海中の日光をさえぎり、細かなものは船のエンジンの冷却系に詰まってオーバーヒートを招く。結果として南西諸島では海産物の被害や船の航行困難など生活への影響が深刻化しつつある。ただし、軽石は岩石の一種なので、それ自体に毒性はなく、表面には長い航海の間にエボシガイなどの海洋生物が不着・生育していて興味深い。自然の驚異と海の豊かさを学ぶ絶好の機会として捉えてほしい。また、軽石は古くから園芸用・工業用の材料としても知られ、短絡的にゴミとして扱うのは間違いである。

 ちなみに、少量の軽石の漂着は普段から起きていることである。九州や伊豆諸島には過去に大量の軽石を噴出した火山が多数あり、それらの一部が少しずつ陸地から浸食されて海流で運ばれるからである。それらの古い軽石は白くて丸みを帯びたものが多いが、福徳岡ノ場の軽石は灰色かつ凹凸に富み、俗に「チョコチップ」と呼ばれる黒い固まりを多数含むので、目が慣れれば容易に判別できる。

 軽石自体は手で砕けるほどもろいので、ぶつかり合ったり波にもまれたりして徐々に小さくなり、いずれは沈んでいく。しかし、過去には噴火の数年後に漂着した例もあり、いつまで影響が続くかを見通すことは難しい。

 さらに、南西諸島近海に広がった軽石の一部が、今度は黒潮に乗って11月なかばから本州と伊豆諸島に漂着を始めた。筆者が伊豆半島の海岸で最初に確認したのが11月23日であり、その後も県内各地から次々と発見が伝えられている。まだ漂着量はわずかであるが、過去の事例から考えて南風の強まる春から夏にかけて漂着量が格段に増える恐れがあるので、関係者は対策を準備しておいてほしい。

 


 

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