静岡新聞 時評(2021年9月2日)

熱海土石流 関係機関の対応

 リスク管理 情報共有を

小山真人(静岡大学未来社会デザイン機構教授)

 本年7月3日に熱海市伊豆山の逢初(あいぞめ)川で発生した土石流が市街地を襲った。発生源には今も不安定な盛土が残り、今後の大雨や地震による崩落を意識した監視・警報体制が応急整備され、対策工事が始められている。ここまでの対応を振り返り、評価・改善すべき点を指摘したい。
 最も評価すべきは、全国に先駆けて静岡県が整備した高密度点群データのおかげで、土石流の原因や規模の把握が迅速になされ、結果が次々と公表されたことである。点群データとは地域の立体的景観をまるごと電子的に保存したものである。これによって、車の自動運転や旅行の仮想体験等が可能となり、災害時の状況把握や被災した建物や景観の復元にも役立つと期待されていた。今回は災害時の役割が見事に果たされたわけである。
 しかしながら、翌4日時点の各種映像から崩れ残り盛土の存在が明らかだったにもかかわらず、同日の県からの発表は「盛土はほぼすべて崩落」であり、そのまま訂正なく報道された。発災直後の混乱の中とはいえ、真逆の安心情報が根拠の提示なく発信された点は残念であった。この重大な事実誤認を筆者が5日の現地調査をもとに指摘し、副知事も7〜9日の会見で残存盛土とその監視に言及したが、不安定盛土の体積(約2万立方m)が根拠資料とともに発表されたのは13日だった。
 県の情報発信は当初から盛土の造成経緯や土石流の原因分析に比重が置かれ過ぎで、残存盛土の監視体制とその情報提供が不十分と感じる。監視カメラが未だに1点のみで、盛土内の地下水量を示す湧水の状況変化が十分把握できていないし、カメラ映像以外の監視データは公開されていない。さらに、相互リンクすらなされていない県危機管理部と交通基盤部、国交省中部地方整備局、熱海市の4つのサイトを見ないと災害対応の全体像がわからず、概して更新が遅く資料も難解である。一方、土石流路の真上を通る東海道新幹線が、見合わせ時間帯があったものの、土石流が繰り返し発生していた発災当日に運行したことについてJR東海からの詳しい情報提供はない。
 心理学的な知見によれば、住民はリスクそのものの情報だけでなく、いかにリスクが管理されているかの情報を得ることで、安心と発信者への信頼に至る。すべての関係者が心に刻んでほしいと願う。

 


 

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