静岡新聞 時評(2021年5月12日)

富士山ハザードマップ改定版

 17年間の研究成果 結集

小山真人(静岡大学未来社会デザイン機構教授)

 富士山が将来噴火した際に起きる現象や、それらの影響が及びうる範囲を描いたハザードマップが改定された。初版以降の17年間の研究進展で蓄積された成果が、ようやく反映されたことになる。その中間報告の一部をすでに本コラムで解説したが(2019年8月15日ならびに10月16日)、改めて改定の主要ポイントをまとめよう。
 第1のポイントは考慮対象期間の拡大である。ハザードマップは過去の噴火履歴にもとづいて描かれるので、どこまで過去にさかのぼるかが重要である。さかのぼる年数が不十分だと、参考とする過去の噴火事例の数と中身も不十分となり、次に起きる噴火が容易に「想定外」となりかねない。初版では過去3200年間だった考慮対象期間を、改定版では過去5600年間に拡大し、その期間内に起きた約180の噴火事例を参考とした。これによって将来の噴火場所となりうる想定火口範囲が拡大し、静岡県側ではとくに富士宮市街地の近くまで広がったため、より迅速な避難が必要となった。
 第2のポイントは噴火の想定規模の増大である。初版での溶岩流の最大規模は1707年宝永噴火時のマグマ噴出量と同じ7億立方mとしたが、その後864年貞観(じょうがん)噴火の噴出量が13億立方mと判明したため、その値に置き換えた。また、火砕流の最大規模も最新の調査結果によって初版の約4倍の1000万立方mとなった。この結果、噴火の影響しうる範囲が全体的に広がる結果となった。
 第3のポイントは、噴火現象のコンピュータ・シミュレーションに用いる数値地図データの精細化である。初版で溶岩流に用いた数値地図の標高データは200mおきに1点という、まばらなものであった。このためデータ間に谷地形があっても計算上は無視されていた。今回用いた数値地図は20mおきに1点という桁違いに高密度のものであり、溶岩流や火砕流が谷に沿って遠方まで到達する結果となった。中小規模の噴火でも到達範囲が初版より拡大したのは、主にこの理由による。
 以上の結果、改定版ハザードマップは地域住民にとって初版より厳しいものとなったが、想定外の事態にみまわれるリスクを一層軽減できたことになる。この結果を受けて避難計画も改定されるので、関心をもって作業を見守ってほしい。

 


 

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