静岡新聞 時評(2020年4月23日)
小山真人(静岡大学防災総合センター教授)
新型コロナウイルスの集団感染(クラスター発生)を防ぐために、国の対策本部は「3密」すなわち「換気の悪い密閉空間」「多数が集まる密集場所」「間近で会話や発声をする密接場面」の3つが重なる状況の回避を呼びかけている。標語的で覚えやすいが、リスク情報の伝え方としては問題を感じる。
まず3密それぞれのリスクの数値や程度が示されていないため、受け手の都合によって「3密がひとつでも欠ければ大丈夫」などの幅広い解釈を許すことになる。個々のリスクの大きさを示せないなら、「重なる状況」などと言わずに3密すべてを避けると明言すべきだし、そのことが人々の感染リスクを最小限にするだろう。
「多数が集まる」という限定も、「少人数であれば安全」との拡大解釈や油断を許すだろう。すでに少人数の会議などでの感染例が全国から報告される現状を見れば、この限定はむしろ有害である。
さらに「間近で会話や発声」も疑問だ。今回のウイルスの感染経路は、飛沫感染か接触感染だとされている。「飛沫」は口や鼻から飛び散るしぶきを連想させるが、実際には10ミクロン以下の微細な粒子(マイクロ飛沫)を多数含むことが、NHKの放映した実験映像で説明され、対策本部のサイトでも紹介されている。こうした細かな「霧」は咳や発声、激しい息などによって生産され、空気の動きに乗ってある程度の距離を漂う。したがって、互いに手を伸ばしても届かない距離(2m程度)離れたとしても一定のリスクは残る。だからこそ換気が重要となる。つまり、換気の悪さを問題にするなら、「間近で」という限定を外さなければ自己矛盾がある。
そもそも3密重複の忌避は集団感染を防ぐための行動規範であり、個別の感染を考える上では甘さがある。個々人の目線で感染を避けるには、より単純明快に「換気の悪さ」「人の集まり」「マスクなしの会話や吐息」に加え、「他人が触った物体への接触」の4つに注意すべきだろう。それらは重ならなくても避けるべきだし、離れた会話でもマスク着用が望ましい。
なお、マスクは飛沫発生を大幅に抑制するが、防御側の性能は限定的とされる。マスク着用同士の会話でも感染例が報告されており、マスクを過信せず、他の対策も併用すべきである。ましてや布マスクは目が粗いので、その性能は一層劣る。