静岡新聞 時評(2019年10月16日)

富士山のマグマ噴出量想定

 宝永噴火の約2倍に

小山真人(静岡大学防災総合センター教授)

 前回の本コラムに引き続き、富士山ハザードマップ(改定版)検討委員会の中間報告の注目ポイントを解説する。まずは将来の噴火地点を推定し、山腹も含めた想定火口範囲を定めた。次にすべきは、そこからどのくらいのマグマが噴出するかの想定である。
 一般に、次に起きる噴火の規模(=マグマ噴出量)を確定的に予測することは困難であるため、その火山の過去の事例を参考に想定値を定めるのが普通である。富士山で過去に起きた噴火の規模はさまざまであるが、その70%程度は小規模、すなわち2000万立方メートル以下である。しかし、だからと言って小規模噴火を想定してしまうと、30%程度の確率で、その想定を上回る危険がある。
 しかも富士山の場合、直近の1707年に起きた宝永噴火が大規模であったため、それを無視することには抵抗がある。しかも、宝永噴火以後300年以上が経過したため、すでに地下に大量のマグマが蓄えられたと考えるのが自然である。このため、2004年のハザードマップ初版では次に起きる噴火規模の上限として宝永噴火と同じマグマ噴出量7億立方メートルを想定し、その影響範囲を描いた。大規模噴火まで想定しておけば、仮に小・中規模の噴火となっても対応可能だからである。
 ところが、その後の研究の進展によって、864年の貞観(ルビ:じょうがん)噴火のマグマ噴出量が、宝永噴火の約2倍の13億立方メートルと判明した。貞観噴火で流れた溶岩は、かつて北西山麓にあった大きな湖「せのうみ」を埋め立てて精進湖と西湖に分断し、本栖湖にも流れ込んだ。つまり、現在の富士五湖の形をつくった噴火であり、その広大な溶岩流の上に生育した森が青木ヶ原樹海である。
 貞観噴火は、富士山の北西山腹という比較的人口の少ない場所で起きた溶岩流出主体の噴火で、しかも広く深い湖が溶岩の受け皿となったため、大きな被害を免れた。
 しかしながら、次に起きる噴火が再び北西山腹になるとは限らないし、溶岩主体の穏やかな噴火になるとも限らない。火口の位置が悪ければ、大規模な溶岩の流れが本県や山梨県の都市部に向かうこともあり得る。こうした事態に備えるため、改定版ハザードマップでのマグマ噴出量の上限は、貞観噴火と同じ13億立方メートルと想定されることになった。

 


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