静岡新聞 時評(2019年8月15日)
小山真人(静岡大学防災総合センター教授)
富士山のハザードマップ(富士山火山防災マップ)が2004年に完成・公開されてから今年で15年になる。過去の富士山で起きた噴火の特徴にもとづいて、将来噴火が生じた場合の影響を想定した地図であり、それにもとづいた住民の広域避難計画も2015年3月までに整備された。一方で、ハザードマップ自体が作成以来一度も更新できておらず、初版以降に蓄積された多くの火山学的知見が反映されないままになっていた。
ようやく昨夏に至り、富士山ハザードマップ(改定版)検討委員会が組織され、2020年度中の完成を目指した作業が進められている。その中間報告が今年3月の富士山火山防災対策協議会で示されたが、注目すべきポイントを解説しておこう。
噴火の際、山麓の任意の場所にどのような危険が生じるかを見積もるためには、まず将来の噴火地点を推定しなければならない。富士山の場合は山頂だけでなく、山腹のあちこちで噴火が生じてきたから厄介である。15年前の初版作成時に、過去3200年間に噴火した60の火口を特定したところ、それらが山頂を中心として北西―南東に伸びる楕円形の範囲に分布することがわかった。将来の噴火地点もそこから大きく外れることはないと考え、その楕円形の範囲を将来の想定火口範囲とみなした。この範囲は、現行の避難計画において最も危険な第1次ゾーンに相当する。
ところがその後の研究の進展により、第1次ゾーンの外側にも次々と新火口が見つかった。さらに噴火年代に関するデータも蓄積し、5600年前までさかのぼって火口範囲を考え直すことが妥当という結論に達した。
以上の結果、改定版のハザードマップの想定火口範囲は部分的に拡大し、初版よりも市街地に近い場所(県内では富士宮市内の標高600m付近)まで広がった箇所もある。これは、その下流域での避難の時間的余裕が削られたことを意味する。しかし、初版では全く想定できていなかった場所からの噴火を、改定版では考慮に入れて避難に活かせるようになった訳なので、どうか前向きに考えてほしい。
現在、この想定火口範囲の中で実際に溶岩が流出した場合、それがどのくらいの時間でどこまで到達するかを計算中である。今後も折りを見て結果を紹介・解説していきたい。