静岡新聞 時評(2019年4月11日)
小山真人(静岡大学防災総合センター教授)
2017年11月、気象庁は確度の高い地震の予測ができないことを認め、従来の「東海地震に関連する情報」の発表をとりやめた上で、新たに確度の低い「南海トラフ地震に関連する情報(臨時)」の運用を開始した。その後、国はこの「臨時情報」を出せそうな4つのケースを検討し、実用可能と判断した3ケースについて、具体的な防災対応ガイドラインを先月公表した。
この3ケースとは、マグニチュード(以下、M)8クラスの地震が東海側あるいは南海側の想定震源断層で発生し、片側が割れ残った場合(半割れケース)、M7クラスの地震が震源断層内かその周辺で起きた場合(一部割れケース)、震源断層の一部がすべり始めたことを示す顕著な歪変化が観測された場合(ゆっくりすべりケース)である。
該当しそうな現象が起きた場合、まずは「南海トラフ地震に関連する情報(調査中)」が発表され、半割れケースと判断されれば「南海トラフ地震に関連する情報(巨大地震警戒)」、残る2ケースと判断されれば「南海トラフ地震に関連する情報(巨大地震注意)」が発表され、事前に定めておく防災対応に従うこととなる。
しかしながら筆者は当初より、上記3つ以外の、判断に困るケースの発生を懸念している。たとえば、南隣の琉球海溝でM9クラス、あるいは東隣の相模トラフや房総沖でM8クラスのプレート境界地震が起きた場合は3ケースのどれにも当てはまらないが、相当な緊張を強いられる事態となるだろう。後者は、実際に1703年元禄関東地震(M8.2)の4年後に1707年宝永東海・南海地震(M8.7)が起きた事例に相当する。また、前者は歴史上確かな実例が知られていないが、東日本大震災を起こした地震(M9.0)も歴史上の実例は知られていなかった訳である。こうした大規模事象が隣接域で生じた場合、現状の枠組みでは「警戒」情報も「注意」情報も出されないことになるだろうが、果たしてそれで良いのだろうか?
そもそも半割れ・一部割れケースの2つの想定は、日本については不確実なものも含む飛鳥時代以降、海外については20世紀以降の、数少ない事例をもとに実用可能と判断したに過ぎない。こうした前提の不確かさを十分わきまえ、上記3ケース以外の異常事態も念頭に置いた柔軟な防災方策を築いてほしいと願う。