静岡新聞 時評(2017年4月26日)

伊豆東部火山群防災対策

 課題あるも整備進む

小山真人(静岡大学防災総合センター教授)

 2009年6月25日付の本コラムで、伊豆東部火山群の噴火(伊東沖海底噴火)から20年経ても防災対策が不在であることを嘆き、観光と防災の融合をめざしたジオパークの設立を提案した。その甲斐あって2011年に伊豆半島ジオパーク推進協議会が組織され、翌年に日本ジオパークの認定を受けることができた。そして静岡県ならびに伊東市・伊豆市の地域防災計画の中にジオパークとの連携が明記された。その後、伊豆半島ジオパークの価値や精力的な活動は地元住民の間に広く知られるようになり、いったん保留となったユネスコ世界ジオパークへの認定を再度申請している。ちなみにユネスコは、ジオパークの主要な役割のひとつとして、地域の防災教育への貢献を公式に掲げている。
 一方、伊豆東部火山群の防災対策に関しても近年めざましい展開があった。伊豆東部火山群では、地下深部から時おりマグマが上昇して群発地震を起こし、最悪の場合は噴火に至る。1978年以来こうした群発地震が伊東沖で50回近く起きたが、それらを綿密に観測・研究した結果、大きな成果が得られた。群発地震の回数・継続期間・最大マグニチュード・噴火に至る可能性が、地下に設置された歪(ひず)み計の変化量から予測できるようになったのである。この手法を実際に用いて、2009年12月に発生した群発地震が向こう3日程度で終了し、噴火に至る可能性の低いものであることが、地震発生の初日に予測できた。しかし、その情報を社会に向けて公表するシステムや防災対策に生かす体制が、当時は存在しなかった。
 この情報システムを整備したものが、気象庁が2011年から導入した伊豆東部火山群の「地震活動の見通しに関する情報」と噴火警戒レベルである。また、それらの情報にもどづいた防災対策を計画・運用する組織として、伊豆東部火山群防災協議会が2012年に設立された。同協議会は噴火に対応した住民避難計画を2015年に策定し、それにもとづいた初めての住民避難訓練が地区限定ながら今年3月に実施された。一次避難所まで歩く距離が長いことや、市役所自体の避難計画が未策定など課題は多いが、噴火対策の整備が進みつつあることを素直に喜びたい。


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