静岡新聞 時評(2017年2月1日)
小山真人(静岡大学防災総合センター教授)
2014年9月27日の御嶽山噴火災害(死者・行方不明者63人)について、一度きちんと書いておきたい。有史以降の噴火記録が知られていなかったにもかかわらず、御嶽山は1968年から気象庁の活火山リストに含められていた。その判断の正しさを証明した1979年噴火は、2014年とほぼ同規模の水蒸気噴火であったが、当時の観測機器の乏しさのため前兆の詳細は不明である。その後、1991年と2007年に微小な水蒸気噴火が起きた。2007年の噴火前には、前兆的な地震活動の他に明瞭な山体膨張と火山性微動が観測されたが、噴火自体の規模は1979年よりずっと小さなものであった。御嶽山に噴火警戒レベルが導入されたのは2008年である。
2014年噴火直前の9月10日に52回、翌11日に85回の地震が観測され、噴火警戒レベル2の判定基準のひとつ(1日50回以上)を満たしたが、2007年のような明瞭な前兆は観測されなかった。この判定基準は、地震回数の他にも目安となる数値をいくつか定めていたが、レベルの上げ下げは「総合的に判断する」としていた。つまり、レベル1のまま解説情報を発表するにとどめた気象庁は、2007年の一事例を重視し過ぎて総合的判断を誤った訳であり、レベルを上げなかったこと自体は判定基準に反しない。むしろ観測事例の乏しい火山に噴火警戒レベルを導入したことの方が問題かもしれない。
明らかに気象庁が責めを負うべきは、9月10〜11日の異常発生に際して機動観測班を派遣しなかったことである。気象庁は、火山が怪しい動きをすれば「火山機動観測班」を派遣して観測を強化する仕組みをもっている。それを実行すれば観測データの質や量が高まり、より適切な判断を可能としたかもしれない。また、多数の登山者がいた実情やそのリスクも把握できたに違いない。さらには観測班の派遣自体が報道され、地元行政や登山者の警戒感を高めていただろう。
気象庁は、御嶽山噴火を教訓として登山者用の情報サイトや噴火速報を整備したが、既存物の流用が多く実効性は疑問である。噴火警戒レベルの在り方も含め、御嶽山噴火とそれ以降の気象庁と関係機関の対応について、第三者による徹底した検証作業を望みたい。