静岡新聞 時評(2016年3月10日)
小山真人(静岡大学防災総合センター教授)
時として広域に及ぶ火山噴火の被害に対し、自治体の枠をこえた防災対策を推進するために設置されるのが、火山防災協議会(以下、協議会)である。協議会は、関係自治体に加えて気象庁、国交省、消防、警察などのほか、その火山に詳しい研究者を招いた連合組織である。本県においては富士山火山防災対策協議会と伊豆東部火山群防災協議会が、これにあたる。
一昨年の御嶽山の噴火災害を受けて活動火山対策特別措置法が改正された後は、協議会の設置が活火山周辺自治体(火山災害警戒地域)の義務となった。この改正にともなって協議会の機能も増強されたが、それらは最近公表された「活動火山対策の総合的な推進に関する基本的な指針」に詳しく書かれている。ハザードマップの作成、住民避難計画の検討だけでなく、登山者の防災、ジオパークとの連携も明記されている。
2007年の噴火警戒レベルの導入によって市町村の責任の一部(火山の危険度に応じた防災対応の判断)を気象庁が肩代わりする仕組みができた。しかしながら、避難勧告や指示の権限者は、あくまで地元の市町村長であって気象庁ではない。そのため気象庁は、噴火警戒レベルに対応した地域防災計画が整備済みの火山(現時点で32火山)にのみ、警戒レベルを発表している。協議会は、こうした防災計画を事前に協議したり、更新していく場でもある。
さらに、実際の噴火危機が生じた際には、刻々と変化する現場の状況に即した対応を柔軟に議論し、住民・観光客・登山者の命と利益の双方を守るための、ぎりぎりの決断を下していく場も協議会(実質的には協議会の中核をなすコアグループ会議)である。つまり、国と地域と火山研究者を横断的につなぎ、平常時の備えから危機管理までをつかさどる現代的な火山防災・危機管理システムが協議会なのである。
したがって、協議会での議論を経ないまま自治体が国に直接陳情して気象庁の判断に干渉したり、逆に国側の都合で自治体側の防災対応が牽制されることは、あってはならない。どちらも協議会の存在意義を損なう行為であり、結果的には住民や観光客のリスクを高めたり、地元経済の浮沈を不当に左右しかねないと認識すべきである。