静岡新聞 時評(2015年12月17日)

気象庁の火山監視

  予知よりも大切なこと

小山真人(静岡大学防災総合センター教授)

 昨年9月27日に生じた御嶽山噴火では、噴火警戒レベルが1のまま噴火が発生し、多数の犠牲者が出た。しかしながら、噴火予知は一般に困難であり、噴火前に大規模なマグマ移動を伴う場合や、観測経験を積んだ数少ない火山での成功例があるに過ぎない。予知に依存しすぎる火山防災は、かえって住民や観光客のリスクを高める。
 予知があてにならない現状でもできることがある。それは、突然の噴火開始とともに発生した現象の解釈と被害予測に全力で取り組み、その情報を危険範囲にいる観光客や住民にすみやかに伝えて、被害を最小限に抑えることである。
 しかしながら、火山監視機関であるはずの気象庁は、目視による噴火現象の迅速な解釈が苦手である。例を挙げると、昨年の御嶽山噴火の際、国土交通省の監視カメラ映像が流れ下る火砕流を見事にとらえたが、気象庁はその解釈を保留し、翌28日午前にヘリから観察した気象庁職員は火砕流発生を否定した。しかし、同日午後に開かれた噴火予知連の拡大幹事会で異論が出ると、気象庁は一転して火砕流発生を認めた。発生から丸一日以上が経過した後である。
 もう一例、箱根山での問題を挙げる。今年4月下旬からの群発地震活動が続いた6月29日朝、箱根山に初めて火山性微動が観測され、昼過ぎには大涌谷の中心から1km以上離れた地点に微量の火山灰が降り積もった。悪天候のため大涌谷の状況は不明だったが、気象庁自身が定めた噴火の記録基準(火口から概ね100〜300mを超える地点で固形の放出物を確認)を満たしたのである。しかし、なぜか同日夜に気象庁は噴火発生を否定した。ところが翌30日午後になると気象庁は一転して噴火を認め、噴火警戒レベルを3に上げた。
 こうした解釈の誤りや遅れは新燃岳や阿蘇山の噴火の際にも見られた。つまり、気象庁は、目前で生じた噴火現象の様式・規模を解釈し危険度を推量する地質学的能力を著しく欠いている。このことは気象庁職員の専門性の低さや機器観測の偏重に起因するとみられるが、人材育成の問題は一朝一夕には解決困難である。他の組織との人事交流で当面をしのぐしかないと思うが、そうした動きが感じられないのは残念である。

 


もどる