静岡新聞 時評(2015年10月21日)
小山真人(静岡大学防災総合センター教授)
箱根山は日本の110活火山のひとつである。その地下には生きたマグマだまりがあり、温泉や噴気を地表にもたらすとともに、数年に一度は火山性の群発地震も起きてきた。本年4月下旬から始まった群発地震では、5月に入って大涌谷の噴気量が急激に増え、轟音とともに激しく噴き出る「暴噴」と呼ばれる状態になった。
これを受けて気象庁は、5月6日に箱根山の噴火警戒レベルを2に上げ、箱根町は大涌谷付近の立入りを規制した。その後、群発地震は徐々に衰えを見せていたが、6月29日朝から再び活発化し、翌30日にかけて大涌谷の中に4つの新しい火口が開き、水蒸気噴火が生じた。この噴火は、昨年の御嶽山噴火と同種の、噴気の圧力が主因となったもので、マグマが地表に達して起きたものではない。噴出した火山灰の量は百トン程度(昨年の御嶽山噴火の約5千分の1)で、ごく小規模な噴火であった。ただし、箱根山で確認された噴火としては、13世紀頃に大涌谷で生じた水蒸気噴火以来のまれな出来事である。
この噴火の発生によって警戒レベルは3となり、規制範囲が広げられた。しかし、幸いにしてその後は落ち着いた状態が続き、4月以来続いていた山体の膨張も8月中に収まったため、9月11日にレベル2に戻され、規制範囲も縮小されて現在に至っている。今後、山体の膨張が再開したりしなければ、今回の火山活動はこのまま収まっていくと思われる。ただし、暴噴は現在も継続しており、そのために大涌谷の火山ガス濃度も高く、風向きによっては健康を害する恐れがあるため、しばらくの間は警戒レベルを1に戻せないだろう。
箱根山は、平均して3千年に1度ほど、マグマそのものが噴出する厳しい噴火をくり返してきた。今回そうした事態に至らなかったことは不幸中の幸いであったが、噴火の認定や情報の伝え方等に課題を残した。一方で、温泉や美しい景観に代表される火山独特の恵みのおかげで、箱根山は一大観光地となった訳である。火山の恵みと災害は表裏一体のものであり、人間の都合でどうにかなる相手ではない。箱根山での経験を他山の石とし、さまざまな検証を通じて火山との付き合い方を今一度見直す機会としてほしいと願う。