静岡新聞 時評(2015年5月13日)

災害リスクを数値化

  対策の必要性明確に

小山真人(静岡大学防災総合センター教授)

 3.11災害後、「リスク」という言葉がよく使われるようになったが、その意味をきちんと理解している者は少ない。一般市民は危険(または危険性)のことを漠然と「リスク」と呼ぶが、専門家はその大小を比較するために厳密な定義を与えてリスクを数値で表すことが多い。この定義は分野や使用目的によって複数あるので注意が必要だが、ここでは被害規模を発生間隔で割った値、つまり1年あたりの値に平均化した被害規模を、その災害のリスクと考える。被害規模としては犠牲者数を用いることにする。つまり、1000人の犠牲者を出す規模の災害があるとして、その災害の平均発生間隔が100年であるとすれば、リスク(1年あたりの犠牲者数)は1000人÷100=10人となる。
 現実の例として3.11の津波災害のリスクを考えよう。津波発生前に、その浸水域には約60万人が住んでいた。仮に全員が避難せずに、そのまま犠牲者になったとしよう。当初は千年に1度と言われた津波は、その後の調査で約500年に1度と判明したので、1年あたりの犠牲者数は60万人÷500=1200人である。実際には避難行動をとったことによって犠牲者を約2万人にまで減らせたので、2万人÷500=40人となった。このようにリスクを数値化することによって、対策によるリスクの低減効果を明確にできる。
 リスクの数値化は、稀にしか起きない巨大災害を考えるツールにもなる。たとえば富士山は約5000年に1度の山体崩壊をくり返してきた。もし山体崩壊が予告なく起きれば最大40万人もの犠牲者が出る。1年あたりに換算すれば、40万人÷5000=80人となる。つまり、5000年に1度しか起きない災害も、リスクの数値で見れば3.11災害と同程度に危険であり、対策の必要性が納得できる。
 以上のことからわかるように、災害リスクの大小を発生間隔(言い換えれば発生頻度や発生確率)だけで考えるのは不適切であり、被害規模も考慮した数値としてとらえることが重要である。それにもかかわらず、発生確率の小ささだけを強調して巨大災害への対策をとろうとしない人々が、未だに世の中に数多くいることを指摘しておきたい。

 


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