静岡新聞 時評(2015年1月7日)
小山真人(静岡大学防災総合センター教授)
昨年9月の御嶽山噴火以来、水蒸気噴火が注目を浴びている。そもそも火山の噴火は、その原動力によって次の3種に分けられる。火山ガスの力でマグマが直接噴き出すマグマ噴火、地表付近の水がマグマと直接ふれ合って爆発する水蒸気マグマ噴火、地中の水がいきなり沸騰して起きる水蒸気噴火の3つである。前二者はマグマが地表に上ってこない限り発生しないが、水蒸気噴火は地熱の高い場所ならどこでも起き得る。
かつて富士山も山頂付近の地熱が高い時期があり、そこから立ちのぼる噴気の様子が歴史上の絵画や文書に書かれたり、熱い噴気で卵をゆでたりした記録が残されている。こうした時期には、山頂への登山者が突然の水蒸気噴火に遭遇する可能性もゼロではなかった。しかしながら、富士山頂の地熱活動は1980年代以降に全く観測されなくなって現在に至っている。つまり、今の富士山には地下の浅い部分に過熱状態の帯水層は存在せず、水蒸気噴火が生じる恐れはまずない。
しかしながら、富士山のマグマは粘り気が少なく、小さな岩の隙間を大した抵抗もなくするすると上ってきやすい。それゆえ大量のマグマ上昇をともなう噴火はまだしも、小規模噴火の予知は難しいし、警報が間に合わないこともあるだろう。つまり、水蒸気噴火が起きにくい富士山でも、突発的噴火の可能性を念頭に置く必要がある。居住地域にほとんど影響のない小規模噴火であっても、御嶽山のように登山者が犠牲になる場合があるからである。そして富士山で過去実際にもっとも数多く生じてきたのが小規模なマグマ噴火であり、噴火場所は山頂から山腹の広範囲に及んでいる。
富士山噴火の登山者対策は、こうした火口位置を事前に特定できないマグマ噴火を考えなければならない点で、御嶽山とは前提条件が根本的に異なる。登山道の直近で割れ目火口が開いて真っ赤な溶岩が流れ始め、場合によっては小さな火砕流も発生し、登山者や山小屋を襲う場合も十分あり得る。シェルターは溶岩流や火砕流を防げないし、景観を破壊する。何よりもまず入山者数を抑制した上で、十分な安全装備と知識をもつ者だけを登らせることによって、災害リスク全体の低減を図るべきである。