静岡新聞 時評(2014年4月30日)

原発安全審査への疑問

  火山リスク過小評価

小山真人(静岡大学防災総合センター教授)

 原子力規制委員会によって川内原発(鹿児島県)の再稼働に向けての優先審査が進められている。その中で、原発に被害を与えそうな巨大噴火の発生可能性が十分小さい上に、それがモニタリング(機器観測)によって予知可能とされた件に異を唱えたい。
 ここで言う巨大噴火とは、火口から最大半径160kmほどの範囲が、大規模な火砕流によって面的に焼きつくされる噴火のことである。巨大噴火を起こす火山(カルデラ火山)は九州と北海道に多いが、静岡県付近では箱根山と伊豆諸島海域にある。川内原発の近隣には、日本の原発としては最多の6火山が存在する。実際に、約3万年前に鹿児島湾北部で生じた噴火では南九州全域が壊滅し、厚い火砕流堆積物がシラス台地をつくった。
 九州電力によれば、南九州の巨大噴火頻度は6〜9万年間で1回であり、最新の噴火から7千〜3万年しか経てないので、川内原発の運用期間中の発生可能性は十分小さいという。これは巨大噴火の未遂事件が全く起きていないことを暗に仮定した過小評価である。また、何をもって発生可能性が「十分小さい」と判断するかは規制委員会の火山評価ガイドに書かれておらず、曖昧かつ恣意的な基準と言わざるを得ない。12〜13万年前以降に動いた活断層上への原発立地を不適とする明確な基準とは対照的である。活断層上がダメなら、同じ期間内に火砕流が届いた場所も当然ダメにしないとつじつまが合わない。
 また、こうした巨大噴火の観測例が皆無なので、観測で予知可能というのも楽観的すぎる。噴火の規模を、噴火の前や開始直後に知る技術はまだない。仮に巨大噴火が予知できたとしても、直前では意味をなさない。住民と違って核燃料はすぐに移動できないからである。
 摂氏600度におよぶ火砕流堆積物に埋まった原発には手の施しようがなく、長期にわたる放射性物質の大量放出を許すだろう。しかも、巨大噴火は日本列島の広い範囲に火山灰を積もらせる。3万年前に降った火山灰の厚さは静岡県内でも20cmあるので、交通や物流に大混乱が生じた上での放射能汚染となる。
 つまり、こうした巨大噴火の発生確率がいかに小さくても、その被害の深刻さを十分考慮しなければならない。規制委員会は、実際に火砕流で埋められた原発に何が起き、どこがどの程度汚染され、どれほどの被害が生じるかを厳密に検討した上で、原発の立地基準を数値で明確化すべきである。また、本当に観測で予知可能かどうかは、素人判断せずに火山噴火予知連絡会に諮問してほしい。

 


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