静岡新聞 時評(2003年8月12日)

静岡平野の地下構造探査を

  断層確認や震度予測に有効

小山真人(静岡大学教育学部教授)

  7月26日に宮城県北部で起きた連続地震の容疑者として,政府の地震調査委員会は当初「旭山撓曲(とうきょく)」の名を挙げた.撓曲とは,地中深く潜む断層のずれが,その上にのる柔らかな地層をたわませてできた構造のことである.伏在する断層が活断層の場合には,通常の活断層と同じく,大地震発生のポテンシャルを秘めた場所となる.このような活断層の地表反映としての撓曲は,日本では決して珍しいものではなく,実は静岡市民にとっても無縁の存在とは言えない.静岡市民の憩いの場所である「日本平」(地学的な名称は有度丘陵)が,そのような撓曲の仲間かもしれないのである.
 日本平は,過去10万年間で300mも隆起するという日本でも有数の激しい地殻変動を経てきた場所であり,活断層研究者の注目も浴びてきた.活断層カタログとして有名な「新編日本の活断層」(東大出版会,1991年)は,日本平を「活傾動」(活撓曲もその一種)としている.また,最新の知見をもとに日本全国の活断層を見直した「活断層詳細デジタルマップ」(同出版会,2002年)は,さらに一歩進んで日本平の西〜北縁に活断層(日本平断層帯)を描いている.さらには,1841年,1917年,1935年,1965年に静岡平野付近でマグニチュード6クラスの被害地震が発生しているが,それらの地震を引き起こした断層は特定されておらず,日本平以外の場所の地下にも未知の活断層が眠っている可能性がある.日本平断層帯も含めたこれらの小活断層の起こす地震がマグニチュード7を越えることは通常考えにくいため,マグニチュード8が予想される東海地震の陰にかすみがちである.しかし,東海地震の発生域よりも浅い地殻内部で発生するため,1935年静岡地震のように,局地的ではあるが甚大な被害が懸念される.
 このような平野部に伏在する活断層の有無や次の活動時期を知るためには,人工地震波による地下構造探査が有効であり,詳しい断層位置が既知の場合には断層そのものの発掘調査がさらに有効である.しかし,残念ながら静岡平野でのこのような調査は全く実施されたことがない.地震調査委員会は全国98の主要活断層帯の調査を順次進めているが,旭山撓曲や日本平断層帯のような小活断層は調査対象に含まれていない.地下構造探査は,兵庫県南部地震の際に生じた異常強震域(震災の帯)の発生原因の解明に貢献した実績をもち,より精度の高い東海地震の震度・被害予測にも有効であるため,早急な実施が望まれる.


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