静岡新聞 時評(2012年6月22日)

県内の放射能汚染地図

  除染や避難のヒントに(ハザードマップとしての役割)

小山真人(静岡大学防災総合センター教授)

 筆者は、福島原発由来の放射性微粒子による静岡県内の汚染状況をつぶさに野外調査した上で、その結果を地図に描いて公表している。調査は昨夏から始め、昨秋には県や市町の担当部署に結果を速報した。それ以降も新たな測定結果を順次加えて地図を更新するとともに、本年5月に学会報告もおこなった。
 まず、静岡県周辺の放射線量分布の全体的な特徴としては、富士川付近より西側の県中部・西部の線量がやや高く、県東部が低い。これは岩石や土壌中にもともと含まれるカリウムやウラン起源の自然放射線量の地域差であり、原発事故以前からのものである。富士山や伊豆半島はカリウム含有量の低い火山岩の分布地域であり、本来なら国内で最も放射線量の低い土地である。ところが、細部に注目すると、事態は一変する。小田原から伊東にかけての相模湾に面した山地・丘陵や、伊豆大島の北東斜面などに、線量のやや高い地区が見つかった。その原因物質をさぐる測定(核種分析)も別途おこなったところ、大変残念なことに福島原発起源のセシウムによる汚染と判明した。ただし、その汚染の度合いは東京都区内の西部と同程度である。神奈川県中部を飛び越えて、ここに汚染の飛び地ができたのだ。事故当時の気象条件から判断して、原発のある北東側から吹いてきた風が山や丘にあたり、降雨か霧の形で汚染物質が付着したとみられる。
 その後、これらの地区から規制値を超えたり、それに近い汚染を示す農作物・水産物が次々と報告されている。つまり、この地図は地表汚染の現況を示すだけでなく、生産物の汚染も予測していたことになる。また、同地区内では雨水の移動による側溝や雨樋下などで汚染の濃縮が進行中であり、放射線量が周囲の数倍になった場所も局所的に見つかっている。
 つまり、こうした生産物や場所の汚染を今後も発見・監視し、場合によっては除染を考えるためのハザードマップとして、この地図が役に立つ。また、この地図からは、風下側の山かげの線量が低いことも判読できる。このことは同種の事故が再度福島原発や、あるいは浜岡や若狭湾の原発で新たに発生した際の避難や対策を考えるヒントになるだろう。上記の地図は以下のアドレスで閲覧できる。 http://sakuya.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/etc/Dosemap.html(または「静岡県の地上放射線」で検索)

 


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