静岡新聞 時評(2009年10月29日)

駿河湾の地震と東海地震

  ゆれも被害もケタ違い

小山真人(静岡大学防災総合センター教授)

 あるアンケートによれば、8月の駿河湾の地震(マグニチュード(M)6.5)が起きた時に、「想定されている東海地震と思った」人が約半数いるという。この「起きた時」が、ゆれ始めた時点か、ゆれ終わった時点か区別できないため、あまり良い質問の仕方とは言えない。しかし、その後いろいろな所で話を聞くと、ゆれが終わった後も東海地震だと思っていた人がかなりの数いたらしい。とんでもないことである。
 たしかに最大震度6弱の地震は、静岡県では近年なかったものだが、6弱を観測した地点は局所的であり、牧ノ原周辺の5ヶ所と中伊豆の1ヶ所のみである。しかも、今回の地震のゆれにはガタガタという感じの短周期の成分が多く、屋根瓦や石垣に被害が集中した一方で、建物を倒壊させやすいユサユサという感じの周期1〜2秒の成分が少なかったため、重大な建物被害がほとんどなかった。東海地震が発生した場合には、こんなに甘い震度と被害の分布はあり得ない。県内の平野部のほとんどすべてが震度6強か7となり、被害も甚大になる。8月の地震が終わった時点で東海地震が起きたと思った人は、東海地震を相当見くびっている人である。
 震度以外で、今回の地震が東海地震ではありえないことを示す最大の証拠は、ゆれの継続時間である。8月の地震の強いゆれは、10秒にも満たなかったことを思い出してほしい。一般に、ゆれの継続時間は、地震の規模(M)が大きくなるほど長くなる。阪神・淡路大震災を起こした地震(M7.2)も、強いゆれは十数秒に過ぎなかった。一方、東海地震はM8程度と考えられている。M8の地震にともなう強いゆれは、約1分かそれ以上続くことが経験的に知られ、高層ビルなどでは、さらに長時間の揺れが懸念されている。ゆれに翻弄される人々にとっては、永遠に続くとも思われる恐怖の時間となるだろう。
 大規模な地震は、その余震活動も大規模かつ長期間にわたるものとなる。本震から間を置かずに大きな余震が何度も続き、数が減ってきても1年程度は全く油断できない。最大余震のMは7程度と予想されている。阪神・淡路大震災クラスの余震が、県内各所の直下でゲリラ的に何度も起きるのである。
 要するに東海地震というものは、ゆれの強さと長さ、余震の規模・期間のどれをとっても、8月の地震よりケタ違いに厳しく、津波・土砂崩れ・地盤の液状化・火災などの付随する災害にも気をつかわなくてはならない。今回の地震を東海地震と勘違いした人も、そうでなかった人も、いま一度東海地震の正しい全体象をイメージし直した上で、各自の対策をチェックしてほしい。


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