静岡新聞 時評(2009年2月18日)

緊急地震速報より大切なこと

  揺れを感じたら即退避

小山真人(静岡大学教育学部教授)

 緊急地震速報には、高度利用者向けと一般向けの2種類がある。前者は、機器・列車の自動停止や工事現場等での緊急避難などに使用されており、速報の有効性にはほとんど異論がない。しかし、後者の有効性については、未だに疑問視する専門家が多い。
 そこで、筆者は同僚の村越真教授(認知心理学)とともに静岡放送と静岡県防災局の協力を得て、起震車を用いた一般向け緊急地震速報の効果検証実験を2度実施した。起震車は、人工の地震を体験できる部屋を荷台に備えた特殊車両である。この装置を使えば、体験者が速報と地震にどう反応するかを観察できる。
 第1回実験では、静岡大学の学生から60名程度の体験者を募り、それを4グループに分けた。速報のしくみと地震時の退避行動を事前に教示した上で地震前に速報を与えた第1グループ、事前教示なしで速報を与えた第2グループ、事前教示をしたが速報なしで地震を体験させた第3グループ、事前教示も速報もなしでいきなり地震を体験させた第4グループの4つである。速報から地震までの時間は、御前崎沖で発生した東海地震を静岡市内で体感したとの想定で約9秒に設定した。体験者たちの行動を比較した結果、事前教示と速報の両方を与えた第1グループの成績が、不意打ちにあった第4グループより良かった。つまり、9秒という短い猶予時間でも、適切な事前教示があれば速報が活かせそうだとわかった。
 そこで、第2回実験では、イメージ訓練も含む丁寧な事前教示をした上で速報も与えた第1グループ、簡単な事前教示をした上で速報も与えた第2グループ、いきなり地震を体験させた第3グループの3グループに分けた。ところが、今度は3つのグループ間に明瞭な差が見られず、事前教示や速報の有効性は確認できなかった。これはいったいどうしたことだろうか?
 実は、2つの実験では体験させた地震の波形が異なっていた。第1回実験では震度7相当の揺れをいきなり与えた。しかし、これでは現実と異なるため、第2回実験では初期微動(縦揺れ、P波)が来てから数秒後に主要動(横揺れ、S波)が来るように設定した。つまり、体験者たちは、速報の2〜3秒後にまず初期微動を感じ始め、その7〜8秒後に強い主要動を体験したわけである。体験者たちの反応を見ると、速報のあるなしにかかわらず初期微動にすばやく反応して退避行動を始めた者が多く、そのためにグループ間の差が出なかったようである。現実の東海地震でも,県内では速報と初期微動の到達時刻に大差はなく、初期微動の方が速報より早い場合もありえる。つまり、地震の揺れを感じたら、速報の有無などは気にせず、とにかく危険物から離れる等の退避行動を徹底することが肝要である。


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