静岡新聞 時評(2008年5月15日)

しずおか防災コンソーシアム

  災害に備える知の組織

小山真人(静岡大学教育学部教授)

 本年2月25日の本紙夕刊に「静大が防災教育"事業化"/講座コーディネート・データベース整備・科目充実、公開も/県や気象台参加」という見出しの記事が掲載された。このプロジェクトを進める一人として、経緯と現状を解説しておきたい。
 かつて筆者は、2004年4月22日の本コラムで「(大学に)地域にとって重要な専門家や分野が欠けていたとしても,それを補って地域社会のニーズに応える仕組みがなかった(中略)しかし、国立大学の法人化によって明瞭な形での地域貢献が求められるようになり,大学も生まれ変わろうとしている」と書いた。
 この頃から実際に静岡大学は、災害時における危機管理や地域連携を目的とした「防災・ボランティアセンター」や、全学生を対象とする分野横断的講義「地震防災」を立ち上げたり、学生を災害ボランティアとして派遣する等の取り組みをおこなってきたが、人的資源や予算上の措置は依然として十分得られず、活動は限定的なものにとどまっていた。
 しかし、関係者の努力によって、ついに文部科学省から特殊要因経費(政策課題対応経費)「防災教育の地域連携を通した多面的展開と拡充」が、今年度から4年間交付されることになった。このプロジェクトは、大学内の防災教育・研究を強化し、防災に強い卒業生を総合大学ならではの様々な業界に供給する一方で、静岡県防災局と連携して県内の防災関連組織を「しずおか防災コンソーシアム」という一つのネットワークで結び、情報と人材の交流を図りながら地域の防災力を一層高めることを目指している。
 災害に強い社会の実現のためには、防災に関心をもつ理学・工学・人文社会科学・医学・教育等の様々な分野の専門家と、行政・市民の間の協力関係が必須である。ところが、こうした専門家は、その分野の幅広さゆえに多数の組織・部局に分散しており、横の結びつきが必ずしも密でなかった。このため、行政や市民が専門家の協力を得ようとしても、個人的な細い人脈に頼るしかなかった。
 今後はコンソーシアムの設置によって、防災に関する県内のあらゆる資源とニーズの交通整理が可能となる。行政や市民は、直面する課題に対して即座に適任の専門家から支援が得られるようになり、学生や生徒は自分の大学や学校の教員からだけでなく、さまざまな現場での体験実習を含む、多様な専門家の生の授業を受けられるようになる。
 静岡大学は、このコンソーシアムの事務局として、専任教員を配置した「静岡大学防災総合センター」を設置準備中である。地域の防災ホームドクターと言うべき、この組織の今後の活躍に期待してほしい。


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