静岡新聞 時評(2008年3月25日)

分かりにくい防災情報名称

  意味や重大性伝わらぬ恐れ

小山真人(静岡大学教育学部教授)

 公的機関から発表される防災情報にはさまざまなものがあるが,その名称には意味や重大性のわかりにくいものが多い.たとえば,東海地震注意情報と東海地震予知情報のどちらがより深刻かを答えられる人は,いまだに多くないだろう.正解は後者(警戒宣言とほぼ同等)であるが,なぜ2つの名称はそれぞれ「東海地震注意報」と「東海地震警報」ではダメなのだろうか? あるいは,昨年10月から一般市民向けにも流されるようになった緊急地震速報は,なぜ「地震警報」と呼ばれないのだろうか? そのほうが,ずっとわかりやすいではないか.
 実は,こうした情報の名称は気象業務法による制約を受けており,気象庁の予報・警報義務を定めた条項に,わざわざ「地震及び火山現象は除く」という文言が明記されていた.つまり,気象庁は,地震・火山現象に対しては予報・警報を出せなかったのである.これは,法律の制定当初において地震・火山現象の予測が困難だったことによる.
 しかし,その後の科学技術の発展により,いまや東海地震は直前予知の可能性があるとされ,緊急地震速報も出せるようになり,噴火予知にも成功例がある.しかし,法律が古いままだったことから,注意報・警報というストレートな名称が使えず,わかりにくく長たらしい名称になっていたのである.
 その気象業務法が昨年12月にようやく改正され,地震動と噴火について予報・警報が出せるようになった.しかし,この「地震動」は,あくまで緊急地震速報(地震発生直後に出される,揺れに対する早期警戒情報)を想定したものであり,地震発生そのものの事前予測は警報義務から除外されている.つまり,東海地震に対して,注意報・警報の名称は使えないままなのである.
 一方,噴火予報・警報についても奇妙な点が散見される.ひとつには,気象や津波など他の現象に対して当然のごとく出されている注意報は,火山に対して出されない方針だという.また,「噴火予報」は,火山が平穏無事であることを知らせるためだけの情報名称となっている.さらに,噴火警報に広い意味(噴火予報以外の警報すべて)と狭い意味(居住地域への警報)の2つがあるなど,将来の混乱の元が放置されている.
 役人は,既存の法律との整合性を重視するあまり,用語の使い方が,しばしば市民の感覚と著しく遊離する.そのために情報自体が理解されにくくなっては元も子もない.ことが起きて犠牲者が出る前に,わかりやすい情報体系を構築してほしい.


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