静岡新聞 時評(2007年3月14日)

まだまだあるあるニセ科学

  注意深い検証で見抜こう

小山真人(静岡大学教育学部教授)

 さる民放番組によるダイエット法のデータねつ造が暴かれて大問題になっている.しかし,様々なニセ科学は,他の番組・週刊誌・書籍・インターネットなどの多様なメディアを通じて広く社会に浸透している点を指摘したい.
 データねつ造は,証拠さえつかめば誰が見てもニセモノとわかるものが多いため,まだマシである.より深刻なものは,実験方法やデータの取り扱い方を誤る(あるいは故意に操作する)ことによってトンデモない結論を得るニセ科学である.そうしたものは,見た目には厳密そうな科学の顔をもつことが多く,場合によっては専門家がすっかりだまされることすらある厄介なものである.
 中でもデータ数が多く偶然に支配されやすい現象,たとえば地震活動,結晶の形,人や動物の行動,薬品の効き方などを扱う時は,通常の統計学の適用だけでは不十分な場合もあり,正しい結論を得るためには比較対照実験,二重盲検法,四分割表を用いた考察などの注意深い検証が必要である.
 ところが,実験方法やデータの取り扱い方の不備に気づかないまま,そのトンデモない結論が「信者」を集めてしまった不幸な事件が後を絶たない.古くは算数教育を施したとされた馬が,驚くべき的中率で計算問題を解いて大騒ぎになった事件がある.何のことはない,馬がごほうびのエサ欲しさに出題者の癖を見抜いていたことが後に判明した.
 雲や虹の形,動物の行動などから高確率で地震を予知したという話を昔からよく聞くが,やはりデータの扱い方を誤っている場合が多い.扱いさえ甘くすれば,たとえばパチンコの玉の出方やプロ野球の試合結果など,およそ何の脈絡もない現象からも地震予知ができるようになる.
 最近では,水に汚い言葉を見せて凍らせると汚い形の結晶ができるというトンデモない実験結果を載せた本がベストセラーになり,その話が科学的事実として小学校の道徳の授業で使われるというお粗末な例もあった.
 そのほかにも,数少ない体験談に支えられた怪しい薬,健康食品,開運グッズ等が販売されたり,体に良いという確かなデータがないにもかかわらず,マイナスイオン家電製品なるものが業界ぐるみで製品化されたり,枚挙にいとまがない.血液型性格診断も,日本人信者が異常に多いニセ科学であるが,血液型が入社試験の採点基準のひとつとされた例もあり,不当な差別に行き着く場合もあるので笑い話では済まされない.ニセ科学には十分な注意が必要なのである.


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