静岡新聞 時評(2006年2月7日)

建築年数で分かる耐震性能

  強度偽装事件が教えること

小山真人(静岡大学教育学部教授)

 静岡県民にとってはすでに常識かもしれないが,自分の住まいの耐震性能を簡単に知る方法があることをご存じだろうか? それは建築年を思い出す,あるいは調べるだけで済む方法である.
 建築基準法の耐震基準は1971年(昭和46年)と1981年(昭和56年)に大きく改正され,そのつどより高い耐震性を備えさせるようになってきた.このことにより,きわめて大ざっぱに言うと,日本にいま建っている建築物は,その耐震性能から(1)1971年以前の建築物,(2)1971〜1981年の間の建築物,(3)1982年以降の建築物,の3つのグループに分けることができる.施工不良や無理な増改築等の違反がなければ,(3)の建物は少なくとも震度6強に耐えられることになっている.一方で,(1)の建物の多くは,震度5強に耐えられるかどうかさえ保証されていない.つまり,建築年さえわかれば,自分の住まいがどのグループに属し,どの程度の耐震性能をもつかを大まかに知ることができるのである.
 実際に,阪神・淡路大震災で倒壊した建物の多くは(1)か(2)に属していた.さらに,建物の耐震性というものは年を経るにつれてどんどん劣化していくので,それを維持するためには時おり補修や補強が必要である.(1)や(2)に属する木造住宅にお住まいの方々は,静岡県の進めるTOUKAI-0(倒壊ゼロ)計画にもとづいて専門家による耐震診断を無料で受けることができ,さらには耐震補強計画の作成や工事に補助金が出ることになっているので,ぜひ自分の住む市町村の役場に尋ねてほしい.
 ところで,いま大変な問題になっている耐震強度偽装物件は,最近建築された建物,つまり本来もっとも耐震性能が高いはずの(3)のグループでありながら,(1)または(2)の建物と同等の耐震強度しかもたないことが問題とされている.現行の耐震基準を満たしていないから,明らかに違反建築なのである.ところが皮肉なことに,(1)や(2)に属する建物は,現行基準をさかのぼって適用できないため,耐震性が低くても違反建築とはみなされない.よって,強度偽装物件のように使用禁止命令が出て,居住者が退去させられることはない.
 しかし,それは単に過去の基準が甘かっただけということである.(1)や(2)の建物に住んでおられる方々は,それが強度偽装物件と同等の耐震性しか持たないであろうことを,くれぐれもお忘れないようお願いしたい.


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