静岡新聞 時評(2005年10月4日)
小山真人(静岡大学教育学部教授)
昨年6月に,国が主導した富士山ハザードマップ検討委員会の最終報告書とハザードマップ試作版が公表されたことは記憶に新しい.その後,この試作版をベースとした住民用の正式版ハザードマップが,富士山麓の自治体によって次々と作成・配布されている.一方,国は地元自治体および学識者とともに防災対策の細部の検討を続け,その成果である「富士山火山広域防災対策検討会報告書」をこの9月に公表した.その全文は内閣府のホームページで閲覧できる.
わが国最初の総合火山防災ハンドブックとも言えるこの報告書は,富士山に噴火の兆候が現れた場合の情報発信・避難対策から噴火後の復旧・復興対策まで,その具体的指針を段階を追って呈示するとともに,平常時からの防災基盤づくりの方策を長期的な視点でまとめたものである.とくに,火山との共生の項では,火山の自然や恵みを積極的に利用した普及・啓発活動や観光・地域振興プロジェクトの重要性が説かれ,その具体的施策や実践例が紹介されている.今後は,この報告書をベースとした地域防災計画の策定や長期的なまちづくり活動が行政と住民の両方の立場から展開され,それが富士山だけでなく全国の火山地域へと広まっていくことを期待したい.なお,関連した動きとして,今年4月に静岡・山梨両県の17市町村によって,県境を越えた「環富士山火山防災連絡会」が設立されたことは注目に値する.
そうした一連の流れに協力すべく,私たち専門家もいくつかのプロジェクトを始めている.今年4月28日のこのコラムで東京ディズニーシーにある人工火山プロメテウスの精巧さと価値について紹介したが,その後ディズニーファン(講談社)9月号の特集として同火山の見学ガイドを掲載して頂くことができた.画期的な内容なので,未読の方はぜひバックナンバーを取り寄せてほしい.また,日本火山学会が編集した2006年版カレンダー「躍動する地球」が10月5日に発売予定であり(誠文堂新光社から刊行),一般書店での注文・購入が可能である.日本と世界の火山が織りなす美しい風景写真とその解説を集めたもので,火山学会のホームページで見本が閲覧できる.10月13日には富士宮市民文化会館において火山砂防フォーラム「火山を知り,火山と共に生きる〜広域連携を踏まえた火山防災〜」が開催される(聴講無料).富士火山との共生を行政と住民が一同に会して考える貴重な機会なので,お時間のある方はぜひ足を運んでほしいと願っている.