静岡新聞 時評(2004年10月19日)

火山解説看板,伊東に登場

  「共生」目指す活動の第一歩

小山真人(静岡大学教育学部教授)

 これまで機会ある毎に述べてきたが,火山は,長い目で見ると人間に豊かな,他に代えがたい恵みをもたらしており,まず何よりもその事実を正しく認識することが全ての火山防災の基盤となる.静岡県では,富士山麓と伊豆半島に火山の恵みが数多く存在し,中には観光や生活の資源として地域社会のよりどころとなっているものもある.ところが,残念なことに住民や観光客のほとんどは,そのことを意識していないように見える.
 たとえば,首都圏からも大勢の観光客が集まる伊東市の伊豆高原は,およそ4000年前に大室山から流出した溶岩流によって,元あった険しい地形がならされて誕生した.その際に,同じ溶岩流が海を埋め立ててできたのが,やはり著名な観光地として人を集めている城ヶ崎海岸である.大室山自体も,その美しいプリン状の形が愛され,登山リフト等が設置されて一大観光地となっているが,いったいどれほどの人がこうした地形の成り立ちを知っているだろうか.このような状況は静岡県だけの問題ではなく,日本の他の火山観光地でも同様である.
 こうした知識欠如の原因のひとつとして考えられるのが,景観や事物の成り立ちを正しく解説する施設や資料が,現地にほとんど置かれてこなかったことである.このことは,そういった資料が容易かつ豊富に見つけられる欧米の火山地域と対照的である.
 しかし,ついに日本にも美しい火山解説看板が誕生した.まちづくり活動を目的とした伊東市民有志の集まりであるNPO法人「まちこん伊東」が,大室山麓の駐車場わきに伊豆高原や大室山の成り立ちを解説する案内板を設置したのである(写真).さらに伊東市が刊行準備中の新しい市史の中にも,伊東の大地と自然がいかに火山の恵みを受けて育まれてきたかを解説する「自然環境・災害編」が計画されている.伊豆東部火山群のハザードマップが未だに不在の中にあっても,住民と行政の双方によって火山との共生を目指すまちづくり活動が始められたことは画期的なことであり,今後の発展を期待したい.
 富士山では今年6月にハザードマップ検討委員会の最終報告が公表され,それを受けて山麓の各市町村で住民用のハザードマップが作成・配布され始めている.10月24日には静岡市グランシップにおいて日本火山学会主催の公開講座「最新科学がさぐる富士山の火山防災」(登録不要,入場無料)が開催される.こうした機会に多くの県民に火山の基礎知識と理解を深めてほしいと願っている.


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