静岡新聞 時評(2026年8月18日)

山梨県東部・富士五湖の地震

 火山活動に影響与えず

小山真人(静岡大学名誉教授)

本年6月26日の夜、山梨県東部・富士五湖地方の地下20km付近を震源とするマグニチュード(以下、M)5.6の地震が発生し、山梨県内で震度6弱、本県内でも最大震度5弱の揺れが観測され、局地的な被害を生じた。その後、富士山の火山活動との関連性を心配する声が、一時的にSNSなどを通じて広まったので、この機会に解説しておきたい。

まず、「山梨県東部・富士五湖」という名称は、気象庁が地震情報を出す際に付けられる震央地の名称であり、富士山頂から北東方に30〜45km離れた大月市や上野原市までの広い範囲を指す。よって、この名称だけから富士山の近くで起きた地震と判断するのは早計である。実際に、この地震の震央は、富士山頂から30kmほど離れた都留市東部の山間部であった。

この地震が発生した山梨県東部から神奈川県西部にかけての山間部は、もともと地震活動が活発である。この地震活動は、プレート運動によって南から移動してきた伊豆半島と本州との衝突による強い圧力が原因で生じている。無感の小地震が圧倒的に多いが、M5から6クラスのやや大粒の地震が数年から10数年に1度起きることがある。2012年1月にも近くでM5.4の地震が起き、やはり富士山の火山活動との関連性がSNS上で話題になった。

歴史上の経緯からも力学的な計算結果からも、火山から30kmも離れた場所で起きるM5〜6程度の地震が火山活動に大きな影響を与えることは、まず無いので安心してほしい。一方で、真に心配すべきは、東日本大震災発生の4日後の2011年3月15日に富士山のほぼ直下で起きたM6.4の地震のようなケースである。この地震の震央は山頂から7kmしか離れていない静岡県内に位置したため震央地名は「静岡県東部」となったが、富士山の地下に推定されているマグマだまりの天井を割るような位置で発生した。幸いにして噴火には至らなかったが、多くの火山学者が富士山の噴火リスクを現実のものとして感じ、現行の富士山の火山避難計画が策定されるきっかけとなった。

地震の震央地名に惑わされることなく、まずその正確な位置・深さ・規模を地図上で確認することが、それに続く全ての判断の出発点であると知ってほしい。


 

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