静岡新聞 時評(2026年2月10日)
小山真人(静岡大学名誉教授)
1707年10月28日に南海トラフを震源とする巨大地震(宝永地震)が発生した。その49日後の12月16日から富士山で大規模噴火(宝永噴火)が始まったため、南海トラフ地震が富士山の噴火を誘発した明確な事例と考えられている。その4年前に相模トラフで起きた元禄関東地震も富士山のマグマ活動とみられる群発地震を誘発したが、幸い噴火には至らなかった。この2例以外には、近隣の大地震が富士山の火山活動を誘発した明確な事例は見当たらない。
しかし、富士山以外の火山はどうであろうか。飛鳥時代の684年11月26日に西日本を巨大地震が襲った。この時代唯一の信頼すべき史料『日本書紀』に記された震度分布・地殻変動・津波の手がかりから、文献記録に残る最古の南海トラフ地震と考えられている。その記述の直後に「(地震が起きた日の)夕方、鼓のような音が東から聞こえた。伊豆嶋の西北2面が自然に300丈余り増えて一つの島になったという。その音は神が島を作る響きである」(要約)とある。「伊豆嶋」がどの島かは不明だが、地震と同日に伊豆諸島のどこかで噴火が起きたと考えるのが自然だろう。
以前この記述は伊豆大島の「S2噴火」による海岸線の拡張と解釈されたが、その後のデータ蓄積により、噴火の発生年代は4世紀頃に訂正された。他に該当しそうな候補は、神津島の北岸に沿って神戸山など3つの溶岩ドームを噴出した噴火であり、7〜9世紀頃の年代測定値があるので684年発生と考えて矛盾はない。3つのうち2つの溶岩ドームが海にせり出した姿は、先の記述とも合う。
つまり、684年の南海トラフ地震は神津島の噴火を誘発したらしい。この時は溶岩ドームの噴出が主体で島外への影響は限定的だったとみられるが、神津島は838年にも大噴火を起こし、静岡県内を始め、遠くは北陸や近畿地方まで火山灰を積もらせた。神津島の隣の新島も886年に大噴火を起こしたとされ、翌887年には再び南海トラフ地震が発生した。ちなみに832年には三宅島、838年頃には伊豆大島も規模の大きな噴火を起こした。
以上の歴史からわかるように大地震が伊豆諸島の噴火と連動することがある。次の南海トラフ地震が富士山だけでなく、伊豆諸島も含む近隣火山の噴火を誘発する可能性は常に考えておくべきである。