静岡新聞 時評(2025年8月14日)

トカラ列島の群発地震

 本県周辺にも類似例

小山真人(静岡大学名誉教授)

6月下旬から鹿児島県のトカラ列島近海で激しい群発地震が生じ、一時は住民の一部が島外避難する事態となった。7月下旬に至って小康状態となったが、終息に向かうかは定かでない。この海域では数年に1度程度の群発地震が繰り返されてきた。トカラ列島自体が火山列島であるため、マグマ活動が原因の可能性もあり、いつかは震源域のどこかで海底噴火が起こるかもしれない。

これと類似した状況は本県の近海や沖合にもある。伊東沖では1978年以降、しばらくは毎年のように群発地震が発生し、1989年には海底噴火が起きて新たな火山(手石海丘)が生まれたことで、それまで謎だった群発地震の原因がマグマ活動と確定した。

2000年には神津島・新島の近海で激しい群発地震が起きた。この群発地震は同じ年の三宅島噴火を起こしたマグマの一部が西側に移動した結果、別のマグマ活動を誘発させたとみられており、一時は神津島と三宅島の間に新たな火山の誕生が懸念された。そうした事態とならずに終息したのは幸いであったが、この海域の群発地震もトカラ列島と同様に繰り返す性質があるため、将来どうなるかは見通せない。

一方、伊東沖のマグマ活動は今世紀に入って低調となり、2011年を最後に14年間、まとまった群発地震は起きていない。しかし、伊東付近の海岸隆起を調べた最近の研究によって、この地域には過去3000年間に4度のマグマ活動期があり、現在は19世紀から続く第4の活動期の中にあることがわかった。よってマグマ活動の再開に備えた準備は必須である。残念なことに、気象庁が設置し、伊東沖の群発地震やマグマ活動の予測に絶大な威力を発揮してきた東伊豆町奈良本の地殻ひずみ計が昨年10月に故障したまま復旧のめどが立っていない。もともと職人芸的な技術によって設置されたため、その技術の継承が危ぶまれる今では、新たな設置自体も困難とのことである。そのため気象庁は他の観測機器を用いた代替手段を検討中であるが、ひずみ計を基準としている現行の地震活動の見通し情報や火山情報の精度は下がる可能性があり、それに基づく住民避難計画への悪影響も懸念される。

このような状況を踏まえ、県内とその周辺の地震・火山活動への備えの意識を、県民は一層高く保ち続けてほしい。


 

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