静岡新聞 時評(2004年6月22日)

喫煙と耐震の問題

  他人の安全への配慮を

小山真人(静岡大学教育学部教授)

 昨年5月1日から施行された健康増進法第25条においては,「学校,体育館,病院,劇場,観覧場,集会場,展示場,百貨店,事務所,官公庁施設,飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は,これらを利用する者について,受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において,他人のたばこの煙を吸わされることをいう)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」とされている.
 これに対応して静岡大学では昨年7月から禁煙・分煙措置を開始し,今年4月からキャンパス内はすべて原則禁煙となって,人気のない屋外に設けられたいくつかの喫煙所以外での喫煙が厳しく禁じられている.私は昨年度,学生委員として大学内の喫煙所設置場所の検討に関わったおかげで,受動喫煙の被害が起こりやすい場所の見極めに敏感になることができた.
 ところが,大学外においては,健康増進法の施行から1年以上が経過した今も,受動喫煙の被害に対して無責任と言わざるを得ない状況が続いている.例えば,厚生労働省の通達によって鉄道駅は上記条文の対象施設に含められているが,JR各駅のホームの喫煙場所はいまだにホームの中ほどにある場合がほとんどであり,そこを通過する大勢の乗客に受動喫煙を強要している.静岡市内のある駅でも,喫煙場所をあと20m東に移しさえすれば階段下の人通りのない場所とできるのにそれをせず,毎日大勢の通学児童に受動喫煙させている状況は酷いものである(写真).この種の例は駅に限ったものでなく,レストランや店の入口付近に喫煙席・喫煙所があるために出入りする客のすべてに受動喫煙させるなど,枚挙にいとまがない.
 このような状況は,一部の人間の嗜好や都合が他者の安全を害する可能性に考えが至らないという浅慮に根ざしているように感じられる.これに類似した浅慮は,防災においても未だに解決の糸口の見えない問題を引き起こしている.それは,建物やブロック塀の耐震補強に対する無関心である.例えば,静岡県防災局によれば,旧建築基準で建てられ耐震性能に問題があると思われる古い木造建築物が県内に約60万棟あるが,そのうちで耐震診断の済んだものは未だに1割に満たないという.耐震に問題のある家は,自分と家族の命を危険にさらすだけでなく,道路をふさぎ,延焼を招き,街全体を重大な危機に陥れる可能性をもつ.他者の安全を気遣う心をもって,禁煙や耐震をいま一度考え直すべき時ではないだろうか.

写真:静岡市内のJR駅ホームの中ほどにある喫煙所.この右側に階段があり,この左側には通勤・通学時間帯に臨時出口が設けられるため,大勢の学童がここを通過し,受動喫煙を強要される結果となっている.右側の階段下に移せば何の問題もなくなるのに,それをしていない.


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