静岡新聞 時評(2023年11月29日)

鳥島近海「謎の津波」

 海底火山噴火が原因か

小山真人(静岡大学未来社会デザイン機構教授)

本年10月5日に伊豆諸島の鳥島近海でマグニチュード(M)6.5の地震が発生したため、伊豆諸島に津波注意報が発表され、実際に八丈島で20センチの津波が観測された。ここまでは過去にも経験済みの小さな事件が起きたに過ぎないが、その後の展開は予想外のものとなった。

同じ震源域で同月9日に小地震が多発したが、Mが4〜5と小さかったので津波予報・警報は出されなかった。ところが、八丈島で70センチ、本県では南伊豆と伊東で10〜16センチなど、伊豆・小笠原諸島と千葉県から沖縄県にかけての太平洋沿岸で津波が観測され、後追いで津波注意報が発表される事態となった。

通常の津波は、地震を起こした断層のずれによって海底が上下して発生するため、断層の深さ・形状・ずれの向きと大きさなどから津波の高さや広がりが予測できる。M5以下の地震なら通常は津波の心配はない。つまり10月9日の津波の直接の原因として地震は考えにくい。地震以外の津波の原因として最も考えやすいのは火山活動である。実際に2018年12月のインドネシアの火山噴火にともなう山体崩壊や、昨年1月のトンガ近郊の爆発的噴火が原因で生じた津波の被害は記憶に新しい。

鳥島の北にある須美寿島の近くには火山活動で生じた海底カルデラがあり、地下のマグマがカルデラの底を時おり隆起させるため、過去何度か小さな津波を起こしたことが知られている。しかし、今回の津波の発生域は「鳥島リフト」と呼ばれる溝状の地形をもち、大型の海底火山の存在は知られていなかった。

この謎を解く鍵は、鳥島リフトの北隣のスミスリフトにある。その海底には小さな火山群の存在が知られており、筆者も乗船した深海掘削調査の結果、2000メートル以上の水深による高水圧にもかかわらず爆発的な噴火をした証拠が確認されている。おそらくこうした火山が鳥島リフトにも存在し、爆発的な火山噴火を起こした結果、津波を発生させたのかもしれない。それを裏づける軽石が近くの海上で10月下旬に発見・採取され、リフトの南縁に新たにカルデラ地形も発見された。今後より大きな噴火が起きれば、被害をともなう津波が予告なく発生する恐れもあるため、注視していく必要がある。

 


 

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