静岡新聞 時評(2023年9月27日)
小山真人(静岡大学未来社会デザイン機構教授)
1970年代後半から活発化した伊豆東部火山群のマグマ活動は、毎年のように群発地震を引き起こすとともに1989年7月の伊東沖海底噴火も発生させた。この活動を起こしたマグマが、伊東周辺の大地を40〜60センチも隆起させたことをご存知だろうか。伊東付近では1930年頃にもマグマ活動に伴う群発地震があり、それに伴って30センチほどの隆起も生じた。つまり、伊東の大地は過去100年間に1メートル近く高くなったのである。これらの事実は、近代以降の測量技術によって明らかになった。
一方、伊東付近の群発地震は19世紀にも2度起きたことが文献史料からわかるが、その詳細や18世紀以前の発生史は不明であった。研究者として歯がゆい思いを抱いていたが、このたび産業技術総合研究所など他機関の助力を得て新しい手法を導入し、解明の突破口を開くことができた。
海面すれすれの岩場にはフジツボやゴカイなどの生物が暮らしている。海岸が隆起した場合、それらの殻は海面より高い場所に上昇して残るため、その標高を測れば隆起量を測定できる。こうした殻の密集層を伊東付近の海岸で4層確認できた。つまり、隆起は大きく4回に分けて起き、どの回の隆起量もほぼ1メートルである。間欠的な隆起は大地震で生じることもあるが、伊豆周辺の過去のいずれの大地震にも対応しないため、4回の隆起の原因はマグマ活動とみられる。
それぞれの層に含まれる殻の年代を測定したところ、もっとも下にある層が19世紀以降、2層めが14世紀後半〜17世紀前半、3層めが7世紀〜8世紀初頭、もっとも上にある層が約3000年前の隆起にそれぞれ対応することがわかった。
つまり、伊豆東部火山群には過去3000年間に4回のマグマ活動期があり、19世紀以降が最新の活動期に相当する。2011年を最後として伊東沖の群発地震は低調となり、隆起も停滞していることから、1970年代後半から続いたマグマ活動の活発化は一区切りついたように見える。しかしながら、長い目で見れば依然として現在も19世紀から続く活動期の中とみるのが自然である上、近隣の大地震と前後して活発化を繰り返す傾向もあるので、近い将来の活動再開に備えた対策は必須である。