静岡新聞 時評(2023年6月7日)

手薄な県内の防災専門家

 組織的な雇用と育成を

小山真人(静岡大学未来社会デザイン機構教授)

本県やその周辺は地震・津波の被害をたびたび受けてきた地域であり、富士山などの活火山もひしめいている。豪雨・土砂災害への目配りも必要である。こうした自然災害リスクに対しては、基礎研究に裏付けられた各種ハザードマップを整備した上で、それにもとづく具体的被害の推計と、それらを軽減する防災施策の策定が必須となる。この作業を進めるには地域に精通した専門家集団の助力が必要だが、その実態はどうであろうか。

このような専門家集団は、地元の大学や研究機関に属し、地域の防災を自分ごととして考えられる研究者が主体となるのが望ましい。1970年代末において自然災害を専門とする研究者は県内にほぼ皆無であったが、その後の社会的要請や各方面の努力によって少しずつ数が増えた結果、いまだ欠けている分野があるとは言え、各種の防災関連会議の有識者として一定数の県内研究者が名を連ねるようになった。この体制を継承するためには、これらの研究者が手元で後継者を育成できればそれに越したことはないし、かつての大学では特定分野に世代の異なる専門家を複数採用することで、同じ分野の後継者を育てる仕組みがあった。

しかしながら、国の方針転換によって厳しい予算と人員の削減が長期間課せられ続けた結果、同じ分野の専門家を複数雇用する余裕が大学から全く失われただけでなく、特定の研究者の定年や異動によって、その専門分野自体が大学から消滅することも日常茶飯事となっている。ちなみに本年度末で定年を迎える筆者も例外ではなく、来年度から火山防災を専門とする常勤教員は静岡大に不在となる。さまざまな局面で存在感を放つ本学の防災総合センターであるが、専任教員はわずか2人であり、私も現センター長も兼任教員として業務を支えているに過ぎない。

こうしたことは、地域に自然災害をテーマとした研究機関があれば、ある程度は解決できる問題だ。山梨県には富士山科学研究所、神奈川県には温泉地学研究所があり、頼もしいメンバーが多数揃っている。しかし防災先進県であるはずの本県の火山防災研究者は、私の他に富士山世界遺産センターの1人を数えるのみであり、他分野も似たような状況にある。こうした現状を打開するため、県などが主体となって専門家の組織的な雇用や育成の手だてを進めてほしいと切に願う。


 

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