静岡新聞 時評(2023年4月12日)
小山真人(静岡大学未来社会デザイン機構教授)
一昨年の富士山ハザードマップ改定を受けた住民避難計画の改定作業が一段落し、「富士山火山避難基本計画」として3月末に公表された。避難対象エリアを旧計画の5区分から6区分に細分してそれぞれのエリアの避難方針を定めたことや、溶岩流からの避難に関する基本方針は、すでに昨年3月の中間報告で公表された通りである(昨年4月28日の本コラム参照)。今回は溶岩流以外の現象発生時の避難方針を定めるとともに、噴火シナリオや児童・要支援者の避難対策などの新たな項目を追加した上で、豊富な説明図表を盛り込みつつ全体を精緻化した。とは言え各市町村が地域の特性に合わせて計画の細部を練り上げる余地は残し、遠隔地域だけでなく近隣地域への避難方針も盛り込んだことにより、計画の名称を「広域避難計画」から「避難基本計画」へと改称した。
旧計画では厚さ30cm以上の降灰が見込まれる地域に対し堅牢な建物あるいは他地域への避難を求めていたが、重みによる建物損壊の兆候が見られない限り、原則として自宅または周辺での屋内退避に改められた。また、噴火警戒レベル1の状況下でも気象庁から「火山の状況に関する解説情報(臨時)」が発表された時点で五合目以上の登山者に下山を指示するとともに五合目以下の観光客にも帰宅を呼びかけ、さらに噴火警戒レベル3までの間に居住地域の住民にも、可能な場合の自主的な立ち退き避難を呼びかけることとなった。いずれの改定も避難者数を時間的・空間的に分散させて交通渋滞を最小限とするためである。
噴火シナリオの一例を提示したのは、噴火の発生前から終息までの状況推移と対策の流れを整理し、関係者間の共通理解を図るためである。しかしながら、火山噴火の推移は多種多様であり、台風などのように「タイムライン」を定めることは無理である。だからこそ避難時の渋滞回避を図り、自宅近くへの避難も可能にするなど、計画全体に余裕や幅をもたせた。また、他のシナリオとなる可能性も例示し、多様なシナリオを想定した訓練を繰り返す必要性も強調した。
この基本計画をもとに、今後は各自治体によって具体的な避難計画が策定されていく予定である。富士山麓の住民はどうか自分事としてとらえ、地域ごと・所属組織ごとの議論や避難訓練に参加するなど関心を持ち続けてほしい。