静岡新聞 時評(2023年2月16日)

点群データ 県が整備

 本格利用への方策を

小山真人(静岡大学未来社会デザイン機構教授)

静岡県が全国に先駆けて整備した3次元点群データ「VIRTUAL SHIZUOKA(バーチャル・シズオカ)」をご存じだろうか。点群とは地域の立体的景観を丸ごと電子的に保存したものであり、各地点の座標と色をデータ化した文字通りの「点の集合」である。点群は、航空機や自動車に搭載したり、あるいは人が背負ったりするレーザースキャナー装置によって電子的に収集される。ちなみに同装置の超小型版はスマートフォンやタブレット型端末の一部機種に搭載され、物体の3D画像の作成などに利用されている。

県は2019年度から3年間にわたって県土ほぼ全域の点群を収集し、ネット上で無償公開している。点群は建物や植生を含むものと、それらを取り去った地面のみの情報に分類されており、前者からは都市や森林・農地の状況、後者からは地盤の状況を把握できる。

点群がこれまでの電子地図と根本的に異なる点は、大方の場所で10〜20センチおきに1点という圧倒的な情報量と、それがもたらす景観の解像度の高さである。ちなみに国土地理院が公開する数値標高データは5〜10メートルおきに1点にとどまる。

点群はさまざまな分野・用途に利用できる。交通分野では自動運転や沿線の維持管理、観光分野では旅行のコンテンツ開発や仮想体験、土木・建築分野では現場の状況把握や工事後の景観推定、農林業分野では植物の生育状況把握、教育・文化の分野では学校教育での活用や山林中の文化財の発見・保護などに役立つと期待される。

点群は水深6メートル程度までの水底の情報も含むため、釣りやマリンレジャーにも役立つ。防災分野では平時の地形リスク把握に加え、災害時の状況把握や被災した建物、景観の復元への活用が期待されており、実際に一昨年の熱海土石流や昨年の台風15号による被害の迅速把握に役立てられた。

点群の整備によって、これまで膨大な労力と費用が必要だった業務が大幅に安価かつ短時間で実施可能となり、今や本県は日本のトップランナーになった。しかし、点群の利用には一定の専門知識や技能を必要とするため、普及促進の足かせとなっている。次のステップとして、点群を扱うための平易かつ安価なツールの開発や、人材の育成が必須であろう。


 

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