静岡新聞 時評(2022年12月15日)
小山真人(静岡大学未来社会デザイン機構教授)
9月23日夜から翌日未明にかけて静岡県に台風15号が接近して豪雨となり、静岡市街地では巴(ともえ)川とその流域に著しい浸水被害が生じたため、その実態調査に取り組んだ。
巴川は低標高の市街地北部を流れて清水港付近の河口にそそぐ中規模河川である。その流域では1974年七夕豪雨に代表される水害が歴史上たびたび発生したため、長期にわたって河道の拡張や蛇行の直線化などの河川改修が進められてきた。巴川を分岐して南の海岸へと導く大谷(おおや)川放水路は今回の水害の軽減に大きな効果を発揮した反面、分岐点より下流の巴川沿いの各地に被害が集中した。そこにも大内遊水地を始めとする治水施設や排水路が多数整備されてはいたが、今回の豪雨はそれらの能力の限界を上回るものであった。
氾濫の様態は大きく分けて2つあり、巴川の堤防からの直接の越水と、支流河川の堤防や河岸からの越水である。前述したように巴川本流の水位は大谷川放水路に分流されていったん下がった。しかし、その下流で長尾川や吉田川などの支流が合流して再び水位が上がり、河口付近に至る経路上の堤防高が不足した多数の箇所で越水が生じ、泥水が市街地にあふれた。
河川改修が不十分なために蛇行や川底の浅い部分が多数残っていた支流(草薙川、谷津沢川、大内観音沢など)の氾濫も著しかった。一方で、河川改修が進んでいた支流(和田川・山原川・大沢川など)も、巴川に合流する手前の勾配の緩くなった部分で氾濫した。また、支流全般として、道路や鉄道の下を通過する河道の断面積が不十分な箇所で氾濫が生じた。大内地区では東名高速道路の高架盛土が排水を妨げて浸水被害を拡大した。草薙川は国道1号線が水路上の抵抗物となってあふれ、路面上を東西に500mほど泥水が流れて家屋や事業所に被害を与えた。
次の豪雨が起きる前に、こうした被害の様相や原因にもとづいた何らかの対策を施してほしいと願う。また、巴川流域に限る話でないが、広域多発的な被害が生じ、いまだに復旧の途上にある宅地や事業所が多数あるにもかかわらず、被害が目立つ箇所だけに報道が集中しがちな点も反省すべきであろう。